「あたしは――魔界の辺境の出身です」
「ん?」

 突然、出自の話をし始めたコーデリアに戸惑う俺。

 とはいえ、無関係の話ではないんだろう。
 黙って聞くことにする。

「あるとき、そこに魔王軍の一隊が現れました。あたしの住む町は魔王様に敵対する勢力の拠点だったからです。その隊を率いていたのは――あなたです、ベルダ様」
「俺……?」

 俺が現代日本から転生する前の『暗黒騎士ベルダ』がやった、ってことか……。

「拠点を守る魔族を、ベルダ様はたった一人で蹴散らしました。ほとんど皆殺しだったはずです。その中には――軍属だったあたしの父と母もいました」
「っ……!」

 俺は息を飲んだ。

 ベルダとコーデリアにそんな関係性があったなんて知らなかった。
 少なくともゲームでは見たことがない。

「じゃあ、俺はお前の仇……なのか」
 俺は彼女を見つめた。
「――そうです」
「俺を殺したいか?」

 ストレートに聞いてみた。
 わざわざ今、そんな話をする意図が知りたかったのだ。

「……あたしではベルダ様を殺すことなどできません。仮にあたしが五人いても、あなたの足元にも及びませんから」

 それだけの実力差があることは確かだ。

「じゃあ、お前が俺を襲わないのは『勝算がない』からなのか?」
「だと言ったら、どうします?」

 コーデリアが俺を見つめ返す。

「あたしを殺しますか? それとも拷問でもしますか? 犯しますか? あるいは魔獣の餌にでも?」
「い、いや、どれもちょっと……」

 俺は汗ジトで言った。

「――で、本当の理由はなんだ?」

 話の流れからして、たぶんコーデリアが俺を殺そうとしないのは『勝算がないから』ではないんだろう。

 それに以前は俺に対していい感情を持っていなかった様子の彼女が、ここしばらくは少し好感度が上がっている気がするんだ。

 俺がベルダとして転生してきたからなのか。
 俺が彼女の命を救ったからなのか。
 あるいは――。

「……話はここまでです。行きましょう」
「えっ」

 俺はコーデリアを見つめる。

 俺たちの関係性の一端は分かった。
 けど、結局彼女は俺をどう思っているんだ?

「あなたがその拠点を守る軍属の魔族たちを殺したのは、魔王様の命令――あなた自身の意志ではないのでしょう? 実際、ベルダ様は民間人にはまったく手を出しませんでしたし」

 と、コーデリア。

「だからといって、両親を殺したあなたを許す……という話にもなりません。分かりますよね?」
「ああ、当然だろう……」
「あたしは、あなたに対していくつもの感情があります。仇としての。上官としての。そして、あたしを救ってくれた恩人としての」

 コーデリアの眼光に鋭さが増した。

「あなたがあたしにとってどういう存在なのか。どのような気持ちを向ければいいのか――それは、今後の行動で決めていきたいです。今はまだ……あたし自身にも分からないので……」
「分かった。とりあえず、今は作戦遂行に集中しよう。それでいいかな?」
「……承知しました」

 そして、俺たちは地下道を進む。