「クァーッ!」
けたたましい鳴き声と共に、頭上でバサバサという羽音。
「なんだっ!」「やめろぉ!」というひしゃげた声に、璃世は恐る恐る目を開けた。するとそこには一羽のカラスが。まるで璃世のことを守ろうとしているかのように、バケモノの頭上で羽ばたいている。
よくわからないけれど助かった。今のうちに逃げなければ、と思うのに立ち上がれない。足に力が入らないのだ。
(う、うそ⁉ どうしよう……!)
焦る璃世の目の前で、黒いもの同士の攻防がくり広げられている。
カラスは羽ばたきながら何度もバケモノの頭を突いていたが、そのうち一体がカラスを手で思いきりはたき落とした。地面に落とされたカラスを、すかさずもう一体が踏みつける。
「あっ!」
思わず声を上げたら、バケモノがゆっくりと顔を上げた。眼球など見当たらない真っ黒な目が、舌なめずりするかのように璃世を見る。喉がヒュウッと音を立てた。
黒い手が璃世に向かって伸ばされた、その刹那。
間を割って入るように人影が飛び込んできた。
背中を向けているから顔は見えない。紺色の着物をたどって見上げると、頭の上に黒い毛に覆われたふたつの耳が。
「千…里、店長……」
「店長はいらん」
背中を向けたままそう返ってきた。彼の手はバケモノの腕を掴んでいる。
「まったく……客人の依頼であの白ウサのところへ行ってみれば、おまえの姿がない。迷子になるのが趣味なのか?」
「そんなわけ」
「じゃあ特技か」
「なっ!」
揶揄されたことに言い返そうと璃世が口を開いたとき。
「邪魔をするなぁぁあっ!」
雄たけびと同時にもう一体のバケモノが飛びかかってきた。
反射的に「あぶないっ!」と声を上げた次の瞬間、千里はバケモノの腕を掴んでいるのとは反対の手を振り上げる。そして目のも止まらぬ速さで、指先から伸びた長く鋭い爪でバケモノを切り裂いた。
「グァァァッ!」
「邪魔ものはおまえたちだ」
胴体を真っ二つに割られたバケモノは、その割れ目からサラサラと砂のように崩れ、あっという間に消滅した。
「俺の嫁に手を出した罪は償ってもらうぞ」
「ま、待て! わ、悪かった、おまえのものだなんて知らなかったんだ。もう手を出さない。おとなしく消えるから離してくれよぉ」
腕を掴まれたままのバケモノは、必死に命乞いをした。そのわざとらしい声と言葉に、璃世は絶対嘘だと心の中で唱える。
すると千里は「ふっ」と短く鼻で息を吐いた後、口を開いた。
「本当か?」
「あ、ああ……本当だ! 金輪際この女には近づかないぃ」
「そうか、わかった」
驚きで目を見張る璃世。まさか千里がバケモノの言葉をすんなり信じると思わなかったのだ。
けれど千里はあっさりバケモノを解放した。バケモノが再び襲いかかってくるのではと、一瞬緊張した璃世だったが、バケモノは逃げるようにどこかに消えてしまった。
けたたましい鳴き声と共に、頭上でバサバサという羽音。
「なんだっ!」「やめろぉ!」というひしゃげた声に、璃世は恐る恐る目を開けた。するとそこには一羽のカラスが。まるで璃世のことを守ろうとしているかのように、バケモノの頭上で羽ばたいている。
よくわからないけれど助かった。今のうちに逃げなければ、と思うのに立ち上がれない。足に力が入らないのだ。
(う、うそ⁉ どうしよう……!)
焦る璃世の目の前で、黒いもの同士の攻防がくり広げられている。
カラスは羽ばたきながら何度もバケモノの頭を突いていたが、そのうち一体がカラスを手で思いきりはたき落とした。地面に落とされたカラスを、すかさずもう一体が踏みつける。
「あっ!」
思わず声を上げたら、バケモノがゆっくりと顔を上げた。眼球など見当たらない真っ黒な目が、舌なめずりするかのように璃世を見る。喉がヒュウッと音を立てた。
黒い手が璃世に向かって伸ばされた、その刹那。
間を割って入るように人影が飛び込んできた。
背中を向けているから顔は見えない。紺色の着物をたどって見上げると、頭の上に黒い毛に覆われたふたつの耳が。
「千…里、店長……」
「店長はいらん」
背中を向けたままそう返ってきた。彼の手はバケモノの腕を掴んでいる。
「まったく……客人の依頼であの白ウサのところへ行ってみれば、おまえの姿がない。迷子になるのが趣味なのか?」
「そんなわけ」
「じゃあ特技か」
「なっ!」
揶揄されたことに言い返そうと璃世が口を開いたとき。
「邪魔をするなぁぁあっ!」
雄たけびと同時にもう一体のバケモノが飛びかかってきた。
反射的に「あぶないっ!」と声を上げた次の瞬間、千里はバケモノの腕を掴んでいるのとは反対の手を振り上げる。そして目のも止まらぬ速さで、指先から伸びた長く鋭い爪でバケモノを切り裂いた。
「グァァァッ!」
「邪魔ものはおまえたちだ」
胴体を真っ二つに割られたバケモノは、その割れ目からサラサラと砂のように崩れ、あっという間に消滅した。
「俺の嫁に手を出した罪は償ってもらうぞ」
「ま、待て! わ、悪かった、おまえのものだなんて知らなかったんだ。もう手を出さない。おとなしく消えるから離してくれよぉ」
腕を掴まれたままのバケモノは、必死に命乞いをした。そのわざとらしい声と言葉に、璃世は絶対嘘だと心の中で唱える。
すると千里は「ふっ」と短く鼻で息を吐いた後、口を開いた。
「本当か?」
「あ、ああ……本当だ! 金輪際この女には近づかないぃ」
「そうか、わかった」
驚きで目を見張る璃世。まさか千里がバケモノの言葉をすんなり信じると思わなかったのだ。
けれど千里はあっさりバケモノを解放した。バケモノが再び襲いかかってくるのではと、一瞬緊張した璃世だったが、バケモノは逃げるようにどこかに消えてしまった。