地下道内には無数のモンスターが生息していた。

 本来のゲームシナリオであれば、主人公の前に立ちはだかる敵たちだ。
 モンスターの戦闘能力はその時点の主人公がある程度苦戦するくらいになっていたはず。

 けれど、今の俺のレベルやステータスは――。

「【上級斬撃】! 【旋風刃】!」

 剣術や風魔法のスキルで、次々にモンスターを蹴散らしていく。
 ほとんど瞬殺だった。

「つ、強い……」

 コーデリアは半ば感心、半ば呆れたような様子だった。

「並の魔族ではとても突破できないような難易度に思えますが……さすがにベルダ様ですね」
「いや、まあ……」

 真正面から褒められると、どうにも体がこそばゆくなる。

 ともかく、俺たちはいっさい苦戦せず、苦労もせず、あっという間に出口近くまでやって来た。

 そこで一つの宝箱を発見した。

「これは――」

 宝箱を開けると、宝玉が入っていた。

「どういうアイテムなんだろう? あ、そうだ、【鑑定】スキルがあったな」

 俺は【鑑定】を発動した。
 すると、

――――――――
名称:超加速の宝玉(仮)
※未実装アイテムです。詳細を表示できません。
――――――――

「えっ……?」

 確かに『超加速の宝玉』なんてアイテムは見たことがない。
 未実装アイテム、ってのは、たぶんそのままの意味だろう。

『エルシド』には実装されていないアイテム――。
 驚きつつも、俺はとりあえずそのアイテムを回収した。

 念のため、装備はしないでおく。



 俺たちは地下道をさらに進んだ。

「もうすぐ出口だ」

 俺はコーデリアに言った。

「よく分かりますね。確かに、出口が近いような雰囲気はありますが」
「カンだよ、カン」

 この言い回し、けっこう便利かもしれない。
 コーデリアに怪しまれたら、基本的に『カン』で乗り切るか。

 ……ちょっと安直な考えかな。

「どうかしましたか、ベルダ様?」
「いや、なんでもない。進もう」

 ――そのとき地面が激しく揺れた。

「きゃっ……」

 コーデリアがバランスを崩して倒れそうになる。
 俺はとっさに彼女を抱きとめた。

「大丈夫か、コーデリア?」
「あ、は、はい……っ」

 彼女の顔は真っ赤だった。

「どうした?」
「い、いえ、ちょっと近い……かも……」

 などとつぶやいている。

「コーデリア?」
「し、失礼しました。その、あたしは男性に免疫がなくて……あの、抱きしめられたのも初めて……」
「あ、すまない……」
「いえ、ベルダ様はあたしを助けてくださったので」

 コーデリアがぶんぶんと首を左右に振る。

「ただ、気恥ずかしかっただけなんです……」
「そ、そうなんだ」

 彼女がここまでうろたえるのは、ちょっと意外だ。

 ――また、地面が激しく揺れた。

「これって、もしかして」

 そうだ、確かこんな演出だったな。
 地下道が三回か四回くらい揺れて、その後に――。

「フロアボスが出てくる……!」