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「おかえりなさいませ、イロトさま。」
使いと呼ばれる人は、僕の目の前にざっとお辞儀をする。
「…ただいま。お疲れ様です。」
ふっと笑みを零すと、使いはキラキラした目でこちらを見た。
「…お父さんはどこにいる?」
「今、夜ご飯を作っていらっしゃいますよ。」
「…………!!」
「いってらっしゃいませ。」
急いでカバンを脱ぎ捨てて、階段を駆け上がる。
お父さん…お父さん…!?
「…久しぶりの家族団欒ですもんね」「そっとしといてあげましょ」
家内の脇をすり抜け、キッチンの扉を勢いよく開ける。
見慣れたシェフの中を探るように見渡す。
「…あぁ、帰ってきたんだね。おかえり。」
お父さんを見た途端、ふっと力が抜けて床に座り込む。
「…ごめんね、例のことで残業が続いてね…。そろそろ家に研究室がいるな」
「火星に移住するならいらないんじゃない?」
「いや、それがそうでもなくてな。」