中学2年の塾から知り合って、
高校でカレカノになった3年間で、
思う程
ナガレと会っていた時間は
少ないのかもしれない。

同じ高校なら
クラスで写真を
撮ったりする事も多いのに、

ナガレとの思い出は、
電話の機種を変えるうちに
跡形もなく
消えてしまったから。

唯一残ってるのが、
全然記憶にない顔をした
ナガレが映る

中学の卒アル。

アルバムにある応援団の写真に、
ナガレの姿を見つけることは
出来なかったから、
目の前で踊る姿は
まるであの頃に、
タイムスリップしたみたい。

「!、、、、」

例えば、

ナガレがこっちに来たなら?

シュンやシュウジロウ達と
同じ様に昔話が出来るのかな。
と、
考えている内に

ずっと遠くで踊るナガレは、
虎治ダイゴの歌終わりを待たずに、
部屋を出て行ってしまった。

「結局ナガレも、同じなんだ。」

肥後タケルに、
朝礼台の上から言われた光景を
思い出してしまう。

「竹花、どうした?」

ナガレが出て行った方を
未だに見ていたら、
シュウジロウに不思議そうに
されてしまって、

わたしは、ただ何も
ないふりをして、誤魔化す。

「ううん。何もないよ。」

丁度反対側で
鈴を鳴らしていたマアヤが、

「竹花さん、はい。楽器も
次の人に渡すよー。回収ねー。」

わたしの手から鈴を取って、
シュンやユカの楽器と合わせて
持って行ってくれた。

「あー!楽しかったー!こーゆ
の中学以来だわー、サイコー。」

ユカは机のビールを取り上げて、
勢いよく飲んだりしている。
カラオケの順番は、
どうやら又別の部屋へと
移ったみたいだ。

わたし達が居る部屋は
少し落ち着いた空気になって、
そろそろ机にある
大皿の料理を食べ切ってしまおうと、
話していたところ。

「鳥嶋のところに
かくまってくれない?」

新しい声がシュンに掛けられた。

見るとスタイリッシュな
セットアップを着る、
ロングレングスヘア美人がいる。

「リリじゃん。どうしたって、
すごい大人っぽくなってない?」

現れたクールな美人に、
ユカが驚いて声を上げた。

「この年で、大人とかやめてよ。
とりあえず、ここに混ぜてくれ
ない?しつこいのがいて。」

「別にいいけど、何で鳥嶋よ?」

ユカの冗談ぽくした称賛を、
謙遜して
シュウジロウの隣、
シュンの前に座る、高木リリ。

そんなリリに、
マアヤがシュウジロウ越しに
声を掛ける。

「鳥嶋から電話で、さっきの契約
をサインするってかかってき
たフリをして逃げてきたの。」

「え、鳥嶋くんが保険に入ったっ
て相手、リリちゃんなの?」

ロングレングスを色っぽく
かき揚げて
ため息を付くリリの言葉に、
わたしは声を上げた。

「リリちゃん!懐かしい呼び方!」

ユカは、わたしの小学呼びに
突っ込んでくる。
なんだか、こっちが子供っぽいと
言わんばかりだ。

「まあ小学校からの呼び方だから
そうそう変えられないよな。」

そんなシュンの助け船に、
わたしは
思い切り頭を立てに振った。

「しつこいのって、どうしたの」

マアヤは
わたしとユカのやり取りを
スルーして、
リリに事情を聞きに入る。

「さっきまでOK部屋にいたんだ
けれど、所沢がきてね。
覚えてる?所沢マコト!
ほらヴィゴと昔から
ツルンデたじゃない?あいつ。」

リリは、
大皿から取り切った料理を
次々と口に運びながら、
愚痴を溢してきた。

「あいつ、聞いてもいないのに、
隣に来て、契約してやるから、
やってやってもいいとか寝ぼけ
た事ぬかしたの。ほんと、
いつまでも小学生のことを
鼻にかけて欲しくないわよ。」

次はシュウジロウが
気を利かせて、
まだ口を付けていないビールを
リリに渡たす。

「小学って、何。リリ、マコト
好きだったとか!ないって!」

「うるさいわね。昔は、爽やかな
感じ男子だったでしょ?
ほんと、動物園の卒業デートを
いいメモリーにしておいてよ。」

リリは、そう叫んでビールを
一気飲みした!!

言われたリリの言葉に、
シュンと
わたしは思わず目を見合わす。

「リリちゃんも、いたっけ?
男子と行った動物園デート。」

恐る恐るリリに
わたしから確認をとれば、

「あ、サユりん、ヴィゴ狙いだ
ったもんね。一緒に行ったね。」

やっぱり、
実のところは告白大会の
動物園デートオチだった話だ!
わたしは、
すっかり覚えていないけれど、
高木リリも参加者だったと
いうこと。

「あはは。もうサユりんって
感じじゃないけれどね。」

わたしは、何故か脱力感に
襲われて力なく笑うしかない。

「なぜ?相変わらず可愛いから、
大丈夫って、ダメ!サユりん!
マコトには気を付けて。
あいつ、サユりんにも同じ事、
言ってくるって、避けてよ。」

リリは真っ赤なルージュの口を
クワッと開けて、やたらと
わたしに指差し忠告をしてくれた。

「わ、わかったよ。ありがとう。」

『代行のリストだよー。』

思いがけない同級生の合流を
しつつも、
同窓会も終盤。

最初に幹事がアナウンスしていた
代行リストやらが、
わたし達の机に回ってきた。

きっと、ここが最終の机。

「サンキュー。」

シュンが手に受け取るリストを
横から覗く。

「車の代行ね、、やっぱり
地元って感じだな。シュンは?」

「代行。いつも同級生と飲む時
は使うから。だいたい皆んな車
で来てるとね。代行してる奴が
いてるからさ、ほら幹事。」

シュンの言葉に頷くと、
ふと疑問が生まれて口にする。

「え、あ、代行って、運転手は帰
り、どうするの?免許ないから、
知らないんだけれど。金額とか」

今度はシュウジロウが、
わたしに教えてくれる。

「だいたい3キロ2500円だっけ?
2人で来るわけ。お客の車に随行
させて、帰りは乗ってきた車で
帰るってシステムだよ。
免許ないなら知らないだろな。」

「ねぇ、リストの同乗って何?」

ついでにシュウジロウに聞いて
みる。

「結局、人数多い時は随行車も
使って乗り合いするんだ。
最後の人が支払いって感じな。」

「へぇ。そうなんだ。」

続けて
シュンからもレクチャー。

「今日は矢田の代行会社だけど
友達飲みなら、個人とか、後輩
とかに頼むかな。学生がバイト
がてらフリーでやってるんだ。
その時は、折り畳みバイク?
最近小型電動バイクあるでし
ょ?あれで来て、トランクに積
んで帰りに使うってのもある。」

そうして、
きっと最後は、
自分が支払いさせられるよと、
シュンが笑った。

人の良い取締役様の顔を
見つつ、思った。

「わあ地元だなあ、後輩とか。」

「サユは、うちの旦那が迎え
来るから、車で送るよ!」

わたし達の話を聞いていたユカが
安心してと言わんばかりに、
自分の電話を振ってみせる。

「わー、田中の旦那さん、
自転車で嫁の代行か。気の毒」

反対にシュンは、ユカの言葉に
あからさまな溜息を付いた。

「鳥嶋!うるさいよ!」

部屋に楽しく響くユカの声。



結局、
中学卒業後はナガレのバイクに、
ナガレが車の免許を取ってからは
用事があれば、
ナガレが送り迎えしてくれた
のもあって、

わたしは免許を取らず終い。

その後も、
運転しなくても大丈夫な
街や都会へと
居場所を変えていったせいも
あるのかな。

聞こえきたのは、

同窓会終了間近を
知らせる幹事の声だった。