何故、こんなことになったんだろう。僕には、想像もつかない。
空の青は、教科書でしか見たことがない。街の人は皆、暗い顔をしている。
テレビは皆、同じことを言っている。火星移住計画についてだ。
「……。」
でも僕は、泣いたりしない。死ぬ運命なら、死ぬ運命でもいい。
街には喧嘩と銃とが蔓延っている。
「……っ!」「ぁあああ~ぁあああ~」「よしよし、怖いねー怖いねー」
もう生き地獄だ。
食べ物は国から支給される。科学者は、火星移住の研究を進めている。
「僕は」「俺は」「私は」
「……科学者の子供。」
そう言えば、胸につけたペンダントを見ながら、皆は後ずさる。
内閣は崩壊。今は科学者が全てだ。
科学者は優遇される存在であるために、科学者は身を守らないといけなくなる。
だから、科学者は一斉に武道を身につけ始め、平均の握力は人並外れていた。
また、その子供はこれもまた強くならなければいけないとされ、幼稚園に入るとすぐ、武道の学習をするのである。
だから、科学者に勝てるようにと人々は強くなる。
しかし。
「無理だよ。僕に勝とうなんて。」
「何考えてんの?はぁー、もう身の程をわきまえてよね。あーもー血付いちゃったじゃない!」
「科学者の子供としてのプライドもこっちにもあんの。だから邪魔しないでくれない?殺すよ?」
科学者の子供は、ある意味で可哀想だと言われる。
一般庶民に負けようものなら、スナイパーに殺される。
科学者はいつだって、頭もよく、強くなければいけない。
「そんな世間なんて…クソだ」
思わずボソッと呟いた声に、幼なじみの黄火が苦笑する。
「てか、イロトって口数少ないのに結構サイコパスだよね」
そう言いながらも、黄火はまた哀れな庶民に1発パンチを食らわせている。
「科学者の子供だからって威張ってる?は?じゃあお前もなってみる?」
「あーもー、やめて!?殺したら可哀想じゃん!」
理性を失っている那葵を相手に、すかさず黄火は止めに入る。
「…仲良しだよな、お似合いだよ」
ボソッと呟いたその言葉に、2人は気づいていなかった。
「さぁて、帰りますかー」
「そうね。はい、那葵。また麻酔薬打つわよ。」
「はぁ?てかなんでそーしなきゃいけねーんだよ」
那葵は不服そうな顔をしながら、もうシャッター通りと化した原宿ストリートに背を向けた。
昔は繁盛したと言われるここに、もうその頃の面影はない。
ポスターが、まためくれた。
「お願いします、」
僕の足元に、老婆がしがみついた。せいぜいこの見た目だと…40くらいか。
「お願いします、娘を助けてください。」
「………。」
こういうのはいけないと、小さな頃に教わった。放っておくのが、正攻法なんだと。
「秘密ですよ。」
僕は、まだ被験も終わっていない薬を老婆に手渡す。
ホームレスの扱いは酷いもんだと思う。この時代に生まれてきたことが可哀想だと思う。
「お幸せに。」
これがもし、本当に聞くのなら。助けてあげてください、僕はそう思った。
「イロト、優しいじゃん。」
「……まぁね」
別にホームレスに薬をあげようが罪にはならない。が、他のホームレスに分からないようにあげるのが、まためんどくさいところだ。
「おいおい、もう帰るぞ。俺疲れた。」
那葵が声を張り上げた。しばらく余韻が辺りに響く。
そんなこともおかまいなしに、黄火は進んでいった。
「じゃあ、僕はこれで。」
少し進んだところで別れる。
「うん。ばいばい」
また……明日。