「アルドーザの討伐、だと?」
「はっ、この私にどうかお命じください、陛下」
俺は謁見の間で魔王ゼルフィリスに直訴していた。
魔王に反抗する一派――『覇王アルドーザ』の討伐任務を命じてほしい。
表向きは、魔王のために戦いたいという意思を示す行為だが、もちろん真の目的は違う。
ヴィムに教わった『解呪の宝珠』をアルドーザから奪い取るためである。
その宝珠があれば、俺は魔王の呪いを解くことができる。
そうなれば、魔王から離脱することができるだろう。
俺が、ゲーム通りのバッドエンドを回避するための第一歩だった。
「確かにアルドーザは我が軍と何度も敵対してきた。恭順か死か……何度か選ばせようとしたが、奴はのらりくらいと避け続けているのが現状だ」
と、魔王ゼルファリス。
「奴を討つとなれば、それなりの戦力が必要だ。下手をすれば、こちら側に大きな痛手が生じることもあり得る。ゆえに手出しできなかったのだが――お前なら、奴を倒せるか」
「無論です。心安んじてお待ちください、陛下」
俺は自信ありげに宣言する。
本当は不安な気持ちもあるけど……な。
それを表に出すわけにはいかない。
自信満々の態度で、魔王から『アルドーザ討伐』の命令を受けなければ。
「覇気のある顔だ。それでこそ魔王軍最強の暗黒騎士ベルダよ」
ゼルファリスは満足げにうなずく。
「よかろう。お前に命じる。我が敵である『覇王アルドーザ』を討ってまいれ」
「必ずや、陛下の御前に奴の首を捧げてまいりましょう」
俺は恭しく一礼した。
俺こと『暗黒騎士ベルダ』が率いる魔王軍・第一軍は最強と謳われている。
通称を『暗黒騎士団』。
「そのまんまのネーミングだよな、『暗黒騎士団』って」
城門の前で、俺は苦笑した。
これからアルドーザ討伐に向けて出発するところである。
「ベルダ様を頭にいただく最強の軍団――これ以上はないネーミングかと」
コーデリアが俺の隣に並ぶ。
その口元に微笑が浮かんでいる。
「ん? 上機嫌だな、コーデリア」
「みずから『覇王アルドーザ』討伐を進言したと聞きまして」
コーデリアが俺を見つめた。
「それでこそベルダ様だと」
「えっ」
「先日の任務ではベルダ様らしからぬ姿を見たような気がしましたが、どうやら考えすぎだったようですね」
ああ、疑い深そうに俺をにらんでたもんな、コーデリア。
今回の討伐進言で、俺に対する不信が一気に信頼に変わったのかもしれない。
「アルドーザは強敵だ。頼むぞ、コーデリア」
「ベルダ様の足を引っ張らないよう精進いたします」
「確かアルドーザってめちゃくちゃ兵隊が多いんだろ? 中盤のシナリオで苦労した覚えがあるぞ」
俺はソシャゲ『エルシド』の内容を思い出しながら言った。
ゲームシナリオでは、『覇王アルドーザ』は主人公の勇者に討伐されることになる。
その際の戦いで、アルドーザは無限ともいえる兵団を繰り出し、一度は主人公も敗退を余儀なくされる。
いわゆる負けイベントである。
今回は俺が主人公の代わりにアルドーザに挑む格好になるんだろうか。
だとすれば、同じように『無限の兵団』と戦うことになるわけだが――。
「いくら俺でも無限に出てくる敵を一人で倒すのは厳しい。そうなると部下の働きがキーポイントになるよな……」
当然、その一番手は俺の右腕にして副官――コーデリアだ。
「頼りにしてるからな」
「ベルダ様……?」
コーデリアが軽く首をかしげた。