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「それで、さすがのアタクシも堪忍袋の緒が切れたのでございますわ!」

 璃世のすぐ隣で白い小さな手がテーブルを「ダンダンッ」と叩く。

(どうしたらそんな小さな手からそんな大きな音が……)

 不思議に思ったものの、火の粉が飛んでくるはごめんなので、おとなしく黙っておく。

 さっきから話を聞いて――というか聞かされているのだが、どうやらこの白ウサギはおやつのことで同居人とケンカをしたらしい。出されたお団子に『たまには違うものにいたしませんか?』と言ったら、大福を出されたという。

 「そのうえその大福を見て、アタクシによく似ているとまで言ったんですわよ! アタクシが丸々と太っているとでもおっしゃりたいのかしら!」

 白ウサギはそう叫びながら再び「ダンダンッ」とテーブルを叩いた。

 激おこウサギの隣で璃世は肌触りの良いスウェットの上下を着て、チビチビとホット抹茶ラテをすする。どちらも千里が出してくれたものだ。

 大きなくしゃみをきっかけに、千里は半ば強引に璃世を風呂場に放り込んだ。渡された着替え一式がすべてジャストサイズで驚きつつも、このままだと本当に風邪を引きそうだったのでありがたく甘えることにした。
 そうしてお風呂から上がったところで、待ってましたとばかりに白ウサギの弾丸トークが始まったのだ。

「それで相方のところから飛び出してきたからここにおいてほしい、というわけか」
「お話が早くて助かりますわね。アタクシ、もうあそこには戻りませんことよ。あんなわからずやとはやっていけませんもの!」

 そう言って赤い目を三角に尖らせ、薄桃色の鼻をズイっと璃世の方へ突き出してきた。

「ね! あなたもそう思いませんこと⁉」
「え……えぇと……、まあ……」

 気迫に押されて首をコクコクと振る。
 それで溜飲を下げたのかウサギは元の位置に戻り、お猪口のような茶器で器用に抹茶ラテを飲んだ。

(ウサギって抹茶ラテ飲めるんだぁ……)

 いや、そもそもウサギはしゃべらないのだ。

 段々とこの状況に慣れつつある自分が怖くなる。
 細かいことを気にしだすと頭が爆発しそうなので、璃世はこれ以上深く考えないことに決めた。『木を見て森を見ず』にならないよう気をつけねばと思いつつ、来たときから抱いていた疑問を口にする。

「あの……ここって、どういうお店なんですか?」
「は? そんなことも知らなかったのか⁉」  
「え! そんなことも知りませんでしたの⁉」

 さっきまでいがみ合っていたのが嘘のようなシンクロぶりに、璃世の目が丸くなる。
 
(それを聞く前に突然迫ってきたのはどこのどいつよ!)

 腹の中で憤ったけれど、これ以上面倒な事態になったら困る。とにかくここがどういうお店なのか話だけでも聞いて、それからきちんとお断りしよう。このままなにも聞かずに逃げ出したら、きっと寝覚めが悪くなる。一日の活力のために上質な睡眠はかかせない、というのが璃世の信条なのである。

 璃世は膝の上でギュッと手を握りしめ、口を開いた。