「できました、カラスです」
「これが、烏だと?」
 華衣の描いた絵を見て、浬烏は目をぱちくりさせた。華衣ですら分かる。これはカラスではなく、黒くて丸い何か別のものだ。
「すみません、私、絵は壊滅的に下手なんです!」
 羞恥でいっぱいになり、けれど披露してしまっては仕方ない。華衣はなぜかカラスにこだわる浬烏に、怒られると思い身をすくめた。ぎゅっと目を閉じ、怒号に備える。しかし。
「ぷっ、あははっ!」
 降ってきた笑い声に、華衣は目を開け顔を上げた。浬烏が破顔していた。それどころか、目元に涙すら浮かべている。彼は目元を自身の長い指で拭っていた。
「そんなに笑わなくても!」
 ムッとなり、思わず言い返す。
「すまない、だが……これが、華衣の烏……くくっ」
 浬烏は相変わらず背を丸め、肩を揺らして笑っている。
「もう、ひどいっ!」
 ぷいっと顔を背ける。すると、華衣の目に先ほど浬烏が折った《黒い塊》が目に入った。二つの《黒い塊》。見ていたら、華衣も笑いがこみ上げた。