「では、いきます――」
ラシルドの全身が青いオーラに包まれた。
「スキル【身体強化】」
腕力や脚力のような特定部位じゃなく、全身の力をくまなく強化するスキルだ。
その分、特定部位強化に比べて、筋力の増加幅は少ない。
【腕力強化】や【脚力強化】が一点特化型なら、【身体強化】はバランス型といったところか。
「おおおおおっ!」
ラシルドが突進してきた。
一点特化より劣るとはいえ、さすがに速い。
「【反応強化】【脚力強化】」
俺はまず反射速度と足の筋力をパワーアップ。
ラシルドの突進を苦もなく避ける。
「まだだっ!」
反転して斬撃を放つラシルド。
俺の方は【腕力強化】が間に合わない。
しまった、間合いを詰めさせる前に腕も足も強化しておくべきだった。
ゲーム内じゃセオリーともいえる戦い方でも、実際の戦闘になると勝手が違う。
基本的なことすら上手くできない。
がきんっ!
ラシルドの繰り出した剣を、俺は自分の剣で受け止めた。
「っ……!? うあああぁっ!?」
跳ね飛ばされるラシルド。
「あ、あれ……?」
【身体強化】しているラシルドより、俺の素の腕力の方が強い、ってことか……?
「さすが隊長……身体能力が化け物すぎますね……!」
ラシルドがよろよろと立ち上がった。
……『暗黒騎士ベルダ』ってやっぱり強いんだな。
俺はあらためて実感した。
強化なんてしなくても、大概の相手には素の能力だけで勝ってしまいそうだ。
さらに身体強化系のスキルと各種の魔法まで備えているんだから、ちゃんと力を出し切れば無敵だろう。
「そう、力を出し切ればな……」
まだ『暗黒騎士ベルダ』としての戦い方に慣れていないことが、俺にとって最大の弱点だ。
早く慣れなければ――。
「では、もう一度――いきます!」
ラシルドがふたたび突っこんできた。
「【分身】【同時斬撃】!」
スキルを二つ重ねて発動する。
同時に、ラシルドの体が五つに分裂し、さらにその五人のラシルドがいっせいに剣を繰り出してきた。
いくら俺の素の運動能力た高いとはいえ、さすがに五つ同時に受けるのは難しい。
「なら、魔法でいくか――」
俺は右手を突き出した。
「【爆風】!」
ごうっ!
名前の通り、すさまじい風が吹き荒れる。
「うあああああああああっ!?」
五人のラシルドはまとめて吹き飛ばされた。
数百メートルくらい。
「……ち、ちょっと吹っ飛ばしすぎたか」
大丈夫だろうか、ラシルド?
「つ、強すぎる……ベルダ様……完敗です……」
地面に叩きつけられたラシルドはよろよろと立ち上がるが、そこで失神してしまったようだ。
俺の圧勝である。
「やっぱりベルダ様はすごいです!」
ラシルドはさっきまでにも増して目を輝かせていた。
「それよりお前、体は大丈夫か? やりすぎてしまったみたいだ……悪かった」
「何を謝ることがありますか! 真剣勝負ですから!」
ラシルドはぶんぶんと首を左右に振った。
「ありがとうございました! 俺、今日の模擬戦を励みにして、もっともっとがんばります! もっともっと強くなります!」
「ああ、がんばれ。ラシルド」
「もっと強くなれたら――いつかまた戦っていただけるでしょうか?」
「もちろん。約束だ」
「ありがとうございます!」
ラシルドの目はキラキラしている。
めちゃくちゃ尊敬されてる感じだなぁ……。