天狗も人も大して変わらないらしい。それもそうか。那智とはそれこそ幼稚園に入るくらいの頃から過ごしているが、天狗だなんて思わなかった。

 一緒に笑って、泣いて、ご飯を食べて。そんな風に過ごしていたのだ。きっとこの人もそうなのだろう。

 ただ、一族の長として人間を守るという役目があるから、鈴鹿を助けてくれるだけで。当然のことなのに、ショックを受けてしまう自分がよくわからなかった。

 鈴鹿は天馬を部屋に案内し、絨毯の上にぺたりと座った。天馬を見上げて、昨日聞きそびれてしまったことを聞く。

「そういえば……これっていつまで続けるんですか? 悪しき鬼がいなくなるまで?」

 十八から力が強くなり、三十を過ぎると弱まると彼は言っていた。そうすると、三十過ぎまで鈴鹿は狙われ続けるのではないだろうか。考えるとぞっとする。

 鈴鹿が腕を摩っていると、天馬が目の前に膝をついた。

「俺がもっと強固な結界を張ることができれば、お前も守られる。だが今の状態じゃ無理だ、とだけ言っておこう」

「強固な結界を張るために、私も協力すればいいってことじゃ」

「そうだな。方法はある。人間のお前には、難しいと思うが」

 そう言った天馬は、寂しそうに微笑んだ。そして、鈴鹿の目元を手で覆い隠し、唇を軽く触れさせてくる。

 涼やかな香の匂いが鼻をくすぐる。キスはすぐに終わった。
 唾液を啜られるとパキンと高い金属音がして、昨日と同じように身体が離される。

「これでいい」

 いっさいの甘い余韻を残さずに見つめられると、なぜか胸が痛くなった。

「ありがとうございました」

 このキスは人命救助でしかないのだなと改めて思うと、彼に対して申し訳ない気持ちになった。
 彼だって、鈴鹿とキスしたいわけじゃないだろうに。

「これ……毎日だと、迷惑じゃありませんか?」

「迷惑? そんなことあるはずがないだろう? 命に代えても守ると言ったはずだ。安心していい。お前を絶対に傷つけさせないから」

 真剣な目で見据えられて、胸がおかしな音を立てる。面倒をかけて申し訳ないと思うのに、守るという言葉が嬉しくて、なんだか離れがたい気持ちにさせられた。

「そうだ。どこかに出かけるときは、必ず携帯用のSPを持っていけ。なにかあったらすぐに俺に連絡を」

 連絡先は昨日すでに交換している。
嬉しいけれど、本当にこれほど甘えてしまっていいのだろうか。天狗一族の長というならば、ほかにやらなければならないことがたくさんあるのでは。

「わかりました」