「なぜ任務を果たさなかった、ベルダ?」
俺は魔王に問い詰められていた。
ここは謁見の間。
俺はコーデリアとともに床に跪き、玉座の魔王を見上げている。
「我が命令は村の殲滅だ。だがお前は村人を一人も殺さずに戻ってきた」
切れ長の目で俺をにらむゼルファリス。
美人が怒ると迫力が三割増しくらいになるなぁ……。
俺はそんなことを呑気に考えていた。
「彼らは逃げてしまいましたゆえ」
「追いかけて殺せばよかろう。お前の腕なら造作もないはず」
「魔獣ラゼルヴの対処で手が塞がっておりました」
俺は魔王を見上げた。
「申し訳ありません、陛下」
うーん……やっぱり怒られるよなぁ。
内心でつぶやく。
「ですが……魔獣の暴走には不審な点があります」
「――ほう?」
魔王が片眉をぴくりと上げた。
「軍の方で万全に調整された魔獣がなぜ突然暴走したのか? それも私の任務中に、まるでタイミングを合わせるかのように――」
俺は一気にまくしたてる。
まくしたてながら、あらためてエルシドの設定を思い起こす。
このゲームにおいて魔王軍は一枚岩ではない。
魔王に反目する者。
魔王に忠誠を誓う者。
さらにその中でもいくつかの派閥に分かれ、ときには他の足を引っ張ることもある。
もちろん、魔獣の暴走が仕組まれたものだという確証はない。
ただ、こうやって思わせぶりなことを言っておけば、もしかしたら――。
「……ふむ」
魔王の表情がわずかに変わった。
何か心当たりでもあるんだろうか。
きっとあるだろうな。
ゲーム内の設定や魔王軍の事情はだいたい知っているから、適当に思わせぶりなことを言っておけば、相手の方が勝手に深読みしてくれる。
これは俺にとって大きなアドバンテージだ。
「怪しむべき点を感じ、戻ってきたわけか」
「村一つを殲滅するなどいつでもできること。ですが、魔王軍の中に陛下の意志に背き、陛下の命に反する者がいるなら、これを見つけ、討滅することこそ急務、と」
「……考え合ってのことか」
「無論です。我が剣は、常に陛下のためにのみ振るわれます」
俺はしれっと言ってのけた。
即興だけど――意外とノリノリで話せたことに、自分でも驚く。
俺、こういう役を演じるの、結構好きなのかもしれない。
「申し訳ありませんでした、ベルダ様」
コーデリアが深々と頭を下げた。
「そのような深謀遠慮があるとは存じもせず、あたしはあなた様を疑い――この罪、万死に値します。どうかいかようにも罰してくださいませ」
言って、彼女は両膝をついて俺の前にかしこまった。
「いや、お前の立場からすれば疑うのは当然だ。よく俺を諫めてくれた」
俺は彼女に微笑んだ。
「そ、そんな、あたしは――」
「お前はかけがえのない副官だ。今後も頼りにしているぞ」
「っ……! は、はいっ」
コーデリアが顔を赤らめる。
ん、なんかポーっとした顔で見つめられてるな。
ゲーム内ではこの二人って反目したままなんだよな、確か。
けど、今のコーデリアは明らかに俺に対して好感を抱いているように見える。
必ずしもゲーム通りの関係性にはならない、ってことだろうか。
だとすれば、朗報だ。
俺の行動次第でゲームの内容を変化させられるなら――。
俺が死んでしまう運命を回避できるかもしれないからな。
いや、必ず回避してみせる。