俺は妹のアルマと共に食事を終えた。

 さすがに魔王軍で大きな力を持つ『暗黒騎士ベルダ』の城だけに、料理も豪勢だった。
 はっきり言って、前世の日本でもこんな豪華で美味しい料理は食べたことがない。

 異世界転生さまさまである。

 まあ、異世界転生したことでピンチになっていることもあるんだけど……バッドエンド回避とか。
 それはそれとして、食事はありがたくいただいた。

 その後、アルマと歓談していると、

「お兄様、明日には人間界に行ってしまうのですね」

 悲しげに告げる彼女。

 憂いを含んだ美貌にはゾクッとする。
 キャラクターとしては兄妹の関係でも、俺の意識の中でアルマは完全に他人だからな。

 魅力的な美少女、という感情が大部分だ。

「ああ、留守を頼むぞ」
「アルマは寂しいです……」
「……たまに帰るよ」
「やだやだやだ! もっと頻繁に帰ってきてください!」

 急に駄々っ子みたいに首をぶんぶん振るアルマ。

「親に可愛がってもらえばいいだろう」
「お父様もお母様も……毎日肖像画に語り掛けていますけど、返事を返してくださりませんもの」

 アルマが寂しげな表情を浮かべた。

 あれ、もしかして――。
 ベルダとアルマの両親って、すでに死んでいるのか?

 しかし、それを彼女にたずねると怪しまれるしな……。

「でも、お兄様は魔王様の片腕ですものね。きっとお父様もお母様もあの世で喜んでくださってます」

 あ、やっぱり故人なのか。
 あやうくボロを出すところだった……。

「そうだな。父上と母上のためにも俺はもっともっと手柄を立てる」

 と、アルマに言う俺。

「さすがです」

 アルマがにっこり笑って俺に抱き着いてきた。

 正直ドギマギしてしまった。
 ……顔には出さなかったけどな。



 アルマは俺と話し終えると、自室に引き上げていった。

 今夜はコーデリアと一緒に夜通し話すのだとはしゃいでいた。
 いわゆるパジャマパーティ……そういうところは女の子らしいなぁ、とほっこりする。

 で、俺はバルコニーから空を見上げていた。

 一面に広がる暗い空。
 そして真紅の月。

「魔界……か」

 異世界の人間社会に転生し、さらにそこから別の世界へとやって来た。

 こうして一人でいると、自分がどこにも拠り所のない存在に思えて、どうしようもなく不安になる――。