でも、やっぱり耳を傾けて、目を向けてあげるべきだったのだ。
 母親からのSOSを、私は全て聞き逃した、見過ごした。

 気づいたのが十五年後だなんて遅すぎた。
 後悔は、後から口惜しく思うから「後悔」なのだ。

 けれど、私は今でも思う。

 母親の言葉は、子供に対して絶対に言ってはいけなかったと。
 あの人は母親として、最低の母親だったと。

 でも、それでも、そうだとしても、花くらいは渡させてください。
 
 だって、たった一人の私の母親だから。
 今日は母の日なのだから。

 「ありがとう。お疲れ様でした」

 無数に並ぶ名前の中に小さく一つ、母親の名が刻まれた無縁墓に、赤いカーネーションの花束をそっと置いた。

 2022年 5月8日 木曜日 母の日――