「早瀬、すまね!ちょっと
見て来てくれないか?、その、
マコが、居たら俺まずいから」

向かいに座っていた祭山頭の
虎治ダイゴが
申し訳なさそうに手を合わせて、
頼みこんできた。

虎治の事情は、
おれ達地元組の、
暗黙の了解だから仕方ない。

「わかったよ、向こう見てくれば
いいんだろ。まったく、、」

いいながらも、
おれは正直なところ、
4つの部屋を公然と見て回われる
口実を
手に入れれたラッキーさに
内心浮かれながらも、
しぶしぶという態度で
色紙も片手に、
掘りコタツから立ち上がる。

「おい、それ。色紙、ヴィゴに
早瀬も貰うつもりなのか?」

どうやら、
しっかりと色紙を見つけたらしい
ダイゴが、今度はおれを
睨んでくる。

かつて、
おれ達中学時代に
ヤンキー道を地元で極めた
『ダイゴの睨み』は伊達じゃない。

「悪い?うちのショップに飾るっ
て言われて頼まれたからさ。」

それも、長い地元付き合いで
すっかり慣れてしまった
おれ。
怖面のオーラを、
どこ吹く風という顔で応える。

「ついでに、コレも頼む、、」

ちゃっかり自分も色紙か。

それよりも、

「わかったよ。虎治も難儀だな。
奥さんとの約束とはいえさ。」

「俺が悪い。それに、未だに
会ったら、どんな顔すりゃいい
のか分からんのよ。笑うか?」

本当に難儀な男、ダイゴに、
周りを囲む仲間達も苦笑する。

「別に、笑わないって。行って
くるから、そこで潜っておけ。」


そう呟いて
色紙をユラユラさせながら
お目当ての姿を探して、
何気なく1つ1つの部屋に
視線を流す。

そんな おれの肩が
後ろから叩かれて、、

「!サ、」

期待を持って、振り替えったが、

「シュウジロウ、、か。
お前、てっきり 一緒に来るん
だと思ってた、
って、えらく着替えたんだな。」

立っていたのは
思っていた相手じゃなく、
さっきまで家の玄関に居た男。

しかも、
さっきはGパンにTシャツだった
はずが、
何故かスリムなスーツ?だ。
まあ、
自分も下ろしたてのシャツ
だけれどさ。

「一応、久しぶりの同窓会だ
からな。ナガレは、色紙か?」

シュウジロウはニヤニヤして、
おれの持つ2枚の色紙を示した。

「虎治に頼まれたのと、店に飾る
やつ用に持たされた。シュウジ
ロウは何処に座ってるんだ?」

「OK部屋の続き部屋。ナガレは
NG部屋の、、地元組の部屋か」

入口から
おれが出てきた部屋の中を
見やって
シュウジロウは肩眉を上げると、
中の地元組達に
片手で挨拶をして、

「ちーっす!例の水族館の件、
通りそうっすよ!また明後日。」

地元有志で閉館になる水族館で
『サヨナライベント』を企画
している事らしき内容を
口にした。

そう言えば
役所でセカンドワークだとか
言っていたなと思う。

「後で、シュウジロウの処に
飲みに行くよ。さっき、あんま
り話せなかったからさ。」

あの水族館は、
この辺りの学生ならば
1度はお世話になる
デートスポットだったから、
虎治ダイゴが筆頭になって話が
進んでいる。

きっとダイゴも、
行ったんだろうなイルカショー。

「まあな。でもオレ、いろいろ
席変わるつもりだぜ?いいか?」

シュウジロウは
今度は
わざとらしく肩を竦めて
両手を上げるポーズだ。
中学の頃から
どこか捉え処無いシュウジロウ
らしい調子ともいえるか。

「探すって。じゃ後で飲も。」
 
気が付いたら、
やたら部屋の外に列が出来ている。
色紙や、ノートを
手にしているという事は、
皆んな同じ考えか。

昔、
塾に通っていた時みたいに、
シュウジロウと
2人で目配せをした時、
突然聞こえたのは

『アロハロハ~☆ここで、OK部屋
から生配信だぜぃ。まじぃ?店
にマイクあんのぉ?カラオケ用
ね。OK、OK。
じゃあ、同窓生へのぉ、ヴィゴ
インタビュータイムで~す☆』

ヴィゴこと肥後タケルの
マイクからの声だった。

『けっこうねぇ、ヴィゴ同級生's
には有名人いるんだよん。ま、
ナンバーワンは、おれヴィゴ
だぜ?で、ジャーーン!☆
細胞学で世紀の大発見で受賞
した大学研究室でイケメンが
いるってバズった助教授☆
天才の浜名くんでぇす!拍手』

『うそ!浜名くん?!』

聞こえた内容に、
さっきまでヴィゴには
興味なさそうだった元女子から
とたんに黄色い声が上がる。

『う、相変わらずカッコいい、』

一気にOK部屋への人口が
増えて、
おれとシュウジロウは
勢いに弾かれ流された。

「ああゆう同い年いると、
オレ達みたいな一般は肩身せま
いよな。まじ、名札に仕事とか
役職とか書く欄なくて良かった
わ。 浜名にはサインもらお。」

シュウジロウは、
乱れたスーツを直した指で
名札を弾きながら、
胸ポケットの手帳を出した。

「名札に仕事って、まるで
婚カツパーティーだな。え、
シュウジロウ、本当に浜名に
貰うのか?なら店に浜名の飾
るかな。色紙1枚しかないか」

一瞬、
シュウジロウが
やたらスリムなスーツ姿なせいか
本当に婚カツパーティーに出る
意気込みに錯覚をした、
おれは
何故か浜名の名前を
畳み掛けていた。

「ヴィゴと浜名なら、浜名かも。
あいつ助教っていっても、
ほとんど浜名の実績らしい。
あっちに居た時に、上京組で
飲んだ時愚痴ってたからな。
その内にきっと有名なるぞ。」

「本当かよ。なら浜名一択か。」

「マイク離れたら、行ってくる。
じゃあ、ナガレ後でな。虎治とこ
にも後で行くからさ。じゃ。」

シュウジロウは、
おれが並ぶ列から外れて
声が聞こえるOK部屋にと消えた。

「ダイゴにな。」

虎治ダイゴ。

喧嘩番長だったダイゴが、
その名を周辺学校に轟かせていた
懐かしい中学時代。

そんなダイゴの
当時の彼女、田村マコは
いわゆる女子で頭を張っていて、
高校に上がれば、
レディースの総長になると
言われていた美女。

後に別れた2人。
言っても、
一方的に振られたのはダイゴで、
彼氏から降りても、
ダイゴは田村マコを
変わらず
好きだった。

未だに好き過ぎて、
後に彼女になった現嫁に、
田村マコに半径5メーターは
接近禁止令を出されている始末だ。

「それでも、
今日だけは人の事は言えない。」


おれは、
列を進みながら、

横に張っている
『サヨナラ思い出の水族館』と
走り書きされた
青いポスターを

見つめていた。

ダイゴの事を、おれは
笑えないんだよ。