やはり、ここはエルシドの世界らしい。
ゲームの世界に入ってしまった、ってことか?
だけど、それなら、俺の姿まで変わっているのは変だ。
あるいは――。
ゲームにそっくりの世界に『生まれ変わった』とか?
小説や漫画なんかで時々見かけるネタだ。
それなら姿が変わっていることにも、いちおうの説明がつく。
まあ、どちらにせよ……あるいは、別の事情にせよ、俺が今『暗黒騎士ベルダ』として、エルシドそっくりの世界に存在していることは確かだ。
そのことについて、俺は不思議なほどすんなりと受け入れることができた。
もともと、現代日本にあまり未練がなかったからかもしれない。
来る日も来る日もブラック企業に勤め、ただ働き続けるだけの毎日。
キツい仕事が終わりなく続き、日々の喜びなんて何もない、疲労と苦痛、そして虚無――そんな毎日。
あるいは、俺は喜んでいたのかもしれない。
あの日々から『解放』されたことに。
とはいえ、バラ色の人生に変わったわけじゃない。
とりあえず、問題が二点ある。
まず一点目にして最大の問題。
それは、俺がゲーム内の中盤イベントで死んでしまうことだ。
そう、暗黒騎士ベルダは主人公によって殺されるのだ。
もしこれが夢じゃなく現実ならば――。
俺が殺されるという結末だけは絶対に避けなければならない。
そして、二つ目の問題
暗黒騎士ベルダは魔王ゼルファリスによって『呪い』を受けている。
自分の命令に絶対服従させるための呪いだ。
ゲーム内では一度、ベルダはゼルファリスに反逆し、自らが魔王になろうとして『呪い』の力でそれを阻止される――という場面がある。
このときもベルダは呪い殺される寸前だった。
この『呪い』にも十分気を付けないとな。
魔王の命令に反したり、意志に背いた場合には『呪い』による処罰を受ける可能性がある。
「あーあ、なんで悪役なんかに転生したんだろうな……」
俺はため息をついた。
「何かおっしゃいましたか、ベルダ様?」
隣でコーデリアが怪訝そうにたずねる。
「……なんでもない」
俺は首を左右に振った。
やっぱり……信じられないくらい綺麗な女の子だな。
彼女の美貌につい見とれてしまう。
全然女っ気がない人生を歩んできたせいか、こんな美少女が側にいるだけでテンションが上がってしまう。
ゲームそっくりの世界に転生した(かもしれない)という異常な状況にも、比較的冷静でいられているのは、俺自身のテンションが上がっていることも大きな一因だろう。
コーデリアの存在が、俺にとって一種の精神安定装置になっていた。
それはそれとして。
「気が進まないなぁ……」
「先ほどからどうされたのですか、ベルダ様」
コーデリアが不審そうに俺を見た。
「ご様子が少々……その」
「い、いや、えっと、体調が悪くてさ」
「任務に支障があるようでしたら、あたしが代わりに村人を皆殺しにしてきましょうか? たかが一つ二つの村を殲滅する程度の任務、あたしと魔獣だけで……いえ、あたしだけでも十分すぎます」
と、コーデリア。
「皆殺しなんて……簡単に言うなよ」
思わず俺は口を出してしまった。
「ベルダ様?」
ますます不審そうな顔をするコーデリア。
とっさに言ってしまったけど、怪しまれたよなぁ。
でも、こんな可愛らしい女の子が簡単に『村人を皆殺しにする』なんて言われて、思わず言ってしまったんだ。
「とにかく、任務は俺がやる。君は待機だ。いいな?」
「……ベルダ様がそう仰せでしたら」
コーデリアは従順に従った。
俺は一部隊を率いて、目標の村までやって来た。
部隊構成は俺とコーデリア、二十名ほどの魔族兵、そして魔獣が一体だ。
一時間ほどの行程を経て、目的の村にたどり着いた。
「う、うわぁぁぁぁ、魔族だぁぁぁっ!」
「ひぃぃぃぃぃっ!」
村人たちがパニックになっている。
うーん……どうしよう。
もちろん、殺すなんて無理だ。
絶対無理だ。
「ベルダ様、村人が逃げます!」
コーデリアが叫んだ。
「魔王様の命令は『皆殺し』です。一人でも逃がせば……任務未達成となり、罰を免れませんよ」
「ならば、我らが――」
数名の兵が村人を追いかける。
「あ、おい……!」
兵たちは、あっという間に村人に追いつき、その背中に剣を投げつけて――。
「やめろぉっ!」
その瞬間、俺は飛びだしていた。
体が、熱くなる。
なんだ、この感覚は――。
「力だ……」
つぶやく。
俺の中から、あふれる力。
この力の正体を、俺は知っている。
たった今、思い出した。
いや、あるいは――。
『暗黒騎士ベルダの記憶』が俺の中に唐突に現れた、というべきなのか。
ともあれ、
「【制止】【物理防御】」
俺は二つの魔法を同時に発動した。
兵たちの動きが止まり、村人の背中に当たった剣が、がきん、と跳ね返される。
一つ目の魔法で兵たちの動きを止め、二つ目の魔法で村人を剣から守ったのである。
これが――俺の魔法。
『魔法剣士』である暗黒騎士ベルダの、力か。
ゲームの世界に入ってしまった、ってことか?
だけど、それなら、俺の姿まで変わっているのは変だ。
あるいは――。
ゲームにそっくりの世界に『生まれ変わった』とか?
小説や漫画なんかで時々見かけるネタだ。
それなら姿が変わっていることにも、いちおうの説明がつく。
まあ、どちらにせよ……あるいは、別の事情にせよ、俺が今『暗黒騎士ベルダ』として、エルシドそっくりの世界に存在していることは確かだ。
そのことについて、俺は不思議なほどすんなりと受け入れることができた。
もともと、現代日本にあまり未練がなかったからかもしれない。
来る日も来る日もブラック企業に勤め、ただ働き続けるだけの毎日。
キツい仕事が終わりなく続き、日々の喜びなんて何もない、疲労と苦痛、そして虚無――そんな毎日。
あるいは、俺は喜んでいたのかもしれない。
あの日々から『解放』されたことに。
とはいえ、バラ色の人生に変わったわけじゃない。
とりあえず、問題が二点ある。
まず一点目にして最大の問題。
それは、俺がゲーム内の中盤イベントで死んでしまうことだ。
そう、暗黒騎士ベルダは主人公によって殺されるのだ。
もしこれが夢じゃなく現実ならば――。
俺が殺されるという結末だけは絶対に避けなければならない。
そして、二つ目の問題
暗黒騎士ベルダは魔王ゼルファリスによって『呪い』を受けている。
自分の命令に絶対服従させるための呪いだ。
ゲーム内では一度、ベルダはゼルファリスに反逆し、自らが魔王になろうとして『呪い』の力でそれを阻止される――という場面がある。
このときもベルダは呪い殺される寸前だった。
この『呪い』にも十分気を付けないとな。
魔王の命令に反したり、意志に背いた場合には『呪い』による処罰を受ける可能性がある。
「あーあ、なんで悪役なんかに転生したんだろうな……」
俺はため息をついた。
「何かおっしゃいましたか、ベルダ様?」
隣でコーデリアが怪訝そうにたずねる。
「……なんでもない」
俺は首を左右に振った。
やっぱり……信じられないくらい綺麗な女の子だな。
彼女の美貌につい見とれてしまう。
全然女っ気がない人生を歩んできたせいか、こんな美少女が側にいるだけでテンションが上がってしまう。
ゲームそっくりの世界に転生した(かもしれない)という異常な状況にも、比較的冷静でいられているのは、俺自身のテンションが上がっていることも大きな一因だろう。
コーデリアの存在が、俺にとって一種の精神安定装置になっていた。
それはそれとして。
「気が進まないなぁ……」
「先ほどからどうされたのですか、ベルダ様」
コーデリアが不審そうに俺を見た。
「ご様子が少々……その」
「い、いや、えっと、体調が悪くてさ」
「任務に支障があるようでしたら、あたしが代わりに村人を皆殺しにしてきましょうか? たかが一つ二つの村を殲滅する程度の任務、あたしと魔獣だけで……いえ、あたしだけでも十分すぎます」
と、コーデリア。
「皆殺しなんて……簡単に言うなよ」
思わず俺は口を出してしまった。
「ベルダ様?」
ますます不審そうな顔をするコーデリア。
とっさに言ってしまったけど、怪しまれたよなぁ。
でも、こんな可愛らしい女の子が簡単に『村人を皆殺しにする』なんて言われて、思わず言ってしまったんだ。
「とにかく、任務は俺がやる。君は待機だ。いいな?」
「……ベルダ様がそう仰せでしたら」
コーデリアは従順に従った。
俺は一部隊を率いて、目標の村までやって来た。
部隊構成は俺とコーデリア、二十名ほどの魔族兵、そして魔獣が一体だ。
一時間ほどの行程を経て、目的の村にたどり着いた。
「う、うわぁぁぁぁ、魔族だぁぁぁっ!」
「ひぃぃぃぃぃっ!」
村人たちがパニックになっている。
うーん……どうしよう。
もちろん、殺すなんて無理だ。
絶対無理だ。
「ベルダ様、村人が逃げます!」
コーデリアが叫んだ。
「魔王様の命令は『皆殺し』です。一人でも逃がせば……任務未達成となり、罰を免れませんよ」
「ならば、我らが――」
数名の兵が村人を追いかける。
「あ、おい……!」
兵たちは、あっという間に村人に追いつき、その背中に剣を投げつけて――。
「やめろぉっ!」
その瞬間、俺は飛びだしていた。
体が、熱くなる。
なんだ、この感覚は――。
「力だ……」
つぶやく。
俺の中から、あふれる力。
この力の正体を、俺は知っている。
たった今、思い出した。
いや、あるいは――。
『暗黒騎士ベルダの記憶』が俺の中に唐突に現れた、というべきなのか。
ともあれ、
「【制止】【物理防御】」
俺は二つの魔法を同時に発動した。
兵たちの動きが止まり、村人の背中に当たった剣が、がきん、と跳ね返される。
一つ目の魔法で兵たちの動きを止め、二つ目の魔法で村人を剣から守ったのである。
これが――俺の魔法。
『魔法剣士』である暗黒騎士ベルダの、力か。