二人だけの天の川

「もうすぐ七夕だね」
 放課後の帰り道、一緒に帰っていた同じ部活の渡辺先輩が呟いた。
「そうですね、明日は七月七日」
 言われるまで忘れていたけど、そういえば。
「先生たちさ、笹を用意しているみたいだよ。生徒のみんなで願い事を書けるように」
「はあ、好きですよね、うちの先生たち」
 高校生にもなって、古風というか、文化を尊んでいるというか。
「でも今日は天気予報は曇りなんだよね、全然星は見えそうにない」
「あー、そうだった気が」
 朝、ニュースで観た天気予報では一週間ずっと曇りか雨予報。どうせなら晴れてくれればいいのに。
「夏子ちゃんはさ、天の川を見たことある?」
「ない、ですね」
 思い返しても、ほとんど記憶にない、
「へえ、この辺は綺麗な星空が見えるのに」
「不思議と不運なんですよ。晴れた年は夏風邪をひいたり怪我をしていたり」
「毎回毎回、謎の不運に邪魔をされると」
「そういう感じです」
 話が早くて助かるなー。
「それなら、夏子ちゃんは七夕が嫌いなの?」
「うーん、そうでもなくて。ロマンチックでいい話だし、普通に好きですよ」
 織姫と彦星みたいな恋に憧れがない、と言えば嘘になる。
「それならさ、晴れたら一緒に天の川を見に行こうよ」
「いや、でも曇りだって」
 お誘いは凄く嬉しいけど。
「もし晴れたらだよ。いいでしょ?」
「まあ……」
 別に断る理由もないし、とか心の中で素直じゃない事を考えて表情に出るのを阻止する私。
「決まりだね。さっきスマホで最新の天気予報をチェックしたら、明日はバッチリ雨予報だったけど」
「駄目じゃないですか!」
「あはは、だよねー」
 凄く笑ってる。最初から冗談みたいなものだったのかな。
 変に期待しちゃった私、馬鹿みたいじゃん。