新しいショッピングモールと
ユカが豪語しても、
どこのモールだって
大きく変わるわけじゃなく。
その証拠に、
フロアーMap さえ見なくても
大体施設の予想はついてしまう。

解放感ある施設の正面を
進めば、
見回すほどのエントランスで、
フロアーを突き抜ける
吹き抜けで、
屋上にはガーデンとか
あって、
最上階にはシネコンとか
あるのだろう。

「ユカ、色紙って文具売り場なん
じゃない?専門店フロアーには
ないでしょ?ライフストアとか
ここの、奥に入ってるの?
大型のスーパーみたいな。」

「そうそう、突き当たりの1階が
食料品で、2階が服飾でね、
3階に文房具とか子供のになる かな。そこのエスカレーター。」

ユカは
正面に見える吹き抜けに
掛かる回遊式エスカレーターを
指さして、
緩いパーマの後ろ頭を
揺らしながら
先導してくれる。

迷いない足取りが、
いかにユカがモールに通っている
かを物語るわけで。

ユカに続いて、
わたしはイレギュラーカットの
ボブヘアーの片方を
耳に掛けて
エスカレーターを昇る。

上昇する毎に
吹き抜けの底まで見通せる
回遊エスカレーターに
爽快さを感じて、
前のユカに声を掛けようと
した時、

『ヒィア☆ヴィーゴー!時間だze
~!HA!!オハオハロハ~☆』

覚えのある声が、
1度も見たことがない動画番組の
キャッチらしきコールを
響かせているのが
階下からエスカレーターに
まで昇って聞こえて、
わたしは、微妙に
おののいた。

「やだ!あれさヴィゴ?!
まじ録ってるじゃん!!
ほらサユ!下!!下!!」

わたしとは反対に
急にテンションを上げて、
予想通りの状況になっている
下を指差す
ユカ。

「見てるって。」

そんなユカをシラケた目で
見て、
わたしは肩越しに階下の広場を
諦め気分で見つめた。

韓流っぽい金髪に染められた
シルエットがある。

『ヴィゴじゃね。ヴィゴだあ!』

同じように
エスカレーターを昇る
後ろのJCっぽい子達が、
下の金髪に向かって
ヒラヒラ手を振りはじめる。

下では人だかりが出来つつあって
その渦の真ん中に、
記憶にある顔から
自分と同じだけ大人になって、
金髪にした
初恋の相手を見つけて
しまった。

もう、そこは、
芸能人遭遇並みに人だかり。

『ヴィゴ~!里帰りしたぁ?』
『動画みてるよー。』

何人か、
やっぱり覚えのある女子顔が
渦中のヴィゴを取り巻いても
見えて、

「ユカ、あれ同学よね?誰か
覚えてないけど、知ってる?」

わたしはユカのカバンを
引っ張って、
元女子達を示す。

2度見すれば、
いつの間にか、
ヴィゴの周りには男女の
囲みが出来ていた。

「うーん、確か3組の女子じゃ
ね?エアリーパーマのとか。
あんま交流なかったけど。
さすが、8クラスあったから、
全然同じクラスならない子も
いるって。あたしら、後半だし」

エスカレーターが
目的の3階に到着しても
ユカは、
吹き抜けのエントランスの
わざわざヘリにまで寄って、
瞳を煌めかせて下を見下ろす。

「ユカでも解らないかあ。なら、
覚えてるはずないよね。」

呆れつつも、口にした
わたしの言葉。

子供にサインを頼まれたと
渋々な姿勢をしても、
地元から出たプチ有名人に
興味津々なのを隠しもしない
ユカが、

「サユ、ほんと興味ないと、
頭に入れてないもんねー。」

相変わらず
手厳しいセリフで
一刀両断。

「ほんと、それね。」

いまいましいユカに習って、
隣から下を見下ろせば、
3階ぐらいなら
下からの声が
響いて聞こえてくる。

『ヴィゴ、お前もしかして、
今日の同ー窓ー会、回す気かあ
俺らとかネタにするんだろ!』

『イエース!!あったりぃい☆
顔出しNGは言えよ!モブ達よ』

『なんだそりゃ!ひでーな、
誰がモブだよ!おりゃ~!』

集まる元男子達が、
言葉とは裏腹に満更じゃない顔で
ヴィゴの頭をグシャグシャと
かき回して、
ヴィゴが持つ
自撮り棒の電話にポーズを
とるのが見えて、

わたしはユカに眉を潜めつつ
自分の予想を告げる。

「ねぇ、本当に同窓会を録るって
こと?なんだか嫌な予感する。」

「サユ、あたしも同感。絶対、
サユの公開振り再現とかいう
バカ出るに決まってる。マジ
ないんだけど、クズ男野郎!」

さっきまで
目をキラキラさせて、
芸能人を見ていたみたいな
ユカが、
鮮やかな変わり身で、
わたしの初恋の君に
クズ男レッテルを張り直し、
階下を睨んみつける。

そして続けた対抗策は、

「サユ!会場は居酒屋だから
部屋が4つに別れてるんだよ!
だから、あいつとは別の部屋に
入れてもらおう!移動もなし!」

という何とも心もとない内容
だった。

それでも
藁をも掴む思いな
わたしは、

「わかった。なるべく目立たない
ようにするし、わたしも変わっ
たから、向こうも解らないと
思う。兎に角絶対、非接触ね」

昔みたいに2人で
手を鳴らして、
聞こえてくるフレーズを
無視して、
ユカの策に乗った。

『ヒィア☆ヴィーゴー!写真は
並んでくれyo~!YA!!~☆』