「オババ様ー!オババ様ー!」
少し甲高い声が聞こえた。
子供みたいな声だ。
「どうした?」
「武士が来るー!」
―― え?え?どこから声がするの?
私はわけがわからず、部屋の回りをキョロキョロ見渡す。
オババ様は水晶を片付けつつ手元を見ながら応対しているのでわからない。
「那美ちゃん、声の主はあの鳩です。」
夕凪ちゃんが私の肩をツンツンとつついて、窓の所を指さした。
開いた窓に丸々太った白い鳩がちょこんと停まっている。
「武士が馬に乗ってくるー!亜の国主の使者だー!」
―― うわぁー鳩がしゃべってる!
「そうか。面倒じゃなぁ。」
ビックリしている私をよそにオババ様はサッサと水晶をしまい、鳩と会話している。
「あの鳩もオババ様の眷属で、名を吉太郎と言います。屋敷の周りを監視しているのです。」
と、夕凪ちゃんが教えてくれた。
「那美、オヌシが異界から来たという事は他言無用じゃ。わかったな?」
「はい。」
―― やっぱり秘密にした方がいいのか。
「じゃ、私は消えてますねー。」
「え?」
夕凪ちゃんの体からボンと煙が立って、次の瞬間には消えてしまった。
―― そんなことが出来るんだ。便利だな。
馬に乗ってやってきた武士は亜国の国主の伝令だった。
私は、武士とオババ様にお茶を出した。
袴をはいて、二本差しをしている本格的な武士をリアルで見たのはもちろん初めてだったので思わずマジマジと見てしまった。
時代劇で見る侍と違うのは、着物がとてもカラフルだということと、月代をしていないということだ。
パッと見は私と同じくらいか少し上くらいの年齢に見えた。
その人は私の方をチラリと見た。
目が合ってしまったので、慌ててお辞儀をした。
「こちらの方は?」
「新しい巫女じゃ。暫くここに住むことになった。」
「よろしくおねがいします。」
「ご出身はどちらかな?」
「え、えっと…」
「江の国の出身の者じゃ。先日の魔獣の襲撃で身寄りを失ったので引き取った。」
と、オババ様がすかさず助け舟を出してくれた。
「あの、私はこれで。どうぞ、ごゆっくり。」
これ以上いるとボロが出そうだったので、台所に引っ込んで待機することにした。
台所の横にある円卓に座ったら、ボンと目の前に煙が出て、夕凪ちゃんが現れた。
「ビックリした―!」
「私は、那美ちゃんの存在の方がビックリです。」
「え? どうして?」
「異世界から来たというし。竃の使い方も火打ち石の使い方もわからないし、それもビックリです。」
「す、すみません。」
「それより、オババ様の恋の話、もう少し聞きたかった。」
夕凪ちゃんは目を輝かせて完全に恋を夢見る乙女の顔だ。
「夕凪ちゃんは どんな人がタイプなの?」
「タイプって?」
「好みの人はどんな人かなって。」
「源次郎さんのような声をしている人かなぁ。」
「源次郎さんって誰?しかも顔とかじゃなくて声なんだ。」
「源次郎さんは、那美ちゃんを助けた、伊月さんの家来だよ。声の質がとてもいいの。」
―― イケボ好きか!
「見た目はどうなの?」
「んーあんまり好みの見た目ではないかなぁ。源次郎さん、たぬき顔っていうよりも狐顔だし。私はたぬき顔の方が好き。」
話していてだんだんわかったことは、どうやら夕凪ちゃんは顔が濃いめのイケボが好きらしい。
「でも、私、まだ95歳だから、御伽草子の中でしか恋愛のことは知らない。」
「そっか、まだ95だもんね…」
色々つっこみどころがある発言だったけど、どうやら夕凪ちゃんは初恋もまだっぽいな。
そんなこんなで、夕凪ちゃんととりとめもない話をしているうちに、国主の使者とやらは帰って行ったらしい。
馬の足音が遠のいていく。
「おーい、夕凪、那美。」
オババ様が台所に入ってくる。
「明日、城に行くことになった。那美も一緒に行くぞ。」
「私もですか?」
「オヌシ、この屋敷の敷地からまだ一歩も出ておらんだろ。外を見る良い機会じゃ。」
「那美ちゃん、良かったね。いってらっしゃい・・・って、なに、それ?」
「へ?」
夕凪ちゃんが急に私の胸元を指さす。
「わぁ。」
私の着物の襟元から光が出ている。
懐に手を入れて、しまっておいた数珠を取り出すと、数珠の黄色の石が光っている。
「ほう、オヌシ、雷石を持っておるのか?」
「これは、小さい時に人からもらった数珠です。これが雷石とは知りませんでした。」
私は数珠をオババ様に手渡して見せた。
ふむふむとあちらこちら見ていたオババ様が私に数珠を返して言った。
「よき願いが込められたものじゃ。だがそんなに光っては悪目立ちするな。当分、オヌシの修行はその光を弱めたり強めたり制御できるようになることじゃな。」
「そんなことできるんですか。」
「できなければいかぬ。カムナリキを駄々洩れにしながら生きていたら消耗も激しいからな。」
「あー、だから那美ちゃんよく食べるのかもですね。」
異世界に来て三日で食いしん坊というレッテルを貼られてしまった。
「でも昨日までは光ってなかったのに。」
「オヌシの弱っておったカムナリキがいよいよ回復した証拠じゃ。」
「そういうことか。」
こうして私の修行メニューが決まり、この日は一日、光の加減=カムナリキの流出加減を調節する修行を行った。
少し甲高い声が聞こえた。
子供みたいな声だ。
「どうした?」
「武士が来るー!」
―― え?え?どこから声がするの?
私はわけがわからず、部屋の回りをキョロキョロ見渡す。
オババ様は水晶を片付けつつ手元を見ながら応対しているのでわからない。
「那美ちゃん、声の主はあの鳩です。」
夕凪ちゃんが私の肩をツンツンとつついて、窓の所を指さした。
開いた窓に丸々太った白い鳩がちょこんと停まっている。
「武士が馬に乗ってくるー!亜の国主の使者だー!」
―― うわぁー鳩がしゃべってる!
「そうか。面倒じゃなぁ。」
ビックリしている私をよそにオババ様はサッサと水晶をしまい、鳩と会話している。
「あの鳩もオババ様の眷属で、名を吉太郎と言います。屋敷の周りを監視しているのです。」
と、夕凪ちゃんが教えてくれた。
「那美、オヌシが異界から来たという事は他言無用じゃ。わかったな?」
「はい。」
―― やっぱり秘密にした方がいいのか。
「じゃ、私は消えてますねー。」
「え?」
夕凪ちゃんの体からボンと煙が立って、次の瞬間には消えてしまった。
―― そんなことが出来るんだ。便利だな。
馬に乗ってやってきた武士は亜国の国主の伝令だった。
私は、武士とオババ様にお茶を出した。
袴をはいて、二本差しをしている本格的な武士をリアルで見たのはもちろん初めてだったので思わずマジマジと見てしまった。
時代劇で見る侍と違うのは、着物がとてもカラフルだということと、月代をしていないということだ。
パッと見は私と同じくらいか少し上くらいの年齢に見えた。
その人は私の方をチラリと見た。
目が合ってしまったので、慌ててお辞儀をした。
「こちらの方は?」
「新しい巫女じゃ。暫くここに住むことになった。」
「よろしくおねがいします。」
「ご出身はどちらかな?」
「え、えっと…」
「江の国の出身の者じゃ。先日の魔獣の襲撃で身寄りを失ったので引き取った。」
と、オババ様がすかさず助け舟を出してくれた。
「あの、私はこれで。どうぞ、ごゆっくり。」
これ以上いるとボロが出そうだったので、台所に引っ込んで待機することにした。
台所の横にある円卓に座ったら、ボンと目の前に煙が出て、夕凪ちゃんが現れた。
「ビックリした―!」
「私は、那美ちゃんの存在の方がビックリです。」
「え? どうして?」
「異世界から来たというし。竃の使い方も火打ち石の使い方もわからないし、それもビックリです。」
「す、すみません。」
「それより、オババ様の恋の話、もう少し聞きたかった。」
夕凪ちゃんは目を輝かせて完全に恋を夢見る乙女の顔だ。
「夕凪ちゃんは どんな人がタイプなの?」
「タイプって?」
「好みの人はどんな人かなって。」
「源次郎さんのような声をしている人かなぁ。」
「源次郎さんって誰?しかも顔とかじゃなくて声なんだ。」
「源次郎さんは、那美ちゃんを助けた、伊月さんの家来だよ。声の質がとてもいいの。」
―― イケボ好きか!
「見た目はどうなの?」
「んーあんまり好みの見た目ではないかなぁ。源次郎さん、たぬき顔っていうよりも狐顔だし。私はたぬき顔の方が好き。」
話していてだんだんわかったことは、どうやら夕凪ちゃんは顔が濃いめのイケボが好きらしい。
「でも、私、まだ95歳だから、御伽草子の中でしか恋愛のことは知らない。」
「そっか、まだ95だもんね…」
色々つっこみどころがある発言だったけど、どうやら夕凪ちゃんは初恋もまだっぽいな。
そんなこんなで、夕凪ちゃんととりとめもない話をしているうちに、国主の使者とやらは帰って行ったらしい。
馬の足音が遠のいていく。
「おーい、夕凪、那美。」
オババ様が台所に入ってくる。
「明日、城に行くことになった。那美も一緒に行くぞ。」
「私もですか?」
「オヌシ、この屋敷の敷地からまだ一歩も出ておらんだろ。外を見る良い機会じゃ。」
「那美ちゃん、良かったね。いってらっしゃい・・・って、なに、それ?」
「へ?」
夕凪ちゃんが急に私の胸元を指さす。
「わぁ。」
私の着物の襟元から光が出ている。
懐に手を入れて、しまっておいた数珠を取り出すと、数珠の黄色の石が光っている。
「ほう、オヌシ、雷石を持っておるのか?」
「これは、小さい時に人からもらった数珠です。これが雷石とは知りませんでした。」
私は数珠をオババ様に手渡して見せた。
ふむふむとあちらこちら見ていたオババ様が私に数珠を返して言った。
「よき願いが込められたものじゃ。だがそんなに光っては悪目立ちするな。当分、オヌシの修行はその光を弱めたり強めたり制御できるようになることじゃな。」
「そんなことできるんですか。」
「できなければいかぬ。カムナリキを駄々洩れにしながら生きていたら消耗も激しいからな。」
「あー、だから那美ちゃんよく食べるのかもですね。」
異世界に来て三日で食いしん坊というレッテルを貼られてしまった。
「でも昨日までは光ってなかったのに。」
「オヌシの弱っておったカムナリキがいよいよ回復した証拠じゃ。」
「そういうことか。」
こうして私の修行メニューが決まり、この日は一日、光の加減=カムナリキの流出加減を調節する修行を行った。