僕が一時期通っていた底辺大学の話です。
 男子学生が多くて、生徒が100人いたとして、女の子は3人いるぐらい。

 だから、毎日男同士のバカな話で盛り上がっていました。
 男子特有の下ネタが多く。
 まあ大半が女性と恋愛したことがない童貞の浅はかな知識程度です。

 僕はちょうどこの頃、後に妻となるカノジョがいたので、少し浮いた存在でした。
 ですが、もう一人例外の人物がいました。
 彼の名は陳平(ちんぺい)君。
 付き合っている女の子がいるわけではないのですが、いつも女の子をとっかえひっかえらしく。
「元カノとヤリたくて、地元から福岡のラブホまで呼んじゃった」
 なんてヘラヘラ笑って話してくるのです。

 そんな彼の生々しい話を僕は苦笑いで聞いてました。
 他の級友たちは、まだ経験がない子が多く、陳平君の武勇伝はすごく嫌われていて。
 陳平君もそれは認めていました。
「味噌村なら俺の話聞けるもんな」
 なんて公認されてしまい、僕はいつも講義中、彼の下ネタを黙って聞いていました。

「あれだよな……俺ってどんな女でも抱ける自信あるんだわ。味噌村はどう?」
 と酷い話を、僕に振ってくるので苦笑します。
「いや、彼女いるし、ないよ。好きじゃないとそういうの出来ないね」
「マジ? たまにさ、他の女の子とヤリたくなるじゃん?」
「ならないよ……」
「え? 普通ヤルよ。味噌村の考えってズレてるよ」
 真顔で言われるので、僕はどこまでが冗談なのか、さっぱりわかりませんでした。

「それでさ、俺いいこと考えたんだよ。どんだけブスでもバックでヤレば、できるってさ。これさ、超良いこと言ってるよな!?」
「えぇ……」
「だってよ。ブスでモテない子でも、俺は分け隔てなく抱いてやれるんだからさ。これを世界中の男たちに教えてやったら、みんなハッピーじゃん!」
「……」
 とにかく、彼は女性をモノ扱いするのが好きなようです。

 そんなクズみたいな男でしたが、唯一優しく接する女の子がいました。
 陳平君の妹ちゃんです。

「なあ味噌村。これ見てくんない? 俺の妹」
 ガラケーを僕に向けて、写真を見せてくれました。
「うん。陳平君にそっくりで可愛い子だね。小学生?」
「だろ? 可愛いよな! 今小学校の4年生」
 彼にもちゃんと人を愛する良心が残っているのだと、ホッとしました。

「でもさ。最近妹との距離感っつーの? わからなくなってきてよ……」
 珍しく落ち込んだ姿でした。
「あれじゃない? 思春期特有の?」
「いや、それじゃないんだと思うだよ。ずっと『お兄ちゃん、お兄ちゃん』って感じで帰省すると寄って来てたのにさ」
「ふーん。僕は妹がいないから、よくわからないな。なんかケンカでもした?」
 僕がそう問うと、彼は少し考えこみ、手のひらを叩きます。
「あ、アレかな。俺ん家さ。ねーちゃんが二人いてさ」
「うん」
「みんなさ。おっぱいが超デカいんだよ」
 唐突にまた下ネタになったので、僕は驚きを隠せませんでした。

「そ、それとなにが関係あるの?」
「多分家系なんだと思う。かーちゃんも巨乳でさ。みんなEとかGとか、超デカいんだぜ?」
「なるほど……」
 嫌な予感がしてきました。

「妹もさ。小学生のくせして、最近デカくなりすぎてよ。ブラジャーを買いに行ったんだって。それでサイズを聞いたらDカップだってよ!」
「……」
 呆れた僕は、沈黙することを選びました。
「そんなこと言われたらさ。可愛い妹じゃん? 揉みたくなるじゃん?」
「……」
「だから頼んだんだよ。『なあお願いだから、にーちゃんにおっぱい揉ませて♪』って優しく優しく言ったのに、『ダメ!』って断られたんだよ……妹なんだから揉ませてくれてもいいよな? 普通のことだろ?」
「はぁ」
 ため息をついて、僕はやっと会話に戻ります。

「あの、僕は妹いないから、わかんないけど、揉みたいとは思わないね」
 そう断言すると、彼は顔を真っ赤にして怒り出します。
「はぁ!? お前は妹いないからだよ! 可愛い妹が小学4年生でDカップとか聞いたら、揉みたくなるだろ! 普通は!」
「ないよ……」
「いーや、味噌村にもそんな妹がいたら、絶っ対『揉ませて』って頼み込むよ。俺なんかアレだぜ? 土下座もしたし、『一万円お小遣いやるから揉ませて』って頼んだね」
 自慢気に語りだす陳平君。
「そんなことまでしたの?」
「うん。それ以来かな。口を聞いてくれなくなったの。俺に揉まれまいと部屋に閉じこもってるんだぜ? 酷くない?」
「それは酷いね……」
 陳平君の接し方が、と思いました。