――ベルダくんは呪いを解きたいのかい?

 ヴィムの問いかけに、俺は即答しなかった。

「俺は――」

 答えを、吟味する。

 もちろん本音で言えば、解きたいに決まっている。
 魔王の呪いを受けた状態で毎日を過ごすなんて絶対に嫌だ。

 が、うかつにそうは答えられない。

『呪いを解きたい』という意思が、魔王への反逆とみなされる可能性もあるからだ。

『呪いを受けたまま働く』というのが、イコール魔王への忠誠とみなされているかもしれないからだ。
 いや、その可能性は高い。

 ならば、ここでの最適の答えは――、

「はは、そんなに警戒しなくても。僕が君の不利になるようなことを言いふらすとでも思った?」

 ヴィムが苦笑する。

「秘密は守るさ」
「ヴィム……!」
「ま、君が『呪いを解きたがっている』という前提で話すよ。ここからは私の独り言だから、君がこれを聞いても罪に問われることはない」
「……お前が罪に問われるんじゃないのか?」
「友だちのためなら、それくらいどうってことないさ」

 ヴィムは爽やかに微笑んだ。

「じゃあ、話すよ。君の呪いをどうやって解くかを――」



「『解呪の宝珠』を使うんだ」

 ヴィムが言った。

「解呪の……宝珠?」

 そのまんまなアイテム名だな。

「エルシドにそんなアイテムあったっけ……」

 うーん、俺が知らないだけなのか、それともこの世界はオリジナルのエルシドと微妙に違うのか。

「なんだい、『えるしど』って?」
「……なんでもない。話を続けてくれ」
「『解呪の宝珠』は、とある魔族が手にしている」

 ヴィムが説明を再開する。

「彼ら――『覇王アルドーザ』はゼルファリス様と対立する一派だ。次期魔王の座を狙っているという話もある。以前から魔王様は彼らの弱体化、もしくは殲滅を目論んでいる」

 ヴィムが声を潜めた。

「殲滅……」
「私だけに教えてくれたマル秘情報さ。口外しちゃ駄目だよ」
「そんな重要情報を俺にあっさり教えていいのか?」
「君は親友だから特別さっ」

 微笑むヴィム。

「で、彼らへの攻撃を近々始める予定なんだ。君がそれに志願して、戦いのドサクサにまぎれて『解呪の宝珠』を奪ってくればいい」
「……なるほど」

 分かりやすいやり方では、ある。

 それに前回みたいな人間を相手にした作戦より、魔族相手の戦いの方が罪悪感なしで戦えそうな気がする。

 いいかもしれないな。

 ……まあ、こいつの言うことを全面的に信用するのは危ないかもしれない。

 俺のことを『親友』だって言ってくるけど、ヴィムが信用に値する相手なのかどうか、判断する材料が少なすぎるからな。

 ゲーム内でもベルダとヴィムの仲が良かったり、親友だったなんて設定は聞いたことがないし。

 情報は情報としてありがたく受け取りつつ、行動はもう少し慎重に検討したほうがよさそうだ。



 ――とりあえずの方針は決まった。

 俺はヴィムと別れると、城の外に出た。
 他にもやることは色々とある。

 まずは――。

「自分の能力について正確に把握しておかないとな」

 つまりスキルテストだ。