こうして時は過ぎて行き、あっという間に春。
 桜が満開だ。
「芽唯、行こう?」
「うん……!」
 桜の花びらたちが私たちの背中を押す。 
 私たちは二年生になった。
「芽唯ちゃん!私たち同じクラスだって」
 新菜ちゃんが走ってきた。
「本当?嬉しいなっ」
「芽唯、俺たちも同じクラスだよ」
 俊君が言った。
「俺たち……?」
 私が疑問を抱いていると俊君の後ろから声が聞こえた。
「私も同じクラスですの」
「私もよ」
 声の正体は美月さんとメアリさんだった。
「え……!美月様とメアリ様と同じクラス~!」
 新菜ちゃんは嬉しくてたまらないようだ。
 ぴょんぴょん飛び跳ねる新菜ちゃん。
「に、新菜ちゃん……⁉」
「なんでそんなに芽唯ちゃんは冷静なの?あの美月様とメアリ様だよ?」
 周りに俊君たちがいるから偉大さがわからなくなってきた。
「新菜、私はそんなに偉大じゃないわよ?美月は偉大かもしれないけれど」
 メアリさんが呆れたような眼差しで新菜ちゃんを見る。
「まあ、早く行かないと遅れてしまうわ。行きましょう」
 美月さんの言葉で私たちは足を動かした。
 教室に入れば誰もが美月さんの方を見ていた。
「美月様だ……!」
「嘘、俊様も!」
「メアリ様まで~!」
 メアリさんは鬼頭家には及ばないものの、大企業のご令嬢だ。
 美月さんは誰もが見惚れるオーラがある。
 学年の中で三大美女と呼ばれている美月さんとメアリさん。
 その名に恥じない歓声だ。
「あの、メアリさん──」
「メアリって呼んで。同じクラスで関りもあるんだから。それに敬語じゃなくていいわ」
「うん!メアリ、さっき先生が呼んでたよ」
「そう。ありがとう」
 メアリとも仲良くなれそうでよかった。
 休み時間、新菜ちゃんと話していると誰かの声がした。
「鬼頭君っていますかー?」
 その子はミルクブラウンのふわふわの髪をなびかせていた。
「あの子って新堀(しんぼり)夏奈(かな)だっけ。三大美女の最後の一人」
「そうなの?確かにとても可愛い子……」
 メアリや美月さんは大人っぽい美人だったけれど、新堀さんは可愛いが似合う子だった。
 俊君になにか用なのかな。 
「新堀?何か用?」
 俊君が椅子から立ち上がり、新堀さんの方へ行く。
「あのね、委員会の話でね──」
 俊君と新堀さんが話しているところを見ていると新菜ちゃんが言った。
「新堀さんって隣のクラスなんだけどね、すごい人気があるモデルみたいだよ」
 新堀さんってモデルなんだ。すごく可愛いもんね。
「あれってモデルの夏奈だよね?」
「え、知らないの?超有名人じゃん」
 クラスメイトも皆新堀さんのことを話している。
 そして、下校時刻。
 俊君は委員会の仕事があるみたで今日は一人で帰る。
「ねぇ、芽唯ちゃん?」
 この声は確か新堀さん。
「……新堀さんだっけ?私に用かな」
「あのね、夏奈に手に入れられないものはないの。なーんでも手に入るの。だから、夏奈に鬼頭君を頂戴?」
 なにを言っているのだろう。
「そんなことさせないわ」 
「──っ?」
 新堀さんが息を呑む。
 柱の後ろからメアリが出てきた。
「あれ?メアリちゃん。盗み聞きなんて悪趣味だなぁ~」
 ふふっと笑う新堀さんは不気味だ。
「趣味悪いのはどっちかしらね。俊くんは芽唯の彼氏。新堀さんのものにはならないわ」
 メアリがきっぱりと言い切った。
「……その自信どこから湧いてくるのかなぁ。まあ、そんなこと関係ないよね、結果は同じなんだから」
 意味深な笑顔を残して新堀さんは帰ってしまった。
「メアリ、ありがとう」
「いいえ。気を付けて帰るのよ」
 帰り道、久しぶりに一人で帰るのでワクワクしていた。
「──……!」
 誰か知らない人に腕を掴まれ、人がいない場所に連れてこられた。
「リーダー、こいつっすよね」
 金髪の明らかにガラが悪そうな男性が何人かいた。
「そうだな。お前、鬼頭俊の連れだろ?そいつ、今どこにいんの?」
「し、知らないっ!早く帰して」
「帰すわけないだろ」
 どうしよう。助けて俊君……!
「芽唯!」
「芽唯さん……!あなた方、パーティーにいらしていた方でよろしくて?」
 この声は俊君だ。それに美月さんも。
 なんか見覚えあると思えば鬼頭君が開催しているパーティーで愛梨珠ちゃんが倒してくれた人たちだ。
「……!鬼頭俊、それに漆黒の来訪者⁉」
「鬼頭美月もいたら勝てるわけないでしょ……最強と謳われるやつでしょ?」
「リーダー、逃げましょう!」
 私を捉えていた人たちは二人を見た途端に先ほどまでの勢いがなくなっていた。
「質問に答えてくださる?それ以外は何も興味はないわ」
「ひっ!」
 美月さんは周りに咲いていた花のくきを伸ばし、複数人の大人たちを捉えた。
「……つまらない人たち」
 美月さんがボソッと呟いた。
「芽唯、大丈夫?」
 俊君が優しく言った。
「う、うん。大丈夫……」
 本当は怖くてたまらない。
「大丈夫。安心して」
 そう言われた途端、安心して涙が零れた。
「やっぱり、いつも助けてくれるのは俊君だね」
「いつでも助けにいくよ」
 俊君の暖かい腕の中に閉じ込められた。 
 翌日、新堀さんと話すことになった。
「……で、新堀と芽唯の件は関りがあるのか?」
「新堀さん、答えてくださる?」
「……あたしがあの大人たちに頼んだの。だって、芽唯ちゃんが羨ましくて……」
 羨ましい?何がだろう。
「なんで芽唯が羨ましいの?」
 メアリが顔を険しくして聞いた。
「芽唯ちゃんは鬼頭君やメアリちゃんたちに守られてる。だけど、あたしは誰も守ってくれない。なぜか憎らしくて……」
「……そう。貴方の嫉妬が度を過ぎた、ということかしら」
「うん。ほ、ホントにごめんなさい!」
 新堀さんは勢い良く頭を下げた。
「大丈夫だよ。でも、今回のことでわかったでしょ?意味ないって」
 私は今思ってることを伝えた。
「うん……」
「ならいいの。わかってくれたなら」