「まずは身体能力から試すか」
俺は剣を抜いた。
「【腕力強化】」
腕の力を強化する。
剣を思いっきり振ってみた。
すると――、
ごうっ……ばきばきばきばきっ……!
目の前の空間に亀裂が走った。
「空間をも切り裂く斬撃――か。ゲーム通りだな」
これがあるため、ベルダは【腕力強化】した後は通常攻撃でもけっこうなダメージを繰り出してくる。
「次は【脚力強化】だ」
だんっ、と地面を蹴って、ジャンプしてみた。
「うおおおおおおおおっ!?」
軽く蹴ったはずなのに三十メートルくらい跳び上がってしまう。
「ふうっ……」
着地するとき、ちょっと怖かったけど、ビビってる姿を周囲に見せられない。
俺は平静を装った。
「次は攻撃スキルを試すか。周りに人がいないほうがいいよな……」
移動するか、と周囲を見回した、そのときだった。
「隊長、剣の稽古ですか」
誰かが近づいてくる。
銀髪に赤い瞳をした美しい少年だ。
額からは角が生えている。
「お前は――」
確か中位魔族でシナリオによっては主人公の仲間になるんだっけ。
ただ、その場合は途中で主人公をかばって死んでしまう。
逆に主人公の仲間にならないパターンのシナリオだと、普通に戦死する。
つまり、どうあがいても物語の途中で死んでしまう役回りである。
「ラシルド、か」
「俺の名前を憶えてくれてるんですね、光栄です!」
彼は嬉しそうに顔を輝かせた。
性格は良さそうだ。
しかも俺に懐いてるっぽいな。
こいつが、いずれ死んでしまうと思うと、なんだか複雑な気持ちだ。
いくら魔族とはいえ……こうして接していると、やっぱり情が湧くからな。
「あ、あの……」
ラシルドがおずおずと言った。
「ん?」
「い、いえ、やっぱりなんでもないですっ! すみません……」
何か言いたいことがあったようだけど、遠慮しているんだろうか。
「構わないぞ。言ってくれ」
俺は続きを促した。
「その、でも、やっぱり申し訳ないというか、俺なんかが――」
「いいよ。遠慮するなって」
俺は彼を後押しした。
「そのことで俺が君を咎めたり、罰したりすることは一切ないと約束する」
「で、では、その……」
ラシルドはそれでも遠慮がちに、
「あ、あの、一本でいいので、稽古をつけていただけないでしょうか? 俺、ベルダ隊長にずっと憧れていて、その……」
顔が真っ赤だ。
本当に、俺のことが――『暗黒騎士ベルダ』のことが憧れの的なんだろう。
「なんて、不躾すぎますよね。申し訳ありません、今言ったことは忘れ」
「分かった」
「本当に申し訳ありませんでした、隊長……って、ええええええっ!?」
反応がワンテンポ遅いな……。
「別にいいよ。剣の稽古だろ」
俺は気軽に言った。
「た、隊長が……他人に親切にしているだと……!?」
「ど、どうなっているんだ……!?」
周囲の魔族たちがどよめいていた。
「な、なんだ、俺が他人に親切にするのって、そんなざわめくレベル……?」
「天変地異も覚悟しておいた方がいいぞ」
「いや、そこまでかよ!?」