私が結婚適齢期であることを自覚した父が、何やら数日考えごとをしていたと思ったら、いきなり私の婚約者を選抜するイベントをすると言い出した。
ゾアが言っていたように、何とか父に婿候補を募集させたいと思ってはいたものの、どういう話の持っていき方をすべきかと悩んでいたので、それはまあ良い。ただ、イベントと言ってる時点でもう何かおかしい。
「父……パパ、私の結婚なのになんでそんなお遊び感覚なのよ!」
私は猛烈に抗議をしたのだが、また無駄に見目麗しい父はしれっとした顔で反論した。
「バカを言うな。今後、お前の夫になるということは、未来の国王ということだぞ? 生半可な男にそんな重責が務まるとでも思っているのか? お遊びな訳がないだろう」
「っ……」
確かに娘バカではあるが、父は出来る人だ。あれでも素晴らしく有能なのだ、と以前遊びに来た祖父からも聞いたことがある。
「何しろ仕事と娘を可愛がることが最優先事項だと言うておるからのう。いかに効率的に仕事を片付けてお前と接する時間を捻出するか、というのがアジサイが亡くなってからの全ての行動原理なのだから、有能にならざるを得まい」
だから、エヴリンには過保護で少々鬱陶しいかも知れないが、嫌いにならんでやってくれ、と頼まれた。
別に父が嫌いな訳ではない。大好きだ。
ただ私だって人生のパートナーぐらいは好きな人と一緒にいたい、というささやかな願いぐらいは持っていても良いではないか。
まあ探せば他国にもいるかも知れないが、少なくともこの国にいる竜族は私たち家族だけで、更には子供が産める年齢なのは私だけなのだ。子孫を残したい気持ちも分かるが、もう少し私の考えも尊重して欲しい。
だけど父の言うことももっともだ。治世は遊びではないのだし、国王の重責だってあるのだろう。そこが頭の痛いところだ。
グレンだって腕も立つし頭だって切れる。
身長も一九十センチは越えているし鍛え上げた筋肉もあり逞しいし、ついでに言えば私好みの温和で整った顔立ちで性格も懐広くて優しい。
他国との会合だって見下されることはないはずだ。……昼間の会合でさえなければ。
「まあエヴリンが結婚相手として誰のことを考えているのか予想はつくが、私は客観的に見て、最終的に国を任せられる器のある奴しか許さんぞ。いくら娘を愛しているからといって、何でもはいはいと許していたら国は立ち行かん。お前も王女なのだからそれぐらいは分かるだろう?」
私を見ていた父がニヤリと笑った。
「なっ、そんなこと分かる訳ないじゃないのっ」
「──エヴリン、この十七年間、一番近くで娘を見守っていた父親が、娘の思い人に気づかないとでも思うのか? あー、良く引っ剥がしたりしたなあ、誰かさんの背中から。毎回苦労したぞ、あれは」
グッと言葉に詰まる。だが、考えてみれば子供の頃は確かにバカ正直に好き好きアピールはしていた。隠すことなんて考えたこともなかったし。それは分かっても当然かも知れない。
「それならパパッ──」
「だが、分かっていても贔屓はしない。資格があれば受け入れるし、なければ申し訳ないが別の男と結婚してくれ。それが国を守るという責務を負う王族という立場なのだ。別に嫌がらせで言っている訳ではない。子供が産まれない場合もあるだろうが、その時には私かお前の夫が国を任せられる人材を育てれば良いだけだ。少なくとも王女としてのエヴリンには跡継ぎを産む努力をするという責任があることを忘れるな」
「……そうよね……」
王族で一人娘なのに好きな相手と結婚したい……私の言っているのはただのワガママなのは分かっているのだ。
落ち込む私を見て、父は苦笑した。
「お前の思い人がこの婚約者選びのイベントに参加するかどうかも分からないのだろう? エヴリンの片思いだったという場合もあるし、ま、立候補してきたら密かに応援すれば良い。──上手く行くかは運次第だが」
ぽむ、と私の頭に手を乗せると、父はさあて、どうなるかなー、などと呟きながら執務室に戻って行った。
ゾアが言っていたように、何とか父に婿候補を募集させたいと思ってはいたものの、どういう話の持っていき方をすべきかと悩んでいたので、それはまあ良い。ただ、イベントと言ってる時点でもう何かおかしい。
「父……パパ、私の結婚なのになんでそんなお遊び感覚なのよ!」
私は猛烈に抗議をしたのだが、また無駄に見目麗しい父はしれっとした顔で反論した。
「バカを言うな。今後、お前の夫になるということは、未来の国王ということだぞ? 生半可な男にそんな重責が務まるとでも思っているのか? お遊びな訳がないだろう」
「っ……」
確かに娘バカではあるが、父は出来る人だ。あれでも素晴らしく有能なのだ、と以前遊びに来た祖父からも聞いたことがある。
「何しろ仕事と娘を可愛がることが最優先事項だと言うておるからのう。いかに効率的に仕事を片付けてお前と接する時間を捻出するか、というのがアジサイが亡くなってからの全ての行動原理なのだから、有能にならざるを得まい」
だから、エヴリンには過保護で少々鬱陶しいかも知れないが、嫌いにならんでやってくれ、と頼まれた。
別に父が嫌いな訳ではない。大好きだ。
ただ私だって人生のパートナーぐらいは好きな人と一緒にいたい、というささやかな願いぐらいは持っていても良いではないか。
まあ探せば他国にもいるかも知れないが、少なくともこの国にいる竜族は私たち家族だけで、更には子供が産める年齢なのは私だけなのだ。子孫を残したい気持ちも分かるが、もう少し私の考えも尊重して欲しい。
だけど父の言うことももっともだ。治世は遊びではないのだし、国王の重責だってあるのだろう。そこが頭の痛いところだ。
グレンだって腕も立つし頭だって切れる。
身長も一九十センチは越えているし鍛え上げた筋肉もあり逞しいし、ついでに言えば私好みの温和で整った顔立ちで性格も懐広くて優しい。
他国との会合だって見下されることはないはずだ。……昼間の会合でさえなければ。
「まあエヴリンが結婚相手として誰のことを考えているのか予想はつくが、私は客観的に見て、最終的に国を任せられる器のある奴しか許さんぞ。いくら娘を愛しているからといって、何でもはいはいと許していたら国は立ち行かん。お前も王女なのだからそれぐらいは分かるだろう?」
私を見ていた父がニヤリと笑った。
「なっ、そんなこと分かる訳ないじゃないのっ」
「──エヴリン、この十七年間、一番近くで娘を見守っていた父親が、娘の思い人に気づかないとでも思うのか? あー、良く引っ剥がしたりしたなあ、誰かさんの背中から。毎回苦労したぞ、あれは」
グッと言葉に詰まる。だが、考えてみれば子供の頃は確かにバカ正直に好き好きアピールはしていた。隠すことなんて考えたこともなかったし。それは分かっても当然かも知れない。
「それならパパッ──」
「だが、分かっていても贔屓はしない。資格があれば受け入れるし、なければ申し訳ないが別の男と結婚してくれ。それが国を守るという責務を負う王族という立場なのだ。別に嫌がらせで言っている訳ではない。子供が産まれない場合もあるだろうが、その時には私かお前の夫が国を任せられる人材を育てれば良いだけだ。少なくとも王女としてのエヴリンには跡継ぎを産む努力をするという責任があることを忘れるな」
「……そうよね……」
王族で一人娘なのに好きな相手と結婚したい……私の言っているのはただのワガママなのは分かっているのだ。
落ち込む私を見て、父は苦笑した。
「お前の思い人がこの婚約者選びのイベントに参加するかどうかも分からないのだろう? エヴリンの片思いだったという場合もあるし、ま、立候補してきたら密かに応援すれば良い。──上手く行くかは運次第だが」
ぽむ、と私の頭に手を乗せると、父はさあて、どうなるかなー、などと呟きながら執務室に戻って行った。