伊月さんは、あやかしの私(夕凪)から見ても、相当に怖い顔をしている。
体が大きくて威圧感あるし、いつも眉根が寄っていて、口をしっかり結んで、機嫌が悪そうな雰囲気だ。
正直、話しかけにくい。
話しかけても、返ってくる言葉が短くて会話が続かない。
だから、めったに話しかけない。
でも、この前、意識がなかった那美ちゃんを運んで来た時には少し様子が違った。
伊月さんのことは、元服前の子供だった頃から知っているけど、あの時みたいに、困ったような顔をして、あたふたしている様子は珍しかった。
「この人、誰ですか?」
伊月さんに聞くと、戦場で拾った女だ、としか言わない。
「もしかして、敵地で気に入った女を 無理矢理 連れ帰ったんじゃ…?」
「断じて違う! 気を失っておるので、放っておけなかっただけだ。」
「ふうん。」
伊月さんは、いかにも無理矢理 女を連れ去りそうな見た目をしているけど、そういうのは、けっこう真面目だ。
でも、女を連れて凱旋した伊月さんを見た町人たちは、鬼武者が女人を手籠めにして攫ってきたと噂している。
だから、一応、確かめてみた。
「オババ様、この女人の身柄を預かってもらえまいか?」
と、困惑気味だ。
眉毛が下がって困り顔をしている伊月さんを初めて見たかもしれない。
「なぜ自分のところで引き取らん?」
「我が家のようなむさくるしい男所帯に引き取られては気の毒だ。それに、目覚めた時に私がいては怖がるだろう。」
「まあ、それもそうだが、オヌシ、この娘が気に入ったのではないのか?」
「な、何を!? 気に入ったも何も、得体のしれぬ者ですよ!」
「ふうん…」
オババ様が不敵な笑みを伊月さんに向けた。
「と、とにかく、お願いします!」
伊月さんは頭を下げる。
「ワシは構わぬよ。この娘、面白きカムナリキを持っておる。この世の者とは思えぬ気を感じるな。」
「そうなのですか?」
伊月さんは何か思い当たりがあるような顔をした。
意識がなかった時でも、那美ちゃんからは形容しがたい不思議な気が感じられた。
あやかし好きする、強い霊力だ。
―― 八咫烏さんがこの人と会ったら絶対に猛烈に口説きそう。
知り合いの神使の八咫烏さん(女好き)を思い浮かべる。
「立て続けに不思議な出来事があり、まだ処理しきれません。」
伊月さんはオババ様に江国軍討伐の様子を語った。
まず、これまでに人間には操ることができないと言われていた魔獣を操って、戦に利用した人物がいる。
利用された魔獣は火系の魔獣で、空を飛ぶ翼竜だった。
このあたりではめったに見ない珍しい魔獣だ。
さらに、晴天だった戦場がいきなり土砂降りになり、雷が敵方を狙ったように次々に落ちた。
「もしかしたら、この娘のカムナリキのせいかもしれぬぞ。」
「この女人があの天候の変化の原因と?」
「おそらくな。」
オババ様は面白い物を見つけた子供のように好奇心の目を那美ちゃんに向けていた。
伊月さんが去っていくと、オババ様がニヤっと笑った。
「夕凪、伊月とこの娘は、いずれくっつくぞ。」
「え? 恋するってことですか?」
「多分な。前にも会っておるようだ。」
「え?え?運命の再会ってことですか?」
私は恋の話が大好きなお年頃なので、少しワクワクする。
「でも、伊月さんは得体の知れない女って言ってましたよ?」
「そのうち思い出すだろう。」
前に会ってるけど、忘れているってことらしい。
思い出した時に、恋に落ちるのかな。
なんか、素敵すぎる話じゃない?
「でも…恋愛する伊月さんとか、ぜんっぜん想像つかない…。逢瀬とかできるんですか?口説いたりできるんですか?」
「…できんだろうな。童貞だしな。」
―― 即答したな。しかも童貞か。
せっかく恋愛御伽草子のような恋愛物語の本物が近くで見られると思ったんだけど、簡単には行かなそうだな。
体が大きくて威圧感あるし、いつも眉根が寄っていて、口をしっかり結んで、機嫌が悪そうな雰囲気だ。
正直、話しかけにくい。
話しかけても、返ってくる言葉が短くて会話が続かない。
だから、めったに話しかけない。
でも、この前、意識がなかった那美ちゃんを運んで来た時には少し様子が違った。
伊月さんのことは、元服前の子供だった頃から知っているけど、あの時みたいに、困ったような顔をして、あたふたしている様子は珍しかった。
「この人、誰ですか?」
伊月さんに聞くと、戦場で拾った女だ、としか言わない。
「もしかして、敵地で気に入った女を 無理矢理 連れ帰ったんじゃ…?」
「断じて違う! 気を失っておるので、放っておけなかっただけだ。」
「ふうん。」
伊月さんは、いかにも無理矢理 女を連れ去りそうな見た目をしているけど、そういうのは、けっこう真面目だ。
でも、女を連れて凱旋した伊月さんを見た町人たちは、鬼武者が女人を手籠めにして攫ってきたと噂している。
だから、一応、確かめてみた。
「オババ様、この女人の身柄を預かってもらえまいか?」
と、困惑気味だ。
眉毛が下がって困り顔をしている伊月さんを初めて見たかもしれない。
「なぜ自分のところで引き取らん?」
「我が家のようなむさくるしい男所帯に引き取られては気の毒だ。それに、目覚めた時に私がいては怖がるだろう。」
「まあ、それもそうだが、オヌシ、この娘が気に入ったのではないのか?」
「な、何を!? 気に入ったも何も、得体のしれぬ者ですよ!」
「ふうん…」
オババ様が不敵な笑みを伊月さんに向けた。
「と、とにかく、お願いします!」
伊月さんは頭を下げる。
「ワシは構わぬよ。この娘、面白きカムナリキを持っておる。この世の者とは思えぬ気を感じるな。」
「そうなのですか?」
伊月さんは何か思い当たりがあるような顔をした。
意識がなかった時でも、那美ちゃんからは形容しがたい不思議な気が感じられた。
あやかし好きする、強い霊力だ。
―― 八咫烏さんがこの人と会ったら絶対に猛烈に口説きそう。
知り合いの神使の八咫烏さん(女好き)を思い浮かべる。
「立て続けに不思議な出来事があり、まだ処理しきれません。」
伊月さんはオババ様に江国軍討伐の様子を語った。
まず、これまでに人間には操ることができないと言われていた魔獣を操って、戦に利用した人物がいる。
利用された魔獣は火系の魔獣で、空を飛ぶ翼竜だった。
このあたりではめったに見ない珍しい魔獣だ。
さらに、晴天だった戦場がいきなり土砂降りになり、雷が敵方を狙ったように次々に落ちた。
「もしかしたら、この娘のカムナリキのせいかもしれぬぞ。」
「この女人があの天候の変化の原因と?」
「おそらくな。」
オババ様は面白い物を見つけた子供のように好奇心の目を那美ちゃんに向けていた。
伊月さんが去っていくと、オババ様がニヤっと笑った。
「夕凪、伊月とこの娘は、いずれくっつくぞ。」
「え? 恋するってことですか?」
「多分な。前にも会っておるようだ。」
「え?え?運命の再会ってことですか?」
私は恋の話が大好きなお年頃なので、少しワクワクする。
「でも、伊月さんは得体の知れない女って言ってましたよ?」
「そのうち思い出すだろう。」
前に会ってるけど、忘れているってことらしい。
思い出した時に、恋に落ちるのかな。
なんか、素敵すぎる話じゃない?
「でも…恋愛する伊月さんとか、ぜんっぜん想像つかない…。逢瀬とかできるんですか?口説いたりできるんですか?」
「…できんだろうな。童貞だしな。」
―― 即答したな。しかも童貞か。
せっかく恋愛御伽草子のような恋愛物語の本物が近くで見られると思ったんだけど、簡単には行かなそうだな。