「サユー!サンキュ。色紙買った
から行こう。まだ時間あるから
家来てよ!お茶ぐらい出すよ」
色紙が入れられた袋を振り回して
ユカがレジから
こっちに向かって小走りする。
吹き抜けから
ユカと2人並んで、
階下を覗き見するのも
飽きたから、
さっさと
当初の予定を終わらせることに。
お目当てさえも、
『ヴィゴ』に関する色紙だと
いう事に、微妙さはあるけれど。
とりあえず
文房具コーナーは、
書店の直ぐ横にあった。
「あれだけ『ヴィゴ』の事、
ケナシテおいて、よくサイン
とか貰う気になるよね?」
わたしは、
ユカの会計を待つ間、
書店でパラパラと
ページをめくっていた本を
元の棚に戻して、
やって来た
ユカにわざと嫌味たらしく
言い放つ。
「あれとこれは別でしょ。可愛い
我が子に頼まれたことは、別腹
ってもん。ね、それ。買わなく
ていいの?奥にレジあるよ。」
ユカは
わたしが手にしていた
本の背表紙をチラ見し、
奥に向かって
買えばと言わんばかりに
親指で示してくる。
でも、その本は、
最初から買う気のない本。
手にしたのは、
かつて通っていた塾の先生が、
大学在学中に、
ライバルだったと
聞いていたから。
「ううん。別に買う気はなくて。
ちょっと懐かしいなあって。」
塾の先生は
作家志望で、有名小説家に
弟子入りをしていた。
「サユ、そんな本読んだっけ?
なんか、難しいそくない。」
歴史系の小説棚を
興味なさそうに見回して、
ユカは又、
わたしが手にしていた本に
目配せする。
「うん、普段みないジャンル。
中学の塾の先生の知り合いなん
だって。まあ、読んだこと
ないんだけどね。1回も。」
「えー。中学の塾って、サユ、
個人でやってる塾だったよね。
天才先生って噂あった。本出し
てる知り合いって、やっぱ本当
だったの?ほら、東大の入試
で、問題の間違いを指摘して
落とされた先生って話さ。」
ユカの母親譲りの情報通さは、
今でも健在と分かったわけで。
わたしは、今日何度めかの
呆れ顔を作って、
「後から、指摘通りだったって、
合格通知と詫び状が来って。
さ、行こ。ユカんち初だし。
寄っていきたい。よろしく。」
「ラジャラジャ!行こう。」
軽快に返事をする
ユカの背中を、
強引に出口へと押し出した。
結局、
先生は東大を蹴って、
早稲田に進学したらしい。
弟子仲間のライバルが
華々しくデビューして、
師匠には
『才能あるが、作品が高尚過ぎ。
これは万民受けしないだろう。』
とか云われて、
先生は作家にもなれなかった。
ユカは
もと来たエレベーターを
降りながら、
わたしに振り返る。
「ね、サユ、あの塾、なんで
決めたの?あそこ、人数、
あんまり取らなかったじゃん。」
今更な質問を投げて、
わたしの答えを待ちもしないで、
勝手に
「皆んなと、ワイワイする方が
楽しく勉強ーなるのにさ。」
とか、
ぶつぶつ言っている。
確かあの時、
ユカには
一緒の塾に行こうって誘われた。
ユカはユカで、
当時好きだった相手が通う塾に
入ったのだ。
「ほら、現国苦手だったから。
先生んとこで、論文対策を
ガッツリしたかったんだよね」
だから、
当たり障り無くて、
理由の1つでもあった
答えを一応
ユカにして、
1階までのエレベーターを
乗り継ぐ。
さっきまで大声が響いていた
広場の前に、でた。
さすがにもう、
『ヴィゴ』の声は聞こえない。
取り巻きを連れて、
どっかに消えたのだろう。
「ああ、サユ、進路の学校、
変えたもんね。特殊学科ある。
あそこ行ったから、今のサユが
ある、みたいな?だよねー!」
そう言いながら、
ユカは鞄から徐に電話を出して
「ごめん、ちょっと家にライン
しとく。サユが今から行くよっ
て、連絡する約束だからさ。」
画面を指で操作し始めた。
「ん、いーよ。良かったの?
旦那さんとか、居るんでしょ」
2人で1階エントランスを
横切ると、
向かいにはメンズファッションの
ショップが見えた。
職業柄、つい目敏くなる。
「全然へーき。片付けだけ、
簡単にしといてもらっちゃう」
調子のイイ事をラインにする
ユカを横目に、
操作が終わるのを待ちながら、
お互い
玄関まで戻ってきた。
「あ、ユカ。ついでに買うもの
ないか聞いたら?ほら、ユカん
家行くなら、飲み物ぐらい、
手土産する。ジュースとか。」
歩きラインで、
歩みが遅くなっているユカの
脇から顔を出して、
電話を覗きこむ。
「いいよ、気ーつかうとかさ。
手土産とかも、全然いいって。
サユに来てもらうつもりで、
用意したのとかあるからさ。」
そうしてユカは
電話を鞄に直すと、ポケットから
車のキーを出して、
「呑気にしてたら、すぐ同窓会の
時間になるからさ、じゃいこ!」
掛け声と一緒に片手を上に
振りだして、
GO!なポーズで笑った。
昔と変わらない親友のユカ。
こんな
ユカに答えていない、
あの
『塾』を決めた理由は、
全校生徒の前で完全失恋した
中学時代に
とっくにもう
置いてきた。
から行こう。まだ時間あるから
家来てよ!お茶ぐらい出すよ」
色紙が入れられた袋を振り回して
ユカがレジから
こっちに向かって小走りする。
吹き抜けから
ユカと2人並んで、
階下を覗き見するのも
飽きたから、
さっさと
当初の予定を終わらせることに。
お目当てさえも、
『ヴィゴ』に関する色紙だと
いう事に、微妙さはあるけれど。
とりあえず
文房具コーナーは、
書店の直ぐ横にあった。
「あれだけ『ヴィゴ』の事、
ケナシテおいて、よくサイン
とか貰う気になるよね?」
わたしは、
ユカの会計を待つ間、
書店でパラパラと
ページをめくっていた本を
元の棚に戻して、
やって来た
ユカにわざと嫌味たらしく
言い放つ。
「あれとこれは別でしょ。可愛い
我が子に頼まれたことは、別腹
ってもん。ね、それ。買わなく
ていいの?奥にレジあるよ。」
ユカは
わたしが手にしていた
本の背表紙をチラ見し、
奥に向かって
買えばと言わんばかりに
親指で示してくる。
でも、その本は、
最初から買う気のない本。
手にしたのは、
かつて通っていた塾の先生が、
大学在学中に、
ライバルだったと
聞いていたから。
「ううん。別に買う気はなくて。
ちょっと懐かしいなあって。」
塾の先生は
作家志望で、有名小説家に
弟子入りをしていた。
「サユ、そんな本読んだっけ?
なんか、難しいそくない。」
歴史系の小説棚を
興味なさそうに見回して、
ユカは又、
わたしが手にしていた本に
目配せする。
「うん、普段みないジャンル。
中学の塾の先生の知り合いなん
だって。まあ、読んだこと
ないんだけどね。1回も。」
「えー。中学の塾って、サユ、
個人でやってる塾だったよね。
天才先生って噂あった。本出し
てる知り合いって、やっぱ本当
だったの?ほら、東大の入試
で、問題の間違いを指摘して
落とされた先生って話さ。」
ユカの母親譲りの情報通さは、
今でも健在と分かったわけで。
わたしは、今日何度めかの
呆れ顔を作って、
「後から、指摘通りだったって、
合格通知と詫び状が来って。
さ、行こ。ユカんち初だし。
寄っていきたい。よろしく。」
「ラジャラジャ!行こう。」
軽快に返事をする
ユカの背中を、
強引に出口へと押し出した。
結局、
先生は東大を蹴って、
早稲田に進学したらしい。
弟子仲間のライバルが
華々しくデビューして、
師匠には
『才能あるが、作品が高尚過ぎ。
これは万民受けしないだろう。』
とか云われて、
先生は作家にもなれなかった。
ユカは
もと来たエレベーターを
降りながら、
わたしに振り返る。
「ね、サユ、あの塾、なんで
決めたの?あそこ、人数、
あんまり取らなかったじゃん。」
今更な質問を投げて、
わたしの答えを待ちもしないで、
勝手に
「皆んなと、ワイワイする方が
楽しく勉強ーなるのにさ。」
とか、
ぶつぶつ言っている。
確かあの時、
ユカには
一緒の塾に行こうって誘われた。
ユカはユカで、
当時好きだった相手が通う塾に
入ったのだ。
「ほら、現国苦手だったから。
先生んとこで、論文対策を
ガッツリしたかったんだよね」
だから、
当たり障り無くて、
理由の1つでもあった
答えを一応
ユカにして、
1階までのエレベーターを
乗り継ぐ。
さっきまで大声が響いていた
広場の前に、でた。
さすがにもう、
『ヴィゴ』の声は聞こえない。
取り巻きを連れて、
どっかに消えたのだろう。
「ああ、サユ、進路の学校、
変えたもんね。特殊学科ある。
あそこ行ったから、今のサユが
ある、みたいな?だよねー!」
そう言いながら、
ユカは鞄から徐に電話を出して
「ごめん、ちょっと家にライン
しとく。サユが今から行くよっ
て、連絡する約束だからさ。」
画面を指で操作し始めた。
「ん、いーよ。良かったの?
旦那さんとか、居るんでしょ」
2人で1階エントランスを
横切ると、
向かいにはメンズファッションの
ショップが見えた。
職業柄、つい目敏くなる。
「全然へーき。片付けだけ、
簡単にしといてもらっちゃう」
調子のイイ事をラインにする
ユカを横目に、
操作が終わるのを待ちながら、
お互い
玄関まで戻ってきた。
「あ、ユカ。ついでに買うもの
ないか聞いたら?ほら、ユカん
家行くなら、飲み物ぐらい、
手土産する。ジュースとか。」
歩きラインで、
歩みが遅くなっているユカの
脇から顔を出して、
電話を覗きこむ。
「いいよ、気ーつかうとかさ。
手土産とかも、全然いいって。
サユに来てもらうつもりで、
用意したのとかあるからさ。」
そうしてユカは
電話を鞄に直すと、ポケットから
車のキーを出して、
「呑気にしてたら、すぐ同窓会の
時間になるからさ、じゃいこ!」
掛け声と一緒に片手を上に
振りだして、
GO!なポーズで笑った。
昔と変わらない親友のユカ。
こんな
ユカに答えていない、
あの
『塾』を決めた理由は、
全校生徒の前で完全失恋した
中学時代に
とっくにもう
置いてきた。