うつむいて歩いていると、「坂井さん」と不意に声をかけられた。
そうかと思ったら、つながれた手にぐっと力がこめられた。
次の瞬間には、私は壁と勝見君の胸の間に収まっていた。
カッターシャツの薄い生地越しに伝わる心臓の音。
胸の厚さ。
漂う匂いや体温。
肩に置かれた大きな手の感触。
バクバクと大きく早鳴る心音の中に、「すんません」と軽い声が混ざった。
壁と勝見君の間にできたわずかな隙間から、段ボールを抱えた男子生徒が危なげに階段を降りていくのが見えた。
その生徒が廊下の方に消えても、心臓は鳴りやまなかった。
これは、私の心臓の音だろうか。
それとも、勝見君のものだろうか。
男子生徒の姿が見えなくなっても、私たちの距離はしばらくそのままだった。
視線を上げれば、すぐそこに勝見君の顔があるのがわかるから、顔を上げられなかった。
だけど、勝見君の息遣いが、私を呼ぶように前髪を柔らかくなでてくる。
そこに、さりげなく勝見君の唇が押し当てられる。
額に感じる柔らかな感触に、胸がきゅっと引き締まるのを感じると、思わず眉間にも力がこもった。
ごくりとのどが鳴ったその時、
「坂井さん」
私の名前を呼ぶのと同時に、私の肩に置かれた勝見君の手に、力がこもったのがわかった。
視線を上げると、勝見君はちょっと悲しそうな目を私に向けていた。
「夏休み、連絡できなくてごめん。ずっと連絡してなくて。連絡するって、約束したのに」
「あ、ああ、ううん、大丈夫だよ。勝見君、バイトもして勉強もして大変だし。忙しいから仕方ないよ」
私は壁と勝見君に挟まれて身を小さくしたままそう答えた。
笑って言ったつもりだけど、声に力が入らなかった。
夏休みの寂しさなんて、勝見君と会えた瞬間に忘れていたのに。
ほんの些細なことで揺れる動く不安定な気持ちも、勝見君を疎ましく、妬ましく思っていた自分も、全部忘れていたのに。
勝見君のその言葉が、忘れていたはずのすべての気持ちを、一気に私のもとに連れて帰ってきた。
そうかと思ったら、つながれた手にぐっと力がこめられた。
次の瞬間には、私は壁と勝見君の胸の間に収まっていた。
カッターシャツの薄い生地越しに伝わる心臓の音。
胸の厚さ。
漂う匂いや体温。
肩に置かれた大きな手の感触。
バクバクと大きく早鳴る心音の中に、「すんません」と軽い声が混ざった。
壁と勝見君の間にできたわずかな隙間から、段ボールを抱えた男子生徒が危なげに階段を降りていくのが見えた。
その生徒が廊下の方に消えても、心臓は鳴りやまなかった。
これは、私の心臓の音だろうか。
それとも、勝見君のものだろうか。
男子生徒の姿が見えなくなっても、私たちの距離はしばらくそのままだった。
視線を上げれば、すぐそこに勝見君の顔があるのがわかるから、顔を上げられなかった。
だけど、勝見君の息遣いが、私を呼ぶように前髪を柔らかくなでてくる。
そこに、さりげなく勝見君の唇が押し当てられる。
額に感じる柔らかな感触に、胸がきゅっと引き締まるのを感じると、思わず眉間にも力がこもった。
ごくりとのどが鳴ったその時、
「坂井さん」
私の名前を呼ぶのと同時に、私の肩に置かれた勝見君の手に、力がこもったのがわかった。
視線を上げると、勝見君はちょっと悲しそうな目を私に向けていた。
「夏休み、連絡できなくてごめん。ずっと連絡してなくて。連絡するって、約束したのに」
「あ、ああ、ううん、大丈夫だよ。勝見君、バイトもして勉強もして大変だし。忙しいから仕方ないよ」
私は壁と勝見君に挟まれて身を小さくしたままそう答えた。
笑って言ったつもりだけど、声に力が入らなかった。
夏休みの寂しさなんて、勝見君と会えた瞬間に忘れていたのに。
ほんの些細なことで揺れる動く不安定な気持ちも、勝見君を疎ましく、妬ましく思っていた自分も、全部忘れていたのに。
勝見君のその言葉が、忘れていたはずのすべての気持ちを、一気に私のもとに連れて帰ってきた。