最初の鳥居をくぐると、鳥居の間に今までなかった夜店が狐火とともに浮かび上がった。
それはとても幻想的で美しかった。
さっきまで静寂に包まれていた空間に、人間のそれとは違った音色のおはやしが聞こえ始めた。
「わぁ。」
そして、足元には沢山の狐たちが祭りを楽しむように歩いている。
狐たちが私の足元を通り過ぎるたびに尻尾が当たってくすぐったい。
―― すごいモフモフしている!
ゆっくり歩く私たちの元に、狐の面を付けた男の人がやって来て、りんご飴を一本ずつくれた。
「ありがとうございます。」
お礼を言うとその男の人の体がスッと消える。
「あの、これ、食べてもいいんですか?って、もう食べてる。」
伊月さんの様子を伺うと、もうすでにりんご飴をしゃりしゃり頬張っている。
「普通にうまいぞ。」
「ふふふ。じゃあ私も頂きます。」
―― ん?
「あの、このりんご飴、食べたらすぐにカムナリキが回復しているのがわかります!」
「そうか?あの稲荷のはからいだろう。どうやら歓迎されているらしいな。」
そのまま夜店を冷やかしながら歩いていくと、一匹の狐が歩みよってきた。
「そこのお侍さん、弓を射てみないかい?」
狐が指さす方向を見ると、何匹か人間の姿をしているけど尻尾を出した狐たちが的めがけて弓を射ている。
的が遠いのか、なかなか的に当てられないでいる。
当てたとしても、真ん中にはほど遠い。
「あのかすみ的の中白に当てれば景品をやるぞ。」
その隣にある景品の山を見ると、可愛い狐のぬいぐるみや、お面がおいてあった。
「わぁ、可愛い。」
「何だ、欲しいのか? ならば弓を射よう。」
「その調子だぜ、お侍さん!」
狐に促されて、代金を払い、伊月さんが弓を取る。
それまで全然的に当てられなかった狐たちが弓を射るのを辞めて伊月さんに注目した。
「あれに当てればいいのか?」
「へい。」
「この距離でか?」
「へい。そうです。」
本当にいいのか…とつぶやきつつ伊月さんは的を見据えて、体制を整え、弓を引いた。
伊月さんの弓を引く姿が凛々しくて思わず見とれてしまう。
―― カッコいい…
ヒュンと、伊月さんの放った矢は風を切って、的の真ん中を射た。
うおお!と、周りの狐たちも私も歓声を上げ、拍手がなった。
何事かと野次馬ならぬ野次狐たちが集まって来る。
でも、何故か一人伊月さんは納得の行かない顔をしている。
「おい、店主、もう一本矢をくれ。全然威力が足りなかった。」
「何を言いますか。大当たりではありませんか。」
「いいから、もう一本、寄越せ。」
伊月さんは無理矢理代金を払い、もう一本矢を貰って弓を引いた。
今度も矢は風を切り、的の真ん中に当たった。
でも、今度はズドンッ!というすごい音がして、矢は的の後ろの分厚い巻き藁の向こう側にまで突き抜けていた。
「す、すごい!」
野次狐たちがわっと歓声を上げ、皆で拍手喝采を送る。
私も思わず狐たちときゃあきゃあ騒ぐ。
「伊月さんカッコいいです!」
「い、いいから、景品を選べ。」
伊月さんは私の背中を押して景品の山に連れて行った。
「私が選んでいいんですか? 伊月さんが弓を射たのに。」
「そなたのために射たのだ。」
「きゃー!嬉しい。じゃあ、これ。」
私は鍵を咥えている狐のぬいぐるみを選んだ。
―― うぅ。可愛い~。
嬉しくてぬいぐるみをきゅっと抱きしめた。
「そんな面妖な人形が好きなのか・・・」
「め、面妖って、可愛いじゃないですか。」
そこに狐の店主も反論してきた。
「面妖とは何だ!この人形は、この界隈で有名な俳優のコン吉様を模したものだぞ。コン吉様は一世一代の伊達役者で…」
「そ、そうか…。悪かった。」
店主の熱弁に伊月さんも押され気味だ。
「ところで、娘っ子。」
狐の店主が私に言う。
「もう一つ景品を選べ。このお侍さんは二本とも真ん中に当てやがったからな…」
「いいんですか?」
「いいも何も、そういう決まりだ。」
「わぁい!」
私はコン吉人形をもう一つ取った。
今度は口に玉を咥えているやつだ。
「そ、そんなにこれが好きなのか…?」
少し困惑気味の伊月さんに、ぬいぐるみをグイっと差し出す。
「一つは伊月さんのです。」
「は?」
「お願いです、もらって下さい。」
私は少し強引にコン吉人形を伊月さんの手に持たせた。
「な、なぜ…?」
伊月さんは困惑した顔をした。
―― う、強面の伊月さんがぬいぐるみ持ってるのって、なんだか…
ギャップ萌えして心臓が破壊されそうになったのを抑えて説明する。
「この旅の思い出に、伊月さんとお揃いのお土産が欲しいんです。だめですか? 」
「そ、そうか…。なら、貰っておこう。」
伊月さんはそれ以上反論せずにコン吉人形を貰ってくれた。
―― 良かった。
私たちは狐の店主にお礼を言って歩き始めた。
それからも狐たちは行く先々で昆布茶をくれたり、お団子をくれたり、踊りを見せたりしてくれた。
狐たちの踊りを見ていると、だんだんと千本鳥居の形が薄れていく。
「あ...」
次の瞬間、狐のお祭りのおはやしも聞こえなくなり、狐たちの姿も消えた。
気がつくと元の神社の敷地内にいた。
「どうやら、人間の方の祭りに戻ってきたらしいな。」
私たちは境内の裏にいるらしく、遠くから人の声やおはやしが聞こえるけど、
この周りには提灯もともってなかった。
「わぁ。すごい体験をしちゃいましたね。すごく楽しかったです。狐もみんなモフモフでかわいか・・・きゃ!」
急に伊月さんの手が私の腰に周って、体をグイっと引き寄せられた。
そのまま伊月さんは私の体をぎゅっと抱きしめた。
「い、伊月さん…」
伊月さんは私の肩に顔を埋めて深いため息をついた。
「今日一日、そなたが愛らしすぎて心臓がもたぬかと思った。」
「え?」
「ずっとこうしたかった。」
伊月さんはいつもの低く落ち着いた声で、でもどこか切なそうにそうささやいた。
そしてきつく抱きしめたまま私の髪の毛をそっと撫でた。
胸がきゅんとして私も伊月さんの背中にそっと手を回した。
「私も伊月さんがかっこよくて、ずっとドキドキしていました。」
「まったく、そういうことを言うから…」
伊月さんは呆れたようにいうと、私の顔を覗き込んだ。
「な、何ですか。」
「顔が赤いぞ。」
「だって、伊月さんが近いから・・・」
「これから何をすると思う?」
「な、何って何ですか?」
伊月さんがもっと顔を近づけた。
唇がくっつきそうでつかない距離だ。
「何をしてほしい?」
「そ、そんなの、わかってるくせに...」
伊月さんはフッと微笑んだ。
「わからん。言え。」
時々伊月さんは意地悪だ。
意地悪モードのスイッチがあるみたいに。
でもそんな伊月さんが嫌じゃなくて、その甘い命令に従ってしまう。
「口づけて・・・欲しいです。」
私がそういうと伊月さんはゆっくりとキスをしてくれる。
強引な口調とは裏腹の甘くて優しいキスだった。
ゆっくりと口の中を蹂躙されて、胸の奥が苦しくなる。
だけど嫌じゃない。
それどころかもっとって思ってしまう。
私はしばらく伊月さんの熱い唇を受け止め続けた。
それはとても幻想的で美しかった。
さっきまで静寂に包まれていた空間に、人間のそれとは違った音色のおはやしが聞こえ始めた。
「わぁ。」
そして、足元には沢山の狐たちが祭りを楽しむように歩いている。
狐たちが私の足元を通り過ぎるたびに尻尾が当たってくすぐったい。
―― すごいモフモフしている!
ゆっくり歩く私たちの元に、狐の面を付けた男の人がやって来て、りんご飴を一本ずつくれた。
「ありがとうございます。」
お礼を言うとその男の人の体がスッと消える。
「あの、これ、食べてもいいんですか?って、もう食べてる。」
伊月さんの様子を伺うと、もうすでにりんご飴をしゃりしゃり頬張っている。
「普通にうまいぞ。」
「ふふふ。じゃあ私も頂きます。」
―― ん?
「あの、このりんご飴、食べたらすぐにカムナリキが回復しているのがわかります!」
「そうか?あの稲荷のはからいだろう。どうやら歓迎されているらしいな。」
そのまま夜店を冷やかしながら歩いていくと、一匹の狐が歩みよってきた。
「そこのお侍さん、弓を射てみないかい?」
狐が指さす方向を見ると、何匹か人間の姿をしているけど尻尾を出した狐たちが的めがけて弓を射ている。
的が遠いのか、なかなか的に当てられないでいる。
当てたとしても、真ん中にはほど遠い。
「あのかすみ的の中白に当てれば景品をやるぞ。」
その隣にある景品の山を見ると、可愛い狐のぬいぐるみや、お面がおいてあった。
「わぁ、可愛い。」
「何だ、欲しいのか? ならば弓を射よう。」
「その調子だぜ、お侍さん!」
狐に促されて、代金を払い、伊月さんが弓を取る。
それまで全然的に当てられなかった狐たちが弓を射るのを辞めて伊月さんに注目した。
「あれに当てればいいのか?」
「へい。」
「この距離でか?」
「へい。そうです。」
本当にいいのか…とつぶやきつつ伊月さんは的を見据えて、体制を整え、弓を引いた。
伊月さんの弓を引く姿が凛々しくて思わず見とれてしまう。
―― カッコいい…
ヒュンと、伊月さんの放った矢は風を切って、的の真ん中を射た。
うおお!と、周りの狐たちも私も歓声を上げ、拍手がなった。
何事かと野次馬ならぬ野次狐たちが集まって来る。
でも、何故か一人伊月さんは納得の行かない顔をしている。
「おい、店主、もう一本矢をくれ。全然威力が足りなかった。」
「何を言いますか。大当たりではありませんか。」
「いいから、もう一本、寄越せ。」
伊月さんは無理矢理代金を払い、もう一本矢を貰って弓を引いた。
今度も矢は風を切り、的の真ん中に当たった。
でも、今度はズドンッ!というすごい音がして、矢は的の後ろの分厚い巻き藁の向こう側にまで突き抜けていた。
「す、すごい!」
野次狐たちがわっと歓声を上げ、皆で拍手喝采を送る。
私も思わず狐たちときゃあきゃあ騒ぐ。
「伊月さんカッコいいです!」
「い、いいから、景品を選べ。」
伊月さんは私の背中を押して景品の山に連れて行った。
「私が選んでいいんですか? 伊月さんが弓を射たのに。」
「そなたのために射たのだ。」
「きゃー!嬉しい。じゃあ、これ。」
私は鍵を咥えている狐のぬいぐるみを選んだ。
―― うぅ。可愛い~。
嬉しくてぬいぐるみをきゅっと抱きしめた。
「そんな面妖な人形が好きなのか・・・」
「め、面妖って、可愛いじゃないですか。」
そこに狐の店主も反論してきた。
「面妖とは何だ!この人形は、この界隈で有名な俳優のコン吉様を模したものだぞ。コン吉様は一世一代の伊達役者で…」
「そ、そうか…。悪かった。」
店主の熱弁に伊月さんも押され気味だ。
「ところで、娘っ子。」
狐の店主が私に言う。
「もう一つ景品を選べ。このお侍さんは二本とも真ん中に当てやがったからな…」
「いいんですか?」
「いいも何も、そういう決まりだ。」
「わぁい!」
私はコン吉人形をもう一つ取った。
今度は口に玉を咥えているやつだ。
「そ、そんなにこれが好きなのか…?」
少し困惑気味の伊月さんに、ぬいぐるみをグイっと差し出す。
「一つは伊月さんのです。」
「は?」
「お願いです、もらって下さい。」
私は少し強引にコン吉人形を伊月さんの手に持たせた。
「な、なぜ…?」
伊月さんは困惑した顔をした。
―― う、強面の伊月さんがぬいぐるみ持ってるのって、なんだか…
ギャップ萌えして心臓が破壊されそうになったのを抑えて説明する。
「この旅の思い出に、伊月さんとお揃いのお土産が欲しいんです。だめですか? 」
「そ、そうか…。なら、貰っておこう。」
伊月さんはそれ以上反論せずにコン吉人形を貰ってくれた。
―― 良かった。
私たちは狐の店主にお礼を言って歩き始めた。
それからも狐たちは行く先々で昆布茶をくれたり、お団子をくれたり、踊りを見せたりしてくれた。
狐たちの踊りを見ていると、だんだんと千本鳥居の形が薄れていく。
「あ...」
次の瞬間、狐のお祭りのおはやしも聞こえなくなり、狐たちの姿も消えた。
気がつくと元の神社の敷地内にいた。
「どうやら、人間の方の祭りに戻ってきたらしいな。」
私たちは境内の裏にいるらしく、遠くから人の声やおはやしが聞こえるけど、
この周りには提灯もともってなかった。
「わぁ。すごい体験をしちゃいましたね。すごく楽しかったです。狐もみんなモフモフでかわいか・・・きゃ!」
急に伊月さんの手が私の腰に周って、体をグイっと引き寄せられた。
そのまま伊月さんは私の体をぎゅっと抱きしめた。
「い、伊月さん…」
伊月さんは私の肩に顔を埋めて深いため息をついた。
「今日一日、そなたが愛らしすぎて心臓がもたぬかと思った。」
「え?」
「ずっとこうしたかった。」
伊月さんはいつもの低く落ち着いた声で、でもどこか切なそうにそうささやいた。
そしてきつく抱きしめたまま私の髪の毛をそっと撫でた。
胸がきゅんとして私も伊月さんの背中にそっと手を回した。
「私も伊月さんがかっこよくて、ずっとドキドキしていました。」
「まったく、そういうことを言うから…」
伊月さんは呆れたようにいうと、私の顔を覗き込んだ。
「な、何ですか。」
「顔が赤いぞ。」
「だって、伊月さんが近いから・・・」
「これから何をすると思う?」
「な、何って何ですか?」
伊月さんがもっと顔を近づけた。
唇がくっつきそうでつかない距離だ。
「何をしてほしい?」
「そ、そんなの、わかってるくせに...」
伊月さんはフッと微笑んだ。
「わからん。言え。」
時々伊月さんは意地悪だ。
意地悪モードのスイッチがあるみたいに。
でもそんな伊月さんが嫌じゃなくて、その甘い命令に従ってしまう。
「口づけて・・・欲しいです。」
私がそういうと伊月さんはゆっくりとキスをしてくれる。
強引な口調とは裏腹の甘くて優しいキスだった。
ゆっくりと口の中を蹂躙されて、胸の奥が苦しくなる。
だけど嫌じゃない。
それどころかもっとって思ってしまう。
私はしばらく伊月さんの熱い唇を受け止め続けた。