『天才助教授の浜名くんの、
インタビュ~でした~☆!
Heyオーディエンス!また
プチ有名人見つけ次第☆
インタビュータイムするぜぃ。
そろそろカラオケマイクを、
回わせって五月蝿いからyo☆』

配信OK部屋から
派手に聞こえていた
肥後ことヴィゴのトークが、
一段落したのが解ると、
何故か並んでいた
サインの列が、
やたら大きく進んだ。

『はいはーい。ヴィゴサインは、
まとめてするから、色紙とか
ノートの裏側に名前を書いて、
この箱に入れてくださーい。』
おれが
疑問に思っていると、
理由が前から
段ボール箱をかついで、
やって来たわけだ。

幹事の矢田リュウタが、
サインを一斉回収する
段ボール箱を
並んでいる、
人間に出しているからだ。

「早瀬!お前もサインかよ!」

幹事のリュウタが
ミーハーかよ?!と言いながら、
おれに向かって笑う。

「ダイゴだよ。あと、うちの店は
浜名にサイン貰おっかなって、
思うんだけれど、いいか?」

理由を言えばリュウタは、
妙に納得をして
段ボールの中から、
銀色の四角缶を出してきた。

「了解了解。皆んな一緒だぞ?
ほれ浜名のは、こっちの缶。」

缶が浜名サインだと
教えられて、
リュウタに言われるままに、
おれは色紙の1枚を段ボールへ
突っ込んで、
もう1枚は煎餅の缶に投げる。

その間にもカラオケのマイクが
回されているのか、
BGMにはいろんな奴らの
歌声が聞こえてきた。

「なあ、ちなみにマコって、
どこの部屋か知ってるか?」

サインよりも重大な、
ダイゴに頼まれていた任務を
ここでズルして遂行する。

「おう!OK部屋だぞ。ああ、
ダイゴか。大変だな、あいつ。
まあ、マコも気にして、
OK部屋の隅っこで、女子達と
ツルンデたわ。ダイゴはNGの
地元部屋だろ?後で、代行の
回す時に顔だすわー。バイ!」

なんなくリュウタという
幹事スキルを使って、
マコの位置情報を
無事におれはゲットだ。

リュウタは手を振って
列の後ろへと、
色紙の回収に戻った。
しかし、
ちゃっかり自分がやっている
運転代行会社を、
同窓会で使うという手際よさ。
その為に幹事をしたのか?

「バイ。」

とりあえず、
リュウタの代行があるから、
車で来ている
おれでも酒が飲める次第で、
手を振り返す。

マコの場所が分かって
一旦戻るか迷っていると、
聞こえてきたのは、
シュウジロウの声
だった。

しかも
曲は中学の体育祭で
白組が応援団で使っていた
曲だ。

「あいつ、ちゃっかりしてる。」

ひとりゴチて、
おれは
シュウジロウの声がする
部屋に向かう。

もしかすると、

そんな考えが浮かんだ。

その間にもシュウジロウの声で
にわかに、
どこの部屋も熱を帯びてくる。

さっきまで殆んど
BGM替わりに
カラオケの声なんて
聞き流していた誰もが、
勇んで立ち上がって
ドヤ顔紛いに
演舞を繰り出し
踊る奴が出てきたからだ。

もう
そうなると、
4つの部屋全部が
同じ様にリズムと振動を
刻み出していく。

「!」

そんな渦の真ん中で歌う
部屋の1番奥の奥。

マイクを持つ
シュウジロウの隣に、

「いた、」

サユが

鈴を手にして
シュウジロウの歌に拍子を
付けている。



「・・・・・・・・・・」



部屋に、
入るでもなく。

声をかける、
でもなく。


おれの周りで、

やたらに踊る奴らや、
踊る奴に合わせて手拍子を送る
元紅組の奴らの
渾然一体なウェーブとは
ちがい、

おれは、

ただ
ただ
黙って

奥に見える姿を


見ているだけ。

どれだけと思うが、
きっと僅か数分だけの
時間が過ぎて、

やたら決めた感じで、
マイクパフォーマンスまでする
シュウジロウの曲が

終わりに

近づく頃、

「早瀬、紅組だったろ?これ
今だけ配ってるから、使え。」

無音の世界にいる
おれに、

いきなり
横から紺色の布が
差し出されて、
手にそれを持たされる。

「新しい法被、」

広げるまでもない、
この紺色は

盆明けの祭練習に向けて、
新着された祭法被だ!!

「を?使う?何?に」

おれは面食らって
渡してきた奴、、?

「内海!?来てたのか?!てか
野球大丈夫なのか?!」

法被の山を、
盆に乗せる相手=
内海サトルに掴みかかる。

「二軍には盆のマウンドに用は
ないんだよ。って言いたいが、
足の故障で、実家で養生中。
飯田の店が、会場だしな。
それより、
この後ダイゴが紅組の曲を、
対抗して 入れたらしい。」

今回の同窓会場。
確かに
元野球部仲間の飯田セイヤの店、
義理固い、、

じゃない!!法被!!
そうきたか!!って思ったが。

「同窓会で新法被の御披露目を
するっちゃあ、言ってたが、
まさかのタイミングだろ!」

確か、
今日の同窓会の最後に
発表して、配った後に
一本締めで終わる段取りだった。

「そういうわけだ。他にも
知ってるやつに配るからな。」

サトルは
おれの肩を叩いて、
法被を配りに部屋の中に
入っていった。

きっと
ヴィゴがインタビュー配信で
話してたのは、
プロ野球の二軍選手、
内海サトルの事だろう。

『うおーーーおい!!白組だけが
目立つなよ!元紅組の野郎達、
リニューアルしたての法被で
踊れよーー!いくぜーーー!』

とうとう
シュウジロウの曲が終わった
ところで
無双なダイゴのMCが入った。

そこで
ボケっと突っ立っていたのが災いしたか、

「お、誰?とりあえず入ってよ。
この部屋、紅組少ないんだよ。」

「え、いやいや、おれ隣の部屋」

だからと、理由に
元の部屋に戻ろうとした
ところを、捕まった。

否応なしに!
思い止まっていた部屋の中へ、
同じ法被を着こんだ野郎に
引っ張りこまれる!!

「いいって、な!同志!!」

じゃないっ!!

無理やり手に持ってた法被を
そいつに着せられて、
始まった
ダイゴの声に合わせて
演舞の振り付けを
無理から踊らされるっ?!

「うわ、」

案の定、
シュウジロウの顔が
こっちを見ているのが
目の端でわかった。

ここまできたら
もう、なんとでもなれ!!

何かが
おれの中で吹っ切れると、
嫌という程
中学で練習した演舞の仕草が、
ダイゴの音頭と共に
自然と身体に滲み出てくる。

周りの法被組も
年月なんて関係なく
リンクして、
一斉に揃った動きを見せた!!

『『『『『破ツゞゞゞ』』』』』

突き出す拳と、
振り上げて回す足。

翻る紺色の布の群れの向こうに

小柄なサユの顔が見えて、
シュウジロウが
サユの前髪を撫でる?

その髪を直すサユの視線が
出し抜けに

こっちに向いて、

紺色がはためく中、
お互いの視線がかち合うのが

おれには不思議と

一瞬で、わかった。