「『たっだいまー』じゃねえ! このお騒がせウサギが!」
「いやですわ、いきなりお客を怒鳴りつけるなんて。どうなっているのかしら、この店は」
「おまっ」
全然悪びれないアリスに、千里が眉を跳ね上げる。
「自分が強引にこいつを連れ出したくせに、途中で置いていくなんて自分勝手がすぎるだろうが」
「べつにわざとじゃないですわよ?!」
「あたりまえだ!」
アリスは千里の怒りから逃げるように璃世の方を見た。
「璃世、アタクシてっきりあなたがついて来ているものと思っておりましたの……。早くお店にたどり着きたくて、ちょっとだけ足が速くなってしまったのですわ」
あれが“ちょっとだけ”? と突っ込みかけたが、千里が追い打ちをかける方が早かった。
「おまえがあんなところに置き去りにしたせいでから、こいつは危なく小者に喰われるところだったんだぞ⁉」
「本当ですの⁉」
驚いたアリスが璃世の方を向いた。くもりのない透き通った目に見つめられるだけで、ついさっき文句を言ってやろうと思っていたことがどこかへ飛んで行く。璃世はなんだか言いにくいと思いつつも口を開いた。
「そう……みたい」
するとアリスの顔色がサーっと青ざめ、慌てて璃世のもとに駆け寄ってきた。
「璃世……ごめんなさい……」
見るからにシュンとうなだれたアリス。大粒のルビーかと見まごうような瞳は潤み、桜色の小さな唇が震えている。
見事なストロベリーブロンドに結われた白いレースのリボンが、なんとなくうなだれた耳に見えてしまう。
本人だって悪気があってわざとやったわけじゃないのだ。置いて行ったことを謝ってくれればそれで十分。そう告げようと口を開きかけたとき。
「どうか彼女を許してやってください」
優しげな男性の声が聞こえ、そちらに顔を向けた。
(お、王子⁉)
戸口ところに立っていたのは、物語に出てくる王子様とはかくや――というほど高貴なオーラを放つ男性。千里より少し下くらいの年頃で、プラチナブロンドがまばゆいほどにキラキラと光っている。
「彼女が大変失礼をいたしました。夫の僕からも謝罪いたします」
歩み寄ってきた男性はアリスの隣に並ぶと、そう言って璃世に頭を下げた。
「お、夫⁉」
目の前の男性を凝視する。
(ちょっと待って! 今のアリスは西洋美少女だけど、本当はウサギなのよ⁉ ってことはまさか、このひとも……)
信じられないという目を向けると、彼はにっこりと絵に描いたような微笑みをくれる。そして手に持っていた袋を「よかったらどうぞ」と璃世に差し出した。
受け取るのを躊躇していたら、アリスが袋を璃世の手に握らせる。そのまま両手をぎゅっと包んで口を開いた。
「危険な目にあわせてしまって本当にごめんなさい。これはほんのお詫びの気持ち、受け取ってくださいまし」
心底申し訳なさそうに言われ、璃世もうなずく。わざとではないのだし、こうして無事だったのだ。謝ってもらえばそれでいい。
「ありがとうございます、璃世」
そう言って抱きついてきたアリスが、璃世にだけに聞こえる声でささやいた。
「やっぱり夫婦っていいものですわよ。結婚が決まりましたら是非ご報告に来てくださいましね」
「けっ!」
アリスは「ふふふ」と意味ありげな笑みをくれた。
「用は済んだしアタクシたちはお暇いたしますわ」
「そうだね。では僕たちはこれで」
ふたりはそう言うと、つむじ風のようにあっという間にいなくなってしまった。
「いやですわ、いきなりお客を怒鳴りつけるなんて。どうなっているのかしら、この店は」
「おまっ」
全然悪びれないアリスに、千里が眉を跳ね上げる。
「自分が強引にこいつを連れ出したくせに、途中で置いていくなんて自分勝手がすぎるだろうが」
「べつにわざとじゃないですわよ?!」
「あたりまえだ!」
アリスは千里の怒りから逃げるように璃世の方を見た。
「璃世、アタクシてっきりあなたがついて来ているものと思っておりましたの……。早くお店にたどり着きたくて、ちょっとだけ足が速くなってしまったのですわ」
あれが“ちょっとだけ”? と突っ込みかけたが、千里が追い打ちをかける方が早かった。
「おまえがあんなところに置き去りにしたせいでから、こいつは危なく小者に喰われるところだったんだぞ⁉」
「本当ですの⁉」
驚いたアリスが璃世の方を向いた。くもりのない透き通った目に見つめられるだけで、ついさっき文句を言ってやろうと思っていたことがどこかへ飛んで行く。璃世はなんだか言いにくいと思いつつも口を開いた。
「そう……みたい」
するとアリスの顔色がサーっと青ざめ、慌てて璃世のもとに駆け寄ってきた。
「璃世……ごめんなさい……」
見るからにシュンとうなだれたアリス。大粒のルビーかと見まごうような瞳は潤み、桜色の小さな唇が震えている。
見事なストロベリーブロンドに結われた白いレースのリボンが、なんとなくうなだれた耳に見えてしまう。
本人だって悪気があってわざとやったわけじゃないのだ。置いて行ったことを謝ってくれればそれで十分。そう告げようと口を開きかけたとき。
「どうか彼女を許してやってください」
優しげな男性の声が聞こえ、そちらに顔を向けた。
(お、王子⁉)
戸口ところに立っていたのは、物語に出てくる王子様とはかくや――というほど高貴なオーラを放つ男性。千里より少し下くらいの年頃で、プラチナブロンドがまばゆいほどにキラキラと光っている。
「彼女が大変失礼をいたしました。夫の僕からも謝罪いたします」
歩み寄ってきた男性はアリスの隣に並ぶと、そう言って璃世に頭を下げた。
「お、夫⁉」
目の前の男性を凝視する。
(ちょっと待って! 今のアリスは西洋美少女だけど、本当はウサギなのよ⁉ ってことはまさか、このひとも……)
信じられないという目を向けると、彼はにっこりと絵に描いたような微笑みをくれる。そして手に持っていた袋を「よかったらどうぞ」と璃世に差し出した。
受け取るのを躊躇していたら、アリスが袋を璃世の手に握らせる。そのまま両手をぎゅっと包んで口を開いた。
「危険な目にあわせてしまって本当にごめんなさい。これはほんのお詫びの気持ち、受け取ってくださいまし」
心底申し訳なさそうに言われ、璃世もうなずく。わざとではないのだし、こうして無事だったのだ。謝ってもらえばそれでいい。
「ありがとうございます、璃世」
そう言って抱きついてきたアリスが、璃世にだけに聞こえる声でささやいた。
「やっぱり夫婦っていいものですわよ。結婚が決まりましたら是非ご報告に来てくださいましね」
「けっ!」
アリスは「ふふふ」と意味ありげな笑みをくれた。
「用は済んだしアタクシたちはお暇いたしますわ」
「そうだね。では僕たちはこれで」
ふたりはそう言うと、つむじ風のようにあっという間にいなくなってしまった。