「とりあえず、すぐにお前を守れる方法が一つだけある。試してみるか?」

 万が一、天馬が悪しき鬼だった場合、鈴鹿は今頃バリバリと食われている可能性が高いのではないだろうか。
 鈴鹿が信じられないことまで見通して、丁寧に一つ一つ説明してくれた。少しくらいは信じてもいいのかもしれない。

「……はい、わかりました」

「じゃあ、しっかり目を閉じろ。開けるなよ」

 天馬が急に近づいてきて、思わず身を引く。だが、強く腰を引き寄せられて、ぎゅっと目を瞑った瞬間、唇が重ねられていた。

 思わず目を開けようとすると、彼の大きな手のひらで被われてしまう。視界は真っ暗だ。

「んん……っ!?」

 なにが起こったかを理解する前に、唇の隙間から舌を差し入れられ、唾液を絡め取るように舐められる。
 一秒か二秒か、すぐに身体は離れていった。

 なにを、とも、どうして、とも言う暇もなく、まぶたを押さえられたまま天馬が「よし、いけそうだ」と呟く。

 なにかがパキンと割れたような音が響いた。そして今までいた自分の部屋とは思えないほど、鈴鹿の周囲が清廉な空気に包まれた。言葉にされずとも、これが結界なのだと肌でわかる。

 ようやく目の前が明るくなる。目元を覆い隠していた天馬の手が離れていったのだ。

「わ、すごい……」

 鈴鹿は、天馬にキスをされたことも忘れて、周りをきょろきょろと見回した。目には見えなくとも、この場が彼の力によって守られていると感じる。

「妖力は体液に含まれるんだ。今、お前の妖力をもらった。今の俺はこの土地を守るのに力のほとんどを使ってしまっているからな」

「この方法じゃないと、だめなんですか?」

「四六時中一緒にいてもいいなら守ってやれるが、俺も難しいし、お前もいやだろう? 口づけが一番手っ取り早い。ただ、この結界は一日しか持たない」

 嘘ではなかった。彼は本当に鈴鹿を守ってくれたのだ。
 上手く言葉にできなくとも、今の鈴鹿にはそれがわかる。
 ただ──。

「どうして、私にそこまでしてくれるんですか……私の妖力が強いから? 鬼の子孫だからですか?」

「あぁ、そうだ。鈴鹿、お前の妖力があれば、俺たち一族は、千年先までここを守ることができる」