鬼のイケメン同級生は私を溺愛したい

「ほら、行こう」
 連れてこられたのは普通の家よりも少し大きめな一軒家だった。
「ここって……本家?」
「そんなわけないでしょ、俺の家」
 鬼頭君は当たり前のように『俺の家』というが、一人暮らしにしては広すぎる家。
「中に入ろう」
 手を引かれ、中に入る。
 緊張してきた。
「ふっ、大丈夫。緊張しないで?」
「う、うん!おじゃまします」
 中はとっても綺麗で清潔感のあるお部屋だった。
「これからは自由に使ってね」
「うん、よろしくね!」
 同居するという実感が沸かない。
 お夕飯を食べ、お皿洗いをしようとする。
「あ、食洗器があるから洗わなくていいよ。家事は俺がやるよ?」
 食洗器なんてあるのか。
 でも、家事はやらないと。
「あ、あの。家事は私、やりたいから……私がやる。それにただでさえ、いさせてもらえてるのに何もしないのは」
 何もしないのは気が休まらない。
「ん、それなら……やりたい事好きなようにやってくれて構わないよ。無理はダメだからね?」
「うん、ありがとう」


 七海とお母さんと別れてから、少し経った頃。
 学校に行くと、明らかに私は避けられていた。
 悪口はよくあったけど、こんなにあからさまに避けられたこと初めてだな。
 机のある方へ行くとクラスの子たちはクスクスと嘲笑っていた。
「………」
 机にはマジックペンで『調子乗んな』や、『ブス』などと書かれていた。
 私はどこへ行っても嫌われる。
「あーあ、これじゃあ、使い物にならないねぇ?」
 馬鹿にしたような声で言ったのは七海だった。
「……消せば、どうにかなる──」
「は?何言ってんの?消さなくてもいいんじゃなぁい?だって机に書いてあることは事実じゃない?」
 この発言には頭に来てしまった。
 私は無言で雑巾を取り、濡らしに行った。
「なんで、雑巾?てか、なんで一緒に登校しないの?」
 安心する声。
「鬼頭君……おはよう」
「行こう」
 そう言われ教室に行く。
 私は濡れた雑巾で机を拭く。
 消えてる。良かった。
「……手伝う」
 そう言って鬼頭君も一緒に消すのを手伝ってくれた。
「ありがとう」
「ブスとか何が言いたいんだろ、こんなに可愛いのに」
 その発言に顔が赤くなった。
 可愛いとかサラッと言えるの、すごいな。
「あ、ありがとう」
 私の机は鬼頭君に手伝ってもらったおかげで綺麗になった。
「大丈夫、今日、家に帰ったら会議ね」
 もしかしたら追い出されてしまうかもしれない。
 そんなことを考えたら顔が真っ青になった。
 会議の内容を勝手に想像して家に帰った。
「ただいま」
「あ、帰って来た……って、どうしたの?」
 私が暗い顔をしていたのか、鬼頭君は私の顔を覗いた。
「あ、いや。会議って……?」
「ちょっとこっち来て」
 こうして連れてこられたの鬼頭君のお部屋。
 青系の色で統一してある。
「会議の内容は──」
 ゴクリ。
「芽唯が俺の事を『鬼頭君』って呼んでくる事と、一緒に登下校してくれないこと」
 目をぱちくりさせる。
「へ……⁉」
「鬼頭君とか……名前で呼んでよ」
「え、えっと……俊君?」
 緊張しすぎて疑問符になってしまった。
「ん、それでいい。あと、一緒に登下校ね」
「え、えぇ?」
「嫌?」
「嫌じゃなくて……な、七海に──」
 七海に嫌がらせをされる……そう言おうとして言葉を吞み込んだ。
「姉の方はもう気にしなくていいよ」
 本当に気にしなくていいのかな。
「う、うん。そう、だね」
 今は気にしてしまうけれど、いつか気にしなくていい日が来るのかな。
「じゃあ、これからは登下校一緒ね……あ、そうだ。明日って空いてる?」
「うん。空いてるよ?」
「なら、本家に行こう」
「本家⁉……ご両親がいるの?」
 ご両親に会うとか無理!
「ううん、両親は仕事でいない、だけど……」
 鬼頭君はそう言いかけて止まった。
「……?なに?気になる」
「明日会えばわかる」
 明日、緊張するな。
 私と俊君は鬼頭家の本家に来ていた。
 今私が住んでいる鬼頭家の別邸も二人暮らしには広すぎる家なのに本家はその何倍もの広さがある。
 本家には使用人がたくさんいるのかメイド服を着た人がたくさんいる。
「あれ、お兄ちゃん。その人、彼女さん?」
 階段の上からは長い髪をポニーテールにした女の子が立っていた。
 身長が百五十センチくらいだから小学生か中学生だろうか。
「うん」
「ふ~ん?」
 その女の子はニヤッと口角を上げた。
「ラブラブなの?彼女さんとお兄ちゃん」
 聞きなれない言葉が飛び交っていた。
「そりゃそうだろ……てか、挨拶しろ」
 その女の子は階段から降りてきて私の前に立った。
 その子は人形のように綺麗な顔立ちだった。
鬼頭(きとう)愛梨珠(ありす)。小学五年生。お兄ちゃんのことよろー」
 こんなに軽い小学生初めて見た。
 今時の子は皆こんな感じなのだろうか。
「こら、愛梨珠。ちゃんと挨拶しろよ」
「んー?ノリって結構大事じゃねー?」
「ごめんね、芽唯、この子は俺の妹だ。仲良くしてやってね」
「う、うん!私、齋藤芽唯って言います!よろしくね」
「ん、よろしく」
 鬼頭君家のリビングで私、鬼頭君、愛梨珠ちゃんの三人でお茶会をした。
「芽唯さんさー、あとであーしの部屋来てくんない?」
「え、いいの?」
「よき」
 お茶会が終わった後、私は愛梨珠ちゃんの部屋に行った。
「お、おじゃましま~す」
「ん、どぞー」
 部屋は愛梨珠ちゃんにピッタリな淡いピンク色の部屋だった。
「ねぇ、芽唯さんって友達つくるときって、どんなふうに……なんて話しかけてきた?」
 そんなこと意識したことない。
「うーん……よろしくね、としか言わないかな?どうして?」
 私の言葉に愛梨珠ちゃんは目を見開いた。
「あーしね……友達って呼べる人がいなさすぎんの。あーしはあやかしが通う学校に行ってんだけど、皆、あーしが成績良いとかって言って近寄ってこない。成績良いとか褒め言葉に聞こえるけど、あーしは悪口にしか聞こえない」
「……愛梨珠ちゃんは、どうしてそれが悪口に聞こえるの?」
「確かに成績良いとかって表面は褒め言葉じゃん?でも、そのせいで他の子と話せないとか裏面は悪口じゃん?良い意味なのは表面だけ、あーしは他の子とも仲良くしたいって思ってる。でも、どうすればいいのかわかんないの」
「愛梨珠ちゃんから話しかけたことある?」
 私が言うと愛梨珠ちゃんは苦笑いした。
「……話しかけたことはあるけど、何年も前の事。今は話しかけても、皆、無視してくる。だから、独りだってこと知られたくなくて、ノリとか大事にするようになった」
「あ、愛梨珠ちゃんは、それでいいの?」
 愛梨珠ちゃんは私が言った言葉に相当驚いていた。
「……え?それでいいって?」
「今の愛梨珠ちゃんも大好きなんだけど、さっきの話だと、本来の愛梨珠ちゃんはどっか行っちゃったみたいな感じだったから……」
 私の言葉に愛梨珠ちゃんは目をぱちくりさせた。
「心配してくれてありがとう。でもね、あーしは、今の自分、けっこー気に入ってんの」
「ふふっ、なら、今の愛梨珠ちゃんの感じで明るく他の子に話しかけたら皆、愛梨珠ちゃんのトリコだよ」
「…うん。ありがとっ。お兄ちゃんのことよろしくね!」
「私もよろしくね」
 愛梨珠ちゃんと仲良くなれて良かった。
 今日は休日。
 俊君の家に来て少しが経ったので記念にどこか行くか、と俊君から提案されたので水族館に来ている。
「わぁー!サメがいる!」
「……芽唯ってこんなにはしゃぐんだね」
「あ、え?……まあ、七海がいたから私はいつも家で留守番だったんだよね」
 お父さんとお母さんが再婚する前に一回だけ来たことあるけど、幼稚園の頃だったと思う。
「芽唯、ちょっと休憩しよう」
「うん!」
 水族館内にあるレストランでお昼ご飯を食べる。
「ん~!おいしー!」
 私も俊君もハンバーグ。
「俊君ってハンバーグ好きなの?」
「うん、肉類好き」
「そうなんだっ!」
「……芽唯、他に行きたいとこある?」
 行きたいところはある。
 今日はお父さんの命日でもあるから。
 お父さんに俊君を会わせたい。
 この人が私の好きな人だよって。
「芽唯?」
「あ、なら……少し、ついて来てくれる?」
「うん」
 お昼ご飯を食べ終え、お墓に向かう。
「……芽唯、ここは?」
「お父さんのお墓、ごめんね。こんなところで…お父さんに会わせたいなって……」
 私は目を瞑り、手を合わせた。
(お父さん……久しぶり。あのね、七海とお母さんとは離れて暮らしてるよ。でも、安心してね。
この人が私を守ってくれるの。俊君は私の好きな人だよ)
 私はお父さんに想いを伝えた。
side/俊
 芽唯との記念で水族館に来た。
 芽唯はとってもはしゃいでいて、とても愛おしくて。
「芽唯、他に行きたいとこある?」
 芽唯は少し考え込んでいた。
「あ、なら、少し、ついて来てくれる?」
 芽唯の願いならなんだって叶えてやる。
 そう思った自分に驚いた。
 俺は恋愛には興味なんて一切なかった。
 芽唯と出逢うまでは。
 芽唯と出逢ったのはクラスが同じになり、席が隣になってからだ。
 出逢いとしては、決して特別なものではない。
 芽唯は双子の姉と席が前後だった。
 俺の知り合いの双子はとても仲がいいからなのか斎藤姉妹は仲がとても悪そうな雰囲気だった。
 妹の方は姉の方を見るととても怯えていた。
 だけど美人で、教科書を見せてもらった時も優しくて……そんな彼女のことを守りたくなった。
 彼女の記憶を見た瞬間にドス黒い感情が沸き上がる。
 俺は芽唯の家に行き、姉と母親に冷たい言葉を浴びせた。
 自分でも驚いた。
 そして、今、連れてこられたのはお墓だった。
「芽唯、ここは?」
「お父さんのお墓、ごめんね、こんなところで……お父さんに会わせたいなって……」
  ああ、もう。この子はいい子過ぎる……。
 芽唯は目を瞑り、手を合わせた。
 俺も同様に目を閉じ、手を合わせた。
(芽唯さんとは仲良くさせてもらっています。今は一緒に住んでいます。……ちゃんとしたことは十八歳になったら芽唯さんに言います)
 芽唯の父親に誓った。
「よしっ……行こう、俊君!」
「うん」
 私は俊君と家に帰った。
「ふぅ~っ」
 私はお風呂から出て、リビングでテレビを見ながらゆっくり休んでいると。
「……芽唯、いい匂い」
「え、ちょっと……⁉」
 俊君は私を後ろから抱きしめていた。
「そ、そりゃ、お風呂入ったし……」
 そう言うと俊君は私を抱きしめる力が強くなった。
 私の心臓はもたないかもしれない。

「ねぇ、俊君?」
「ん?」
「なんで離してくれないの?」
 私が俊君に後ろから抱きしめられている。
「なに、離してほしい?」
 そう言って私から少し距離を置いた。
「……ダメ、離れたら」
 私は自分でも驚くけれど俊君の近くに行き、今度は私が俊君を抱きしめた。
「はぁ……その可愛さ、無意識?」
「む、無意識?なにが?」
「その様子だと、無意識だね」
 俊君は一人で納得しているけど私は何が何だかよくわからない。
「あ、もうお夕飯だね」
 私はご飯を作りにキッチンへ行き、ピンク色のエプロンをした。
 今日はハンバーグ!
 俊君、喜んでくれるかな?
「ひゃあ!……な、なんでいるの……!」
 いつの間にか俊君は私の肩の上に顔を置いていた。
 近すぎる……!
 これじゃあ、心臓十個あっても足りない!
「今日はハンバーグ?」
「う、うん……」
「美味しそう」
 そう言ってハンバーグに顔を近づけたかと思ったら。
「芽唯、大好きだよ」
 そう言って甘いキスを落とした。
「私も!」
 私と俊君は笑い合った。
「そうだ。愛梨珠がね、また芽唯に会いたいんだって。いい?」
「もちろん!」
「よかった。愛梨珠に言っておくね」
 そう言われ、楽しい日々があっという間に過ぎていくのだった。
「……芽唯さん、緊張しすぎ。お兄ちゃん、どうにかして?」
「芽唯、楽にしてればいいんだよ」
 今日は鬼頭家が開催するパーティーに来ている。
「……お兄ちゃん!なんか、変な気配がするのはあーしだけ?」
 愛梨珠ちゃんが突然怖いことを言って来た。
「いや、俺も嫌な気配がするが」
「鬼頭家を敵に回すの?」
 愛梨珠ちゃんが柱の方に話しかけた。
「愛梨珠ちゃん?」
 私が言うと、何か白い物が目の前に落ちた。
「え?」
 その瞬間、黒い服を着た怪しい男性が舌打ちをして走り去ってしまった。
「待て!お遊びはまだ終わってないよ?」
 初めて見る愛梨珠ちゃんの顔に鳥肌が立つ。
「愛梨珠、大丈夫だ。逃がしても平気だ」
「なんで!あいつ、多分あーしたちのこと狙ってたんじゃない?芽唯さんにまで被害あったらどうすんの」
「そうだけど。俺たちは挨拶もある。警備の者たちに任せよう」
 俊君が言うと、愛梨珠ちゃんの殺気も落ち着いた。
「今のって、愛梨珠ちゃんの能力?」
 今見た白い物の正体が気になって仕方がない。
「ん?……電光石火。あーしは光を操れるの。主に稲妻かな。ほら」
 そう言って愛梨珠ちゃんは手のひらに小さな稲妻を落とした。
「す、すごい!」
「芽唯、そろそろ時間だ。行こう」
 俊君に手を引かれ大きな扉へ向かった。
「あ、俊様よ!」
「隣のお嬢さんは誰だろうか……」
 色々な声が飛び交っている。
 そんな中、一人の女性の声が聞こえた。 
「俊、愛梨珠。来ていたのね」
 長い髪は愛梨珠ちゃんと同じ栗色。
「ママ!久しぶり!」
 いつも大人びている愛梨珠ちゃんだが、今回は幼い子供に見える。
「母さん、久しぶり。父さんは?」
 会話を聞いていると私の目の前にいる女性が俊君と愛梨珠ちゃんのお母さんだとわかる。
「お父さんはもう少しで来るわ。……それよりも、そちらの子は?」
 私を見てコテンと首を傾げる女性。
「あ、斎藤芽唯です!」
 挨拶をすると女性はニコリと笑った。
「そう。俊のお友達かしら」
「いや、彼女」
 サラリと言う俊君に女性は驚いていた。
「まあ!俊、なんで教えてくれなかったの。芽唯ちゃん、名乗るのが遅くなってごめんなさいね。私は鬼頭真彩(まあや)と言います。よろしくね」
 俊君のお母さんが挨拶を済ますと一人の男性が近寄って来た。
「パパ!」
「父さん。久しぶり」
 俊君のお父さんは高身長で顔も整っている。
「久しぶり。そちらのお嬢さんは?」
「斎藤芽唯です!よろしくお願いします」
 挨拶をすると、俊君のお母さんが付け加えた。
「俊の彼女さんなのよ~。……愛梨珠は知っていたの?」
「もちろん!芽唯さんのおかげで色々助かったんだから」
 そう言い、私を見てはにかむ愛梨珠ちゃん。
「そうか。娘のことも俊のこともよろしくな」
「はい……!」
 こうして、俊君のお母さんとお父さんも含め、話をたくさんした後、愛梨珠ちゃんに呼ばれ、会場から少し離れた森に来た。
「前にさ、芽唯さんに友達ってどうすれば作れるか聞いたじゃん?」
 整備された道を歩いていたら愛梨珠ちゃんは足を止めて私の方に振り返った。
「うん」
「でね、芽唯さんにアドバイスもらって次の日。いつもよりも明るく笑顔で皆に挨拶したらいきなり謝られてね、ビックリしたんだから」
 呆れたような安心したような笑顔になる愛梨珠ちゃん。
「で、友達もたくさんできた。……芽唯さんに感謝しなきゃって思ったの。ありがとね」
「ううんっ!愛梨珠ちゃん、良かったね!」
 そういうと足音が聞こえた。
「ありすちゃーん!あっちで遊ぼ―!」
 愛梨珠ちゃんと同じくらいの年の子たちがぞろぞろと集まって来た。
「うん!……じゃあ、芽唯さんもお兄ちゃんと楽しんでね?」
 そう言って愛梨珠ちゃんは走り去って行った。
 そして、パーティーは終わり、俊君と家に帰った。
「ふぅ~。疲れた」
「頑張ったな。芽唯」
 そう言って頭を撫でてくれる俊君の手は温かい。
 この温かい居場所がとても安心できる。
 この嬉しさはいつまで続くのかな。  
 数日間、色々なことがあって学校に行けてなかった。
 俊君が学校側には連絡をしてくれているみたいだ。
「あ、斎藤さんじゃん……」
 ヒソヒソと聞こえるがなぜか皆、私ではなく七海を見ている。
「ねえ、芽唯。ちょっと話があるんだけど、いい?」
 何日も話していない七海に声を掛けられた。
「う、うん」
 とても緊張してきた。
 何を言われるか不安で仕方がなかった。
「……突然だけど、あたし転校することになったの」
 少し不機嫌そうに言う七海。
「え?それってどういう──」
「もう意味ないって知ったからよ。芽唯を虐めて何も得にならないこと今更だけど気が付いたの」
 私から目を背けた七海。
「……芽唯を虐めてたってことがバレて逆にあたしが散々な目にあったのよ。まあ、きっと芽唯が負った傷よりもずっとずっと浅いものなんだけどね」
 そう言って私には普段見せなかった笑顔を見せた。
「……謝ってもきっと許されることではないのはわかってるんだけど、ごめんなさい、芽唯。鬼頭君と仲良くね?鬼頭君に芽唯の傷は癒してもらうといいわね。じゃあね」
「うん、な、七海も元気でね……!」
 そう言って七海とは永遠に別れることとなったのだ。
 けれど、最悪な別れ方じゃなくてよかったと思う。
 笑顔も見れずに別れることもあったかもしれない。
 そう考えるとまだマシな別れ方だった。
 家に帰ればいつものように俊君が待っていた。
「おかえり、芽唯。姉の方とは綺麗さっぱり別れられた?」
「うん。七海が転校なんて驚いたよ。でも、これも俊君のおかげだね」
「そう?俺のおかげ?」
「うん!俊君がいなかったら最悪なままだったよ」
 俊君に出逢えたことに感謝しなくちゃいけない。