ユカのEV車で
久しぶりの地元を走る。

国道を挟んで海側と、山側の
見慣れて懐かしい景色が
流れていく。

ここは、山と海が極端に近い
地域で、
空気の良さだけが取り柄みたいな
場所。

海側は古くからの地元色が強め。
山側は切り開いた
新興移住の町並みになる。

思えば
青春を謳歌するには丁度いい
ドラマっぽ風景が
日常に溢れていた場所だったんだ
と今は思う。

桜並木である展示祭。
田園続く進学道。
クラブをサボった海の家。
授業中見える紅葉のグラウンド。
霜が降りる神社にマラソン。

小、中、高と
絵になる景色と行事の
オンパレードだった。

「あの頃は気付きも
しなかったけれど、、ね。」

国道の脇の道から
程なく
ニュータウンストリートに入る。
その入口は、
いくつかの分岐があって、
1つは、
旧の住宅街へ続いて
実家がある母校の小学校区域。

もう1つは、さほど進まない
内に、
先生の塾がある区画。

ちょうどショッピングモールを
真ん中に、
反対側が
『あっちの学校』区域で、
先生の塾は珍しく、
山側の『こっちと、あっち』の
元小学生や、
海側の歴史地域の生徒が
通っていた。

「ユカんちって、新しい処なん
だ。旦那さん、凄いね。」

わたしは
車が進む方向から、ユカの新居を
予想する。

ニュータウンは昔から
なかなかの金額がした所で、
田舎でありながら、
開発が進んでさらに
地価が上がっていると
実家の兄から聞いていた。

「地元組で、ニュータウンに
住んでる同窓、多いよ。
大学が出来たのもあるし。」

どうやら知らない間に
大学までできたらしい。

「じゃあ、下手したら御近所が
同級生とかになってたり?」

「当たり!町内会とか、マジ
クラス会みたいなもんよ!」

アハハと笑うユカの言葉に、
助手席から後ろを見れば、
海側の古い町並みが目に入る。

そういえば
山側の子供達が、
海側と関わるのは祭の時ぐらい。
あとは、

「レオも、地元なんだろうな。」

塾での交流だろうか。

「誰?レオ?なん組の子?」

ユカはハンドルを切って
ニュータウンのメインストリートを
登っていく。

「ううん海側の子。塾の子よ。」

「サユんとこの塾、海側の子も
いたんだー。知らなかった━」

「そんなにだよ。こっち側、
シュウジロウと、あっち側の
ナガレ。海側で、1人だけ。」

もともとニュータウンは
高校を卒業した時に、
オープンした地域だったから
わたしには目新しい住宅街で
ワクワクする。

「じゃ、サユ入れて4人?!
すくなっ!どんだけ精鋭かよ」

「ユカは、駅前の塾にしたの、
ミツル先輩がいたからでしょ」

モデルハウスみたいな今時で
庭付きの家並みが、
広がっているからか、
ロケ地になりそうな風景だ。

「懐かしいー。そうそう。1こ
上だからすぐに卒業なのにさ。
クラス違うし。おっかけよ。」

「ミツル先輩どうしてるとか、
ユカなら知ってるんでしょ?」

そんな1つの家の前に、
ユカは車を停めた。

「それがさ、ミツル先輩、今
海側に婿行ったんだよ!祭の
若頭してんの!スゴくない!」

洋風の庭の横にあるスペースに
バックで車を入れると、
シートベルトを外して
ユカが
少し頬を赤らめている。

「もしかして、若頭目当てで、
婿に入った口?祭好きだったし」

「かもねー。」

結婚して、子供がいても
相変わらずユカにとっては、
憧れの先輩で、
今でも秋祭りで見る先輩に、
キャーキャーと
萌えているんだろうなと
わたしは思った。



レオは、

海側の子供で、
父親が漁師兼、地元漁業組合の
何か世話役?をやっていたはず。

1度だけレオの家に
本を届けに行って知ったことが
あるから、
何気に覚えている。

「じゃーーん!サユ!ここが
我が家でーーす!ようこそ!」

車を出ると
改めてユカが大きく両手を
拡げて、
ウェルカムな雰囲気を
作ってくれた。

ユカの手の先には
前庭にシンボルツリーを
植えた、
真っ白い洋風モダンなデザインで
丁度よさそうな戸建てだ。

しかも
今はまだ光ってはいないけれど、
植木には
イルミネーションまで飾って
ある。

「わあ、ユカの趣味だねー。」

「でしょ!でしょ!入って!」

夕方、、
同窓会に行く時間には、
このイルミネーションも
綺麗なのだろうなと
カンタンに想像できた。

地元組でも
ニュータウンに新居を構えるか、
旧住宅街の実家を建て替えるかの
二手に別れる。

ニュータウンで、
お洒落な家に住むのは
高校時代、女子達の夢だった。

「ユカは夢を叶えたんだね。」

「夢っていうか、自分の趣味に
しまくってるだけだよー。」

見た目から意外にも、
乙女路線なユカらしい。

ちなみに、
わたしの兄は
実家建て替え組だけれど。

「初めての場所って緊張する。」

かつて、
夜の海側の町並みを、
レオの家を探して歩いた事を
思い出す。

あの時も、
夜の闇に浮かび上がる
初めての場所に
ドキドキしていた。

ああ、
そういえばレオの家に行った
きっかけで、
ナガレと話す様になったかも。

小学校でも話を
あまりしなかったシュウジロウ

中学から一緒になったナガレと
仲良くなったんだ。

「じゃあ、お邪魔します。
突撃!!親友のお家だね。」

わたしは冗談を混ぜながら、

ユカが開け放つドアをくぐって、
フローラルな香りがする
可愛いらしい
玄関の中に入った。