「よし、じゃあ行くぞ」
俺たちは一晩、英気を養うと、覇王アルドーザの領地に向けて出発した。
アルドーザに関しては雑談を装って、コーデリアやアルマから追加で情報を仕入れておいた。
まあ、その大半はゲームですでに知っている情報だけど――。
覇王アルドーザ。
魔界でも屈指の広大な領地を持ち、またそれに比例した強大な権勢を誇る魔族である。
現在行われている魔王の『人間界侵攻作戦』には参加せず、魔界を防衛する任務についている。
……ということになっているが、実際は人間界に出向き、手薄になっている魔王城を虎視眈々と狙っている、という噂もあるようだ。
きな臭い情勢である。
俺が進言したアルドーザ討伐作戦があっさりと了承されたのも、その辺の事情が関係しているようだ。
さらに、俺自身のスキルについても昨晩のうちに確認しておいた。
今までじっくりとスキルを確認する暇がなかったからな。
さすがにゲーム内でもトップクラスの強さを誇る『暗黒騎士ベルダ』だけあって、超強力なスキルが目白押しだった。
特にゲーム内で猛威を振るったあのスキルやあのスキルなんかが使えることを発見し、かなり安心した。
これならアルドーザ戦も大丈夫だろう――。
そして、俺たちはアルドーザ領に入った。
ここまで馬車での移動である。
馬車、といっても正確には魔界のモンスターが引いているんだけど。
半日ほどの行程の間、特に襲われたりすることはなかった。
まあ、こっちは魔王軍の部隊だし、当たり前か。
そして小高い丘のふもとまで到着した。
奴の城はこの先にある。
と、
「これは『暗黒騎士ベルダ』殿。我が領地によくぞおいでくださった」
突然声が響く。
見上げると、空の一角に黒い点が出現した。
その黒点がどんどん大きくなり、やがて巨人へと変わる。
「向こうから来てくれたか――」
俺は、ゲームシナリオでこいつと戦ったことがある。
身長二十メートルを超える漆黒の巨人、覇王アルドーザ。
ずんっ、と地響きを立て、アルドーザが降り立った。
文字通り見上げるような巨体だ。
「確かベルダ殿は人間界侵攻の最中かと記憶しておりましたが……こんな場所まで何用ですかな?」
アルドーザが鷹揚にたずねた。
さすがに、すさまじい威圧感を放ってくる。
魔王ほどじゃないけど、物理的な圧力さえ伴うプレッシャーは『覇王』の二つ名に恥じないものだった。
どう返答するか――。
「完全装備の一軍……まさか、私を討伐するためではないでしょうな?」
アルドーザが巨体を揺らして笑う。
その目はまったく笑っていない。
俺の目的を見抜いている感じだ。
「なら、正面から行くか」
俺は馬車から降り、剣を抜いた。
「ベルダ様?」
「みんなを下がらせろ、コーデリア」
俺は飛行呪文で空中に飛び上がった。
「こいつは俺がやる――」
いよいよ決戦だ。