大漁旗の寄せ書き
なぞ、
一体誰の案なのかは
おれには分からなかったが、

「第三獅咆丸って、レオの親父
さんの船だったよな、、、」

旗の左端にある船名に、
寄せ書き旗の提供者がマコだと
主張している。

「いいだろ!内田が、代替わり
で使わないやつを出してくれた
んだぞ。これなら、飯田んとこ に飾ってくれるって言ってさ。」

丁度、
後ろを荷物を持って歩く幹事
=矢田リュウタが
おれに教えてくれた。

確かにレオが親父さんが養殖業に
専念するから、
漁師業を引き継いだとは
聞いた。

その時に自分用に旗を作れば、
親父さんの旗は
下げることになる。

「前代の旗ってことか。」

今日参加した同窓生達の名前や
メッセージがマジックで、
旗を埋めつくしていた。

その旗の下の方にある
サユの名前を見る。

ダイゴはわざとなのか、
名前を書いてなくて、おれも
そのまま空白だ。

「なあ、内田ってもう出たか?」

おれは、片付けをするリュウタに
まだダイゴが残る部屋を
目配せして聞いた。

「さあ、どうだろな?今日は
代行かって聞いたら、旦那が
迎えに来るって言ってたぞ。」

リュウタは部屋を見ると
頷いて、
居酒屋の外を顎で示す。

本来なら、
それだけでマコが帰ったと
ダイゴに伝えるところだろうが、
ヘビースモーカーのマコのこと。

まだ非常階段や、
それこそ入り口直ぐに
まだ居てる可能性もある。

おれは、
居酒屋の出入口を確認して、
念押しで非常階段に向かった。

二次会は3階のカラオケハウス。
ほとんどの同級生は、
上に上がって行くのが見える。

体育館の灯りは消えて、
カラオケハウスのネオンが
煌々と点滅して、
駐車場にカラフルな色を
落とす。

建物の2階から
下の駐車場を見回せば
思ったとおり、

直ぐ下には
海側との祭会議で、
見たことがある厳ついMPV四駆が
ネオンの灯りに照らされて、
乗り付けていた。

「やっぱ、レオ来てるか。
まだマコが合流してないな。」

そこまで確認をして、
ダイゴに
まだ外に出ないように、
メッセージを送っておく。

どうせ、四駆にはレオが
乗っている。
ダイゴと合おうものなら、
どうなるかだ。

送信して、非常階段にと思った時

『橘って、性格悪いよ。君から、
だろ?僕にあだ名つけて、
周りに言ってたのって。前から
知ってたよ、あれ牽制だよね。』

建物の外廊下を周り込もうとして
非常階段から
聞こえた声が耳に入る。

「シュウジロウ、こっちに
いる のか。二次会どうす、、」

シュウジロウがいるならと
顔を出そうとして、

『何のことかね?わかんね。鳥嶋
こそさっきの妨害だろう?
いつの間に竹花帰ってるんだ?
お前って、嫁いないよな?
狙ってんの、もしかしてさ?』

思いとどまった。

中学で一緒のクラスには、
なったことがない男が、
一見シュウジロウと言い合いを
しているような
剣呑さだから。

たしか

「鳥嶋シュンだったか?」

おれは、しばし影から
2人の様子を伺うことにする。

『橘に僕の主義をわかってもらう
気はないけど、僕は家を第一に
仕事してくれる家庭的な女性が
条件。昔ならいざ知らず、
今の 彼女は別のタイプだと
思うよ。残念だけれどね。』

話を十分理解までは出来ないが。
夕方からのシュウジロウを
考えれば、
おれにも予想はつく。

とにかくは、

「サユは、帰ったってことか。」

どこか、
自分の口から
後悔のような声が出て、
それ以上は、
声のやり取りを聞くことを
やめた。

非常階段から離れ
外廊下を周り込むと、上から車を
確認。

山が近い駐車場は、頻繁に
動物が降りて車に寄ってきたり
するが、

「タヌキとかは、大丈夫か。」

問題はなさそうだと、
息をついた時、

車の方向から
聞き間違えることのない
声がした!

『はなしてよ!!所沢くん!!』

サユ?!

自分達が車を置いている向かい。

そのフロントで、

サユが 腕を捕まれていた。