ユカの前に、
アイスクリームフロートが来た
と同時に外が賑やかになる。

例の男、
ヴィゴ=タケル肥後がやって
来たのだ。

その証拠に、


『おつかー。ヴィゴ同窓会参上!
よし、チェックOK!あ☆
生配信してもノープロ?NG?』

『わ!ヴィゴだあ!待って待っ
て!メイク直させてよー!』

『配信はどう?ちょっと中に、
聞いた方がいいよ~。』

受付係の2人が浮き足だって
対応する雰囲気が
2階まで流れてくる。

下の受付での会話に
聞き耳を立てていた
わたしとユカは、
思わず顔を見合わせた。

「やっぱ、配信するんだ。
よくやるねぇ。サユどうする」

アイスクリームフロートの器を
手に持って、窓を見ながら
ユカがスプーンを動かす。

ステンドシールの窓から外を
見下ろすと、
ショッピングモールで見た、
肥後タケルと、
取り巻き同学年達が受付で
自撮り棒を振り回していた。

わたしは
運ばれたチャイラテを、
飲みながら、

「ちょっと様子見するね。」

ユカに答えつつも、
しっかり視線は下の様子を
捉えておく。

受付での答え次第では、
せっかくの同窓会を諦めようか
と顔に出ていたのだろう。

ユカは、呆れた顔をして、

「解った。なんだか、良いのか
悪いのかだよ。半端に有名人っ
て、けっこう厄介じゃん!」

苦笑する、わたしの前で、
ブーイングポーズをした。


『部屋を分けることにした。
撮ってOK部屋でならいいよって
皆んな言ってるから、それで』

『リョーカイ!じゃ!いざ
参りますかっ!同窓会編!!』

電話をしていた受付係が、
中に来ている参加者に聞いた
様だった。

どうやら、
店内総生配信は避けられた
みたいで、胸を撫で下ろす。

「アイツら入って少ししたら、
あたしらも入っろっか?
もちろん、NG部屋だよ!」

せっかく久しぶりに頼んだと
喜んでいた
アイスフロートを、
急いでユカが
口に放り込むと

「ありがとうね、ユカ。」

わたしも
あまり味がしない
チャイラテを飲み干す。

早々に伝票を手に、
ユカと会計を終わらせて

わたし達は隣の店に移った。



『いらっしゃいませ!!、
今日は同窓会で貸し切りです!
お好きな場所へどうぞ!!』

居酒屋の引戸が開くと
下の受付で居た様に、
案内も顔を見たことがある
同窓生が
スタッフの代わりに
わたし達を出迎える。

「ちょっと待って!サユ。
あたしが先に中の様子見る。」

示された場所に行くと、
貸し切りになっている座敷は、
4つの部屋に分けられていた。

部屋の入口には急作りか、
A4コピー用紙にマジックで、
『配信OK部屋』
『NG』
と記されて、
テープで張り付けられている。

「ということは、、」

1つだけがOK部屋というわけだ。

宣言通り、
先にユカが入って覗くと、

「あ、ここ良いよサユ!入ろ!」

残る3つのうち、まだ人が少ない部屋をユカはサユに選んできた。
きっとユカは、
この店を知っているのだろう。

そう思ったのは、
部屋の作りを見てからだった。

部屋を見渡す。

ナガレの顔は見えない。

どこかホッとして、

わたしは中へと進んだ。

テーブルは堀コタツになって
足が下ろせる様だ。

わたし達の後から徐々に増える
参加者が、
声を掛けて右往左往し始める。

『こっちー!』
『おー、久しぶりだなあ!』
『うそ、誰?!わからん。』

波の様に声が一際大きく
響くのは
わたし達隣のOK部屋だろう。

気が付けば
4つに部屋は別れていても、
2つの部屋は中を
行き来出来るように、
壁にドアより大きめの
開口部分があった。

『秋の祭は、、』
『神輿頭が代替わりして、、』

隣からの内容で、
なんとなく

ユカがこの部屋を選んだ理由を
わたしは察する。

きっと、OK部屋の方も
中で通通になる開口部分がある
のだろう。

『イエーイ☆ヴィゴ凱旋!!』

『おお!生ヴィゴ!マジ配信?
映ってるか?おー、世界に俺
顔、出ちゃってる?!』

繋がっていないはずの
OK部屋なのに、
声だけは良く聞こえるから、
すぐに想像できる。

あの部屋の隣なんて座れば
映らないと分けても、
どうなるか。

なし崩しで、、
とも成りかねない。
ユカには感謝しかない。

「ここの部屋なら1番落ち着いて
話し出来るよ、サユ!ほら!」

そんな気を使えるユカに
勧められるたのは、
何人かがチラホラ堀コタツに
座っているテーブル。

「隣、いいですか?」

とりあえず声を掛けて、
そのまま
元男子であろう横に、
座って足を入れた。

丁度この場所なら、
開口部分からも背を向ける
形になる。

「どうぞ~。あ、もしかして
竹花?久しぶりだあ~。」

反対隣に男の子同士で並ぶ
相手と話をしていた顔が
わたしを見て声を出す。

「え、あ、鳥嶋くん?わ、
あんまり変わらないねぇ。」

「そう?竹花は、、ちょっと
雰囲気変わった?街組だよね。」

その顔は見知った男子で、
小学校時代に転校してきた
『鳥嶋シュン』だった。

「あー、鳥嶋!!元気!って、
この間、自治会であったわ!」

「鳥嶋くんとユカって、ご近所?」

シュンだと認めたユカが
ニュータウンの同じ自治班だと
教えてくれる。

今日ユカが連れてくれた新居の
同じ区画にシュンの新居も
あるらしい。

「竹花は未婚?バツ付き?」

都会からの転校生
シュンは、
男子よりも女子友達の方が
早く出来たタイプ。

どこか女子っぽいノリが、
わたしにも気安かった。

遠慮ない言い方が、
相変わらずのシュンだ。

「なに、いきなり。ほら
ごらん、名前の通り。」

まるで昨日まで
中学にいた様になって、
わたしは腰の名札を
シュンに示す。

「名札見えにくいから。それに
旧姓だからって、未婚とは限ら
ないし最近は。ほら、こいつ
みたいにしてくれると助かる」

シュンは名札に視線を
投げると、
テーブル向かいの元女子に
いきなり声を掛ける。

「竹花さーん、久しぶり。
はい、鳥嶋の言う通り、バツ
イチの沢田でーす。」

同時に向かいの女子が
片手を上げて胸元の名札を
見せてくる。

旧姓には( ✕ )とあった。

「すごい、割りきってる。」

思わず声にして感心する。
この雰囲気も同窓会っぽい。

「最近バツイチとか普通でしょ」

そんな、わたしに
彼女は手を振ってニマリと笑った。

「ほら、あいつなんか名札見て」

今度は後ろのテーブルに
座る男子にシュンが指さす。

胸元の名札にある(✕✕)の記し。

「なるほど。」

少し楽しくなってきた。

「ほんと!サユ!ほらあれ!」

シュンとのやり取りを聞いた
ユカが示した先にいる
元男子の胸元を見れば、、

『ナオミ→ナオヤ』になっている。

「ん、?んーー。」

戸惑うわたしを他所に、
ユカは
キャーキャーと、
そのまま『ナオミ→ナオヤ』の
名札を付けた男子に向かって
行った。

きっと本人に事情を聞くのだろう。
わたしは、
それらを見てから
徐に腰の名札を胸元にと
付け替えることにする。

「ちなみに僕は、シュンのまま」

今更名札をつけ直す現金な
わたしの隣で、
シュンが 変わらない風に
笑顔をみせた。

ふと
彼が中学時代に呼ばれた
あだ名を思い出す。

たしか
『ニューハーフ』だ。