「今回の料金は遠征基本パック3日間の基本料に”ダンジョントラップ解除(床のみ)”と”お任せ野営設営”のオプション分を加算して――この額だな」
冒険者管理局。
依頼の受諾や報酬の受取、冒険者の認定・昇級試験、パーティの登録解散申請など、冒険者なら誰もが何度もお世話になる施設。
冒険者たちが打ち合わせや待ち合わせする為に併設されてある多目的スペースで、俺はつい先程まで加入していたパーティのリーダーに助っ人代金の請求を行っていた。
スキンヘッドに大柄な体格に見合った大斧を武器としている、Cランク冒険者のイーサン。今回が初のご利用となったお客様だ。
イーサンは提示された額を見て、ぽりぽりと頭を掻きながら。
「なぁ、ちょっとでいいから値引き――」
「駄目だ」
イーサンに言い切られる前に毅然とした態度で断る。そして渋られる前にこちらから。
「この金額にはパーティに使ったアイテム代も含まれている。内訳を説明しようか。ポーション6個中2個はダンジョンの地下2階でお前が戦闘中にも関わらずトラップに引っかかったのを手早く治療する為に使っている。3個目はお前が――」
「わ、わかった! 払う、払うから!」
そう言うとイーサンは慌てた様子で麻袋から貨幣を取り出し、俺に手渡した。
……請求額通りか。お気持ちの上乗せがないのは残念だがまぁ仕方ないだろう。
「助っ人冒険者ノイン……噂通りの実力だったが金に細かいのも噂通りだな……」
「当然だ。金の為に冒険者をやっているからな」
受け取った報酬を仕舞いながら答える。冒険者の中には有名になりたいだとか、なんとなく格好良いからだとか、ドキドキを味わいたいだとか、色々な場所に行ってみたいだとか様々な動機の奴がいるが俺はもっぱら金だ。たまたま冒険者が俺の能力に見合った稼ぎが出来る職業だっただけだ。
「でもそれなら固定パーティを組んだ方が稼げるんじゃないか?」
「そうでもないさ。固定だと成果次第で安定しないからな。例えば今回みたいな結果になったら報酬激減決定だ」
「ぐ……確かに……」
言葉を詰まらせるイーサン。
今回の遠征ではダンジョン攻略を行ったのだが、競合相手が多かったこともあり、残念ながら労力に見合った成果は得られていない。少ない成果をパーティ全員で分け合うのだから1人1人が受け取る報酬は割に合わないものになる。特にイーサンは俺への助っ人料金を考えると恐らく赤字。値引きしようとしたのもそういった背景があるからだろう。
一方で助っ人として参加していた俺はこういう状況でも事前契約通りの額を回収するので働いた分だけ相応の報酬を得られる。これが固定パーティを組まない理由だ。
「だ、だがそれならSランクパーティに入れば安定して稼げるんじゃないか?」
名案、とばかりにイーサンが提案してくるが俺は内心溜息をついた。
個人の冒険者ランクとは別に、パーティランクというものがある。
どちらもS~Fでランク分けされているところは共通だが、その認定基準や対象が少し異なる。
冒険者ランクは個人単位でのランクで、ランクアップの為には試験に合格する必要がある。そしてパーティランクの方はパーティでの活動実績と所属メンバーの能力などを冒険者管理局が総合的に判断して認定しているパーティ単位でのランクだ。
パーティランクがSともなれば普段管理局が一般には公募しない危険な依頼が直接パーティに打診されることもある。当然それらは実入りも良いので助っ人で働いている今より断然稼げるのは間違いない。
だが。
「俺は”天恵”無しのAランクだぞ。入れる訳がないだろう」
俺、ノイン・ヤクトの冒険者ランクはA。相応に実力もあるし業界内ではある程度の顔も利く。Aランクパーティであれば助っ人として呼ばれることもあるし、正式メンバーの勧誘を受けたことも多々ある。
……だがSランクパーティとなると話は別だ。所属している者は殆どがSランク冒険者。中にはSランクではない者も所属しているが、それは有用な天恵を持っているからに過ぎない。
天恵を持たないただのAランク冒険者の俺が加入を希望したところでまともに取り合って貰えないのは明白だ。
「いや、それがそうでもねえのよ」
「なに……?」
「ほら、アレだよ」
そういってイーサンが顎で指した先はパーティ募集掲示板。メンバーを募集しているパーティや、所属パーティを探している未所属の冒険者がそれぞれ条件や希望等を書いて貼り出している掲示板だが、ここからでは少し距離があるので貼り出されている各種募集の詳細までは視認することができない。
「何か良い募集でもあるのか?」
「まぁとにかく見てみろよ」
俺としては報酬も貰ったのでそろそろ切り上げたいところなのだが、イーサンが掲示板の方に歩き出してしまったので仕方なくついていく。
そして掲示板前にたどり着いた時、結果としてこの行動が正解だったと思った。
「”ロイヤルブラッド”が新規メンバーを募集だと……!?」
掲示板に貼り出されていた中に、目を疑うような募集があった。
――ロイヤルブラッド。
若干16歳にしてSランク冒険者に認定された天才"シエラ・グレンヴェール"が結成したパーティ。メンバーも「鉄壁の全方位防御」や「天眼の賢女」を始めとした錚々たる顔ぶれで、これまで攻略者ゼロだったダンジョンの踏破であったり、騎士隊ですら壊滅したドラゴンの討伐など数々の実績を残してているSランクパーティだ。
そんなところが募集掲示板を使って加入希望者を募るなんて普通では考えられないが、募集要項には管理局の許可印がされているのでこの募集は間違いなく本物。
しかも。
「天恵の有無問わず、Aランク冒険者であれば誰でも応募可……」
応募条件はたったのこれだけ。これまでの常識を覆した、間口の広い募集。
ただそれだけに応募者が殺到することは間違いなく、それを見越してか新メンバーについては『選考会』を実施して決めるという旨が記載されていた。
「この選考会次第だが、あんたにもチャンスがあるんじゃないか?」
「ああ、そうだな」
イーサンの言葉に頷く。
当然競争率は高いだろうが、俺も腕にはそれなりに自信がある。もし加入が叶えば今以上の収入は約束されたも同然だ。
「このチャンス、逃す手はない――」
冒険者管理局。
依頼の受諾や報酬の受取、冒険者の認定・昇級試験、パーティの登録解散申請など、冒険者なら誰もが何度もお世話になる施設。
冒険者たちが打ち合わせや待ち合わせする為に併設されてある多目的スペースで、俺はつい先程まで加入していたパーティのリーダーに助っ人代金の請求を行っていた。
スキンヘッドに大柄な体格に見合った大斧を武器としている、Cランク冒険者のイーサン。今回が初のご利用となったお客様だ。
イーサンは提示された額を見て、ぽりぽりと頭を掻きながら。
「なぁ、ちょっとでいいから値引き――」
「駄目だ」
イーサンに言い切られる前に毅然とした態度で断る。そして渋られる前にこちらから。
「この金額にはパーティに使ったアイテム代も含まれている。内訳を説明しようか。ポーション6個中2個はダンジョンの地下2階でお前が戦闘中にも関わらずトラップに引っかかったのを手早く治療する為に使っている。3個目はお前が――」
「わ、わかった! 払う、払うから!」
そう言うとイーサンは慌てた様子で麻袋から貨幣を取り出し、俺に手渡した。
……請求額通りか。お気持ちの上乗せがないのは残念だがまぁ仕方ないだろう。
「助っ人冒険者ノイン……噂通りの実力だったが金に細かいのも噂通りだな……」
「当然だ。金の為に冒険者をやっているからな」
受け取った報酬を仕舞いながら答える。冒険者の中には有名になりたいだとか、なんとなく格好良いからだとか、ドキドキを味わいたいだとか、色々な場所に行ってみたいだとか様々な動機の奴がいるが俺はもっぱら金だ。たまたま冒険者が俺の能力に見合った稼ぎが出来る職業だっただけだ。
「でもそれなら固定パーティを組んだ方が稼げるんじゃないか?」
「そうでもないさ。固定だと成果次第で安定しないからな。例えば今回みたいな結果になったら報酬激減決定だ」
「ぐ……確かに……」
言葉を詰まらせるイーサン。
今回の遠征ではダンジョン攻略を行ったのだが、競合相手が多かったこともあり、残念ながら労力に見合った成果は得られていない。少ない成果をパーティ全員で分け合うのだから1人1人が受け取る報酬は割に合わないものになる。特にイーサンは俺への助っ人料金を考えると恐らく赤字。値引きしようとしたのもそういった背景があるからだろう。
一方で助っ人として参加していた俺はこういう状況でも事前契約通りの額を回収するので働いた分だけ相応の報酬を得られる。これが固定パーティを組まない理由だ。
「だ、だがそれならSランクパーティに入れば安定して稼げるんじゃないか?」
名案、とばかりにイーサンが提案してくるが俺は内心溜息をついた。
個人の冒険者ランクとは別に、パーティランクというものがある。
どちらもS~Fでランク分けされているところは共通だが、その認定基準や対象が少し異なる。
冒険者ランクは個人単位でのランクで、ランクアップの為には試験に合格する必要がある。そしてパーティランクの方はパーティでの活動実績と所属メンバーの能力などを冒険者管理局が総合的に判断して認定しているパーティ単位でのランクだ。
パーティランクがSともなれば普段管理局が一般には公募しない危険な依頼が直接パーティに打診されることもある。当然それらは実入りも良いので助っ人で働いている今より断然稼げるのは間違いない。
だが。
「俺は”天恵”無しのAランクだぞ。入れる訳がないだろう」
俺、ノイン・ヤクトの冒険者ランクはA。相応に実力もあるし業界内ではある程度の顔も利く。Aランクパーティであれば助っ人として呼ばれることもあるし、正式メンバーの勧誘を受けたことも多々ある。
……だがSランクパーティとなると話は別だ。所属している者は殆どがSランク冒険者。中にはSランクではない者も所属しているが、それは有用な天恵を持っているからに過ぎない。
天恵を持たないただのAランク冒険者の俺が加入を希望したところでまともに取り合って貰えないのは明白だ。
「いや、それがそうでもねえのよ」
「なに……?」
「ほら、アレだよ」
そういってイーサンが顎で指した先はパーティ募集掲示板。メンバーを募集しているパーティや、所属パーティを探している未所属の冒険者がそれぞれ条件や希望等を書いて貼り出している掲示板だが、ここからでは少し距離があるので貼り出されている各種募集の詳細までは視認することができない。
「何か良い募集でもあるのか?」
「まぁとにかく見てみろよ」
俺としては報酬も貰ったのでそろそろ切り上げたいところなのだが、イーサンが掲示板の方に歩き出してしまったので仕方なくついていく。
そして掲示板前にたどり着いた時、結果としてこの行動が正解だったと思った。
「”ロイヤルブラッド”が新規メンバーを募集だと……!?」
掲示板に貼り出されていた中に、目を疑うような募集があった。
――ロイヤルブラッド。
若干16歳にしてSランク冒険者に認定された天才"シエラ・グレンヴェール"が結成したパーティ。メンバーも「鉄壁の全方位防御」や「天眼の賢女」を始めとした錚々たる顔ぶれで、これまで攻略者ゼロだったダンジョンの踏破であったり、騎士隊ですら壊滅したドラゴンの討伐など数々の実績を残してているSランクパーティだ。
そんなところが募集掲示板を使って加入希望者を募るなんて普通では考えられないが、募集要項には管理局の許可印がされているのでこの募集は間違いなく本物。
しかも。
「天恵の有無問わず、Aランク冒険者であれば誰でも応募可……」
応募条件はたったのこれだけ。これまでの常識を覆した、間口の広い募集。
ただそれだけに応募者が殺到することは間違いなく、それを見越してか新メンバーについては『選考会』を実施して決めるという旨が記載されていた。
「この選考会次第だが、あんたにもチャンスがあるんじゃないか?」
「ああ、そうだな」
イーサンの言葉に頷く。
当然競争率は高いだろうが、俺も腕にはそれなりに自信がある。もし加入が叶えば今以上の収入は約束されたも同然だ。
「このチャンス、逃す手はない――」