乾杯の音頭から20分もしない内に
2時間制の同窓飲み会は、
誰ともなく
席替えが
早くも始まっていたわけで。

「竹花って、どっちかというと、
静か清楚女子だと思ってたけど
全然コミュ力パワー系だったん
だ。上京して垢抜けたしね。」

そんな中
シュンとわたしは
未だに隣同士、
2杯目のハイボールをピッチ良く
飲んでいる。

「そうかな?でも仕事柄かな。
図々しくなったのかもね。」

目立ちたくない気持ちから、
周りを気にしつつ
わたしは、
ユカとマアヤが
ヴィゴにサインを貰いへ
行った後も、
気兼ねないシュンと
昔話に花を咲かせていた。

「竹花って今何してるの?」

聞かれて初めて、
わたしは
横に置いていた鞄から
名刺を出してシュンに渡す。

「凄いじゃん!!こんなハイ
ブランドでディレクターって。
あれだよね、ブランド戦略とか
シーズンで自国展開を考える。」

シュンは
わたしの名刺をマジマジと
見てから、
今度は自分のジャケットから
シュン自身の名刺を
差し出しつつも称賛してきた。

「わ、鳥嶋くん よく知ってる。
ほとんど皆んな、アパレル部員
の上の役職ぐらいに思うのに。」

「名刺で相手のグラウンドを
推し量るのは、大切だからね。」

シュンの名刺から、
彼の役職名に気が付いた
わたしは、
思わず
シュンのジャケットを掴んだ。

「って、鳥嶋くん!取締役って、
凄いね。ボトルウォーターの
会社ってのは意外だけれども。」

「これが本当の水商売ってね。
今は其所の会社の取締してる
だけだよ。ほとんど人脈開発
を仕事に企業を渡り歩くって
感じかな?外部役員なんて。」

どうりで、
掴んだ服地の感触が良かったわけ
だと腑に落ちる。

「人脈開発?取締役って、
そんな感じなんだ。
ふつうの外資系会社員じゃ
想像できないんだけれど。」

「要するにパーティーに出るのが
1番の仕事だよ。社交戦略。」

結構凄い事をシレッと暴露して、
何ってことない素振りのまま
シュンは
グラスの中身を空にした。

「・・・人を覚えるの確かに
得意だったね。鳥嶋くん。」

どこか飄々とした態度のシュンを
引いた視線で見て、
わたしは態とらしく
シュンの名刺を指さす。

隣の部屋からは、
ますます
賑やかな声がマイクで聞こえる。

『アロハロハ~☆ここで、
OK部屋から生配信だぜぃ。
まじぃ?店マイクあんのぉ?
カラオケ用ね。OK、OK。』

カラオケだって、
なんて
歌わないよねとか言い合い、
シュンと2人で
名刺を
それぞれに直していると、

「あ!いたいた!!鳥嶋!
久しぶり!俺の事覚えてる?」

マアヤが不在で空いた席に、
突然1人の元男子が
座った途端、
シュンに
ぐいっと名刺を出してきた。

「覚えてるよ田原くん。卒業式
ぶりだよね。ああ、僕も。」

急な割り込みに関わらず、
シュンは出された名刺を
手にして、
自分のポケットからも
さっき
わたしに出した同じモノを
相手に渡した。

「田原くんは、オフィス設置の
自動販売機のメーカーだね。」

田原ケイジ。
同じ小学校で、身長が低い者同士
いつも2列になると
わたしの隣にいた男子だ。

「さすが!言いたい事がすでに
わかってるって感じ?聞いた
ところによると鳥嶋、今会社の
トップ役職なんだって?
ちょっとオフィスに用立て
なんかしてくれないかなあ。」

「同級生のよしみで?会って今?
わかった検討するよ。前向き
にね。同級生のよしみだ。」

「よ!鳥嶋役員!!ありがとー」

あまりに
明け透けとしていて、
ケンジは
こんな性格だっただろうかと
怪訝に思っていたら、
漸く
わたしに気が付いたらしい。

「えっと、竹花だよね?
あー、そうか!凄いよな!
海外ブランドで働いてるんだ?」

目を丸くするケイジに、
自分から名刺を渡しておく。

そんな
ケイジとのやり取りを始めると
シュンが徐に席を外した。

見ると指で『C』を作っている。
懐かしい
中学で流行ったトイレサイン。
ケイジもそれを
笑いながら了解する。

「悪いけれど、うちは無理よ。」

シュンが消えたところで、
わたしはケンジに先制攻撃した。

「えー!竹花、何か変わったな。
こんなに手厳しい感じだっけ」

ケンジに言われるのは心外だ。

「田原くん、もしかして同窓会で
全員に営業かけてるの?」

「まさか!そんな効率悪い事、
するわけないだろ?ちゃんと
リサーチ済み。竹花のことも
事前に調べてるんだって。」

ケンジは
両手を胸の前で振って
慌てて見せるポーズだ。

「なに、それ。」

「出来る営業は、アポ前に
SNSリサーチしてんだよ。
便利な時代だろ?会社の方針で
企業アカで、アップしてるとこ
から個人サーチすんだよ。」

得意げに机に出されたのは
プリントアウトされた表。

ちょっとゾッとする。

「呆れる。リストしてるの!」

「おう!!鳥嶋はOK。竹花は
また、そのうち会社に直でな」

わたしの非難の声を
完全に取り違えたまま、
田原ケンジは
ボールペンでリストに
意気揚々と
シュンの横に◎チェックを
入れた。

「いや、こないでよ。」

「さ、有名人は人だかりが
引いてからだな。肥後と、」

ケンジのやつ、
全然人の話を聞いていない。

小学校1年から中学まで、
結構な頻度で隣にいた相手が、
営業モンスターになっていて
わたしは絶句しかない。

「まだいたんだ、田原くん。」

戻ってきたシュンが、
わたしの様子を察したのだろう。
すこし毒っぽい声を出して、
ケンジのリストを
チラ見する。

「すぐ次の島に飛ぶって。あら、
マイク回ってくるみたいだな。
俺は~歌わないから、じゃ!」

さすがに
その視線の意味は分かったのか
ケンジはポケットにリストを
しまって、
わたし達の前から
いそいそと後ろの列に移動した。

「竹花も営業された?」

「された。鳥嶋くん、いいの?
いいように営業かけられて。」

タブレットから
飲み物のメニュー画面を
開きながら
シュンは答える。

「いいんだよ。どうせ何台かは
要るものだから。助け合い。」

「なんだか鳥嶋くんは心配ね。」

「そう?本当は腹黒って、竹花は
知ってるよね。それにさっき
トイレ出たところで、保険の
営業もされたよ。あれは元
3組の古藤さん。覚えてる?」

タブレットを見せられたついでに
わたしも梅酒ボタンを、
押そうとして
わたしはシュンの言葉に
慌てた。

「なんとなく、って、保険?」

「そ。今更だよ。だって僕、毎月
保険で30万払ってるからね。
なんだか皆んな?来るんだよ。
同学の女の子達がね。」

「鳥嶋くん、、、カモだね。」

「ネギしょってる?ってね。」

冗談で気分を変えた
わたしも、
飲み物オーダーを
し終わったタブレットを
戻そうとした
時、
手のタブレットが
フイに軽くなって、
後ろから取り上げられる。

「なに?ずっと2人でツルんで
んの?ちょっと混ぜてくれよ。」

振り替えると、
取り上げたタブレットから
梅酒をオーダーする
シュウジロウの姿があって、

「今度は、橘シュウジロウか。」

シュンがタブレットを
見たまま、
わたしの隣で呟いた。