「お兄様、お帰りなさいませ!」
城門を通ったとたん、一人の少女が駆け寄ってきた。
ツインテールにした黒髪に黒い瞳、そして黒いゴスロリドレス――黒一色の美しい少女である。
「君は――」
「? アルマですよ、お兄様」
彼女が微笑む。
「まさか、可愛い妹の顔をお忘れになりまして?」
『暗黒騎士ベルダ』に妹なんていたのか。
知らない設定がけっこうあるな……。
やはり敵側のキャラクターだけに、ゲームでは登場しない設定なんかもそれなりにあるんだろうか。
あるいは――。
そもそもがゲーム内の設定と完全に一致するわけじゃないのかもしれないな。
今の段階ではどちらとも分からない。
ただ後者だった場合、これから起きる出来事はゲーム内のイベントと大きくズレる可能性だってある。
どちらのパターンも留意しながら、慎重に進めていこう。
俺が行く先に死亡エンドが待ち受ける可能性は、依然として存在するのだから――。
「冗談だ、許せ」
とりあえず、アルマにはそう言っておいた。
『暗黒騎士ベルダ』のキャラ的にも、これが無難な回答じゃないだろうか。
「あら、お兄様が冗談なんて珍しい」
「あたしも、ベルダ様が冗談を言われるところを初めて見ました」
と、コーデリア。
その視線に鋭さが増したように思えたのは、気のせいだろうか。
また俺のことを怪しんでるのかもしれないな。
俺は部下たちに休息を言い渡し、城内の一室に入った。
室内には俺の他に妹のアルマとコーデリアがいる。
「お兄様、今回の敵はあの『覇王アルドーザ』様でしょう。大丈夫でしょうか……」
アルマは不安そうだった。
「あ、もちろん、お兄様の強さは存じています。魔界一強くてかっこよくて素敵で……アルマの憧れです」
この子、けっこうブラコンなんだな。
「ただ……アルドーザ様も魔界屈指の豪傑。いくらお兄様といえど、簡単な相手ではないでしょう?」
アルマが俺の腕に抱き着いてくる。
「アルマは……アルマは、心配です」
「ベルダ様のお力を持ってすれば、いかにアルドーザといえども敵ではありません。ご安心くださいませ、アルマ様」
コーデリアが言った。
「コーデリアさん、お兄様をよろしくお願いしますね」
アルマは涙目だ。
「……ただし、お兄様にちょっかいをかけるのは禁止ですよ」
「かけませんから」
コーデリアがきっぱりと言った。
「そこまできっぱり言われると腹立つんですけど。お兄様の魅力を理解していないなんて」
「ベルダ様はあくまでも上官。そういう対象ではありませんので」
「そんなこと言いながら、陰ではお兄様を慕ってるパターンでしょう? こっそりお兄様の私物を盗み出して、一人でハアハアしてたり……」
「しませんから」
コーデリアがまたきっぱりと言った。
それから俺をチラッと見る。
氷のように冷たい視線――。
……と思いきや、頬をわずかに赤らめ、照れたように『ぷいっ』とそっぽを向いた。
あ、あれ? この態度ってもしや――。