「なぁノイン、本気でやる気なのかよ……?」
シエラ・グレンヴェールとの1対1の勝負。
準備をしているとトマスが心配そうに話しかけてきた。
「本気だぞ。あのロイヤルブラッドに入るチャンスだからな」
「それはそうだけど相手はあの”神速の剣姫”だぞ? 見たろ――っていうか見えなかったろ? あの速さ」
「ああ、全く見えなかった。天恵の中でも上位の強さだろうな」
さすがは最年少のSランク冒険者。持っている天恵も有用だ。いや、有用だからこそのSランク冒険者とでも言うべきか。
「……それがわかっててもやるってことは何か勝算があるのか?」
「そうだな。まぁ実際に試してみないとわからんが」
なので正直なことを言えば予想が当たれば勝てるし、外れれば負ける。それだけのことでもある。
「もしかして今やってる準備がその勝算ってやつなら……そんなので勝てれば苦労しないと思うぞ」
俺が戦いに向けて仕込みをしている様子を見てトマスが苦い顔をする。確かに俺がトマスでも同じ反応をしたかもしれない。それぐらいに拙い仕込みだ。
「ま、予想が外れたところでAランク冒険者がSランク冒険者に負けただけだ。普通のことすぎて別に失うものはない」
「確かにそりゃそうだけど……」
そんな風にトマスと会話をしていると。
「――ねぇ、いつまで待たせる気かしら?」
いい加減痺れを切らしたらしい。
こっちの準備も丁度完了したので良いタイミングだ。最後の仕上げに自身に補助魔法を掛けながら彼女の方へと向き直る。
「準備OKだ。始めよう」
あとは”神速の見ている景色”に期待するとしよう。
◇
「ノインとか言ったかしら。貴方、本気で私に勝つつもり?」
「ああ。是非ともロイヤルブラッドに入りたいからな」
ここで勝てば高収入の職を得られる。俺にとっては何よりも大事なことだ。
「私も随分と甘く見られたものね……まぁいいわ。後悔させてあげる」
そう言いながらシエラが剣を抜き、俺もそれに倣う。
シエラの武器はショートソード一本だけ。対して俺は戦闘手段は色々とあるがロングソードで立ち回ることを基本としている。1対1の戦いであればリーチのある俺に分があり、その差を活かして戦えばまず負けない。
……が、向こうには神速がある以上普通の戦闘理論は通じない。こちらがいくら気を付けようが備えようが一瞬で目の前に現れることが出来る。まさに反則的な天恵。今もお互い15歩ぐらいの距離にいるがこの距離もないようなものだ。
だから勝負は俺が勝つにせよ負けるにせよ、一瞬で決まる。
「それじゃ、一瞬で終わらせてあげるわね」
俺の予想通り、開始するなり彼女の姿が消えた。
そして次の瞬間。
「はい、これで私の勝――っ!?」
突如目の前に現れた彼女が驚いた表情になると同時に、こちらに剣を伸ばそうとしていたであろう体勢が僅かにグラついた。
それもその筈。なぜなら俺の周囲――今、彼女が立っている地面だけがやたらと水浸しになっており、かなり足元が悪くなっている。
たったそれだけのことで出来る隙なんてほんの僅かでしかない。もし実戦で咄嗟にこの隙をつける者がいるとすればそれはもう戦いの天才という他にないだろう。天才でもなんでもない俺にはまず不可能。
――だが、このタイミングで隙が生じることを知っていれば話は別だ。
狙い通りに体勢を崩した彼女の剣を力任せに弾く。そして無防備になった首筋に剣をあて――。
「これで俺の勝ちだな」
驚きの表情のまま固まっている彼女にそう宣言をした。
シエラ・グレンヴェールとの1対1の勝負。
準備をしているとトマスが心配そうに話しかけてきた。
「本気だぞ。あのロイヤルブラッドに入るチャンスだからな」
「それはそうだけど相手はあの”神速の剣姫”だぞ? 見たろ――っていうか見えなかったろ? あの速さ」
「ああ、全く見えなかった。天恵の中でも上位の強さだろうな」
さすがは最年少のSランク冒険者。持っている天恵も有用だ。いや、有用だからこそのSランク冒険者とでも言うべきか。
「……それがわかっててもやるってことは何か勝算があるのか?」
「そうだな。まぁ実際に試してみないとわからんが」
なので正直なことを言えば予想が当たれば勝てるし、外れれば負ける。それだけのことでもある。
「もしかして今やってる準備がその勝算ってやつなら……そんなので勝てれば苦労しないと思うぞ」
俺が戦いに向けて仕込みをしている様子を見てトマスが苦い顔をする。確かに俺がトマスでも同じ反応をしたかもしれない。それぐらいに拙い仕込みだ。
「ま、予想が外れたところでAランク冒険者がSランク冒険者に負けただけだ。普通のことすぎて別に失うものはない」
「確かにそりゃそうだけど……」
そんな風にトマスと会話をしていると。
「――ねぇ、いつまで待たせる気かしら?」
いい加減痺れを切らしたらしい。
こっちの準備も丁度完了したので良いタイミングだ。最後の仕上げに自身に補助魔法を掛けながら彼女の方へと向き直る。
「準備OKだ。始めよう」
あとは”神速の見ている景色”に期待するとしよう。
◇
「ノインとか言ったかしら。貴方、本気で私に勝つつもり?」
「ああ。是非ともロイヤルブラッドに入りたいからな」
ここで勝てば高収入の職を得られる。俺にとっては何よりも大事なことだ。
「私も随分と甘く見られたものね……まぁいいわ。後悔させてあげる」
そう言いながらシエラが剣を抜き、俺もそれに倣う。
シエラの武器はショートソード一本だけ。対して俺は戦闘手段は色々とあるがロングソードで立ち回ることを基本としている。1対1の戦いであればリーチのある俺に分があり、その差を活かして戦えばまず負けない。
……が、向こうには神速がある以上普通の戦闘理論は通じない。こちらがいくら気を付けようが備えようが一瞬で目の前に現れることが出来る。まさに反則的な天恵。今もお互い15歩ぐらいの距離にいるがこの距離もないようなものだ。
だから勝負は俺が勝つにせよ負けるにせよ、一瞬で決まる。
「それじゃ、一瞬で終わらせてあげるわね」
俺の予想通り、開始するなり彼女の姿が消えた。
そして次の瞬間。
「はい、これで私の勝――っ!?」
突如目の前に現れた彼女が驚いた表情になると同時に、こちらに剣を伸ばそうとしていたであろう体勢が僅かにグラついた。
それもその筈。なぜなら俺の周囲――今、彼女が立っている地面だけがやたらと水浸しになっており、かなり足元が悪くなっている。
たったそれだけのことで出来る隙なんてほんの僅かでしかない。もし実戦で咄嗟にこの隙をつける者がいるとすればそれはもう戦いの天才という他にないだろう。天才でもなんでもない俺にはまず不可能。
――だが、このタイミングで隙が生じることを知っていれば話は別だ。
狙い通りに体勢を崩した彼女の剣を力任せに弾く。そして無防備になった首筋に剣をあて――。
「これで俺の勝ちだな」
驚きの表情のまま固まっている彼女にそう宣言をした。