私はオババ様と夕凪ちゃんに従って、屋敷の横にある研究室と呼ばれている建物へと足を踏み入れた。
長い棚が壁一面にあり、棚の上には手のひら大の色々な色の石が置いてあった。
棚の反対側には作業台が3台あって、簡単な台所っぽい場所もある。
オババ様が建物に入り、手をかざすと同時に、棚に陳列してあった青い色の玉が一斉に明るい光を放った。
「わぁー、綺麗!」
私は思わず歓声を上げる。
カムナリキは巫女の持つ、神に通じる力で、本来は神に感謝や願いを届けるために使われる。
神に願いを通じさせるには舞を舞ったり、音楽を演奏したり、歌を歌ったりする。
そしてその力を人のために使うこともできる。
ただ、人間界で使うのには、カムナの玉という特殊な石を媒体として使うことができないといけないらしい。
この石を使うのに修行がいるのだとか。
「オババ様は水の神様、龍神様の血を引いているので、こうやって水性のカムナの玉が反応するんです。」
夕凪ちゃんが説明してくれる。
「光の強さは、カムナリキの強さに比例する。」
オババ様が教えてくれる。
「オヌシは何のカムナリキがあるのか楽しみだな。」
私たちは小屋の奥へと進んでいくと、棚の奥に並んでいた黄色い玉が微かながら光始めた。
「お?」
オババ様が立ち止まる。
「あ! これが、那美ちゃんのカムナの玉ですね!」
夕凪ちゃんが嬉しそうに言った。
「那美、この玉を持ってみよ。」
手渡された玉を持つと、玉はキラキラと光った。
眩しくて目を細める。
「この玉は何ですか?私のカムナリキの種類って何でしょう?」
少しワクワクしながら尋ねる。
「これは雷石だ。」
「ライセキ?」
「雷ですよ。」
夕凪ちゃんが補足を入れてくれる。
「オヌシ、雷女じゃな!」
アッハッハとオババ様は豪快に笑った。
夕凪ちゃんも、那美ちゃんらしいですね、と笑っている。
―― えっと、異世界に来てライチュウ的なポジション?
「あのう、それで、雷のカムナリキって役に立つんですか?」
雷が落ちることって悪いイメージしかないけど。
「さあな。私もかれこれ1200年生きておるが、雷石が反応するカムナリキを持つものには初めて会った。」
「雷を落として、好まぬ人を焼いてしまうのはどうでしょう?」
夕凪ちゃんは可愛い顔で恐ろしいことを言った。
「カムナリキをどう人間界で使って役に立てるかを研究するのがワシの建てたこの研究室の役目でもある。」
ここには歴代のカムナ巫女たちが通って、色々な研究をしていたらしい。
「例えば、私のこの水神の力は破壊の力にもなりうる。洪水を起こし、水を腐らせ、病気を蔓延したりもできる。」
確かにそうだ。
「だが、理不尽に、自分勝手な理由でこの力を使えば、この世に害をなす悪しき魔獣や妖怪と変わらぬ存在となろう。」
私も夕凪ちゃんも大きくうなずいた。
「じゃあ、好まぬ人に雷を落とすのはダメですね。」
「当たり前じゃ。まぁ、しかし、私とて、この力を暴力的に使ったことがないと言えばないのだがな。」
―― え、そうなんだ。
「オババ様は悋気に当てられ、怒りで激流を起こし、尽世の果てに大穴をあけたとききました。」
「アッハッハッハ!まあそんなこともあった。若気の至りじゃ!」
―― いや笑えなくない?
―― それにしても、悋気って、焼きもちってことだよね?
「あの、オババ様の恋人っていうか、その、悋気の相手は誰だったんです?」
「私も知りたいですー!」
夕凪ちゃんがノッてきてくれた。
「なぁに、こんな婆の恋の話を聞いてどうする?」
と、言いつつも満更でもなさそうなオババ様を私と夕凪ちゃんが焚きつけて、恋バナ女子会に持ち込んだ。
「じゃあ、茶でも入れて団子でも食べながら、話すか。」
「わーぃ!」
オババ様の話によれば、それは500年か600年か前のこと。
オババ様がまだうら若き乙女だった時に、不思議な青年と出会った。
青年の名前は重治。
矢傷を負っていて、川に落ちていた。
それをオババ様が助けたのだそうだ。
その当時はまだこの当たりでは人も獣と変わらない生活をしていたそうだ。
農耕はしていたが、神も人も獣も異形も入り混じって生活していた。
国の規模も今よりは随分小さく、ちゃんとした政治基盤はなかった。
人は文字を知らず、農耕技術も拙かった。
「重治も異界から来たものだった。」
「え? そうなんですか?」
「ああ、そうだ。そして日ノ本から神の導きでこの世界に来たと言っておった。」
「そんな! 異界人は私だけじゃないんですね?」
「その通りだ。どうやらその日ノ本という所と、この世界は繋がりが深いらしい。」
とにかくその不思議な青年、重治は、民に文字を教え、歴を教え、効果的な農作の方法を教えた。
「他にも色々な技術を持っておった。武具を作る技術もあり、製鉄技術を飛躍的に促進した。」
やがてその青年は民からの信頼を得、当時の各地の王を征服して、小さな国々をまとめ、今のタマチ帝国の祖、始皇帝となったそうだ。
―― 同じ異界から来たと言ってもたくましさが違うな。
「日ノ本という所では名の知れた武将だったそうだ。だが、戦場で敵に殺されそうになった所で神隠しにあったそうだ。」
「殺されかけてこっちに来た状況は私と似ているかもしれないですね。」
「そのようだな。」
「それで、オババ様、どうやって恋仲になったんですか?そのお方とー?」
私はハッとする。
異界人ということで勝手な親近感を持ってしまっていたけど、この女子会の真の目的は恋バナだった。
「まあまあ、そう急かすな。 夕凪、私の水晶を持って来ておくれ。」
夕凪ちゃんが持ってきた大きな水晶玉に、オババ様は手をかざしてみせた。
その水晶に男女の姿が浮かび上がる。
「え? これって?」
「私と重治じゃ。記憶の一部をこうやって水晶に映しておる。」
「うわーオババ様、若い! 可愛い!」
夕凪ちゃんと私も大盛り上がり。
「そして、重治さん、イケメン!」
「イケメンとは何じゃ? 何かの麺か?」
「あ、私の世界の言葉でイケてるカッコいい、見目麗しい男性のことです。」
「そうか、そうであろう、イケメンじゃろう。」
オババ様は満更でもない様子でまた語り始めた。
「ワシのように見目麗しい乙女と、不思議な世界から来たイケメンが出会えば恋に落ちるも必須というもの。」
「そこ、自分で言いますか?」
夕凪ちゃんがしっかりと突っ込みを入れる。
てか、オババ様、イケメンって言葉しっかり使ってるし。
順応早い。
「とにかく、川から助け出し、矢傷を癒した私に会いに、重治はこのタカオ大社までよく来ていたのだ。それで・・・」
ようやく恋バナが始まるかと思いきや、「オババ様ー!」と、誰かの声が聞こえて中断となった。
長い棚が壁一面にあり、棚の上には手のひら大の色々な色の石が置いてあった。
棚の反対側には作業台が3台あって、簡単な台所っぽい場所もある。
オババ様が建物に入り、手をかざすと同時に、棚に陳列してあった青い色の玉が一斉に明るい光を放った。
「わぁー、綺麗!」
私は思わず歓声を上げる。
カムナリキは巫女の持つ、神に通じる力で、本来は神に感謝や願いを届けるために使われる。
神に願いを通じさせるには舞を舞ったり、音楽を演奏したり、歌を歌ったりする。
そしてその力を人のために使うこともできる。
ただ、人間界で使うのには、カムナの玉という特殊な石を媒体として使うことができないといけないらしい。
この石を使うのに修行がいるのだとか。
「オババ様は水の神様、龍神様の血を引いているので、こうやって水性のカムナの玉が反応するんです。」
夕凪ちゃんが説明してくれる。
「光の強さは、カムナリキの強さに比例する。」
オババ様が教えてくれる。
「オヌシは何のカムナリキがあるのか楽しみだな。」
私たちは小屋の奥へと進んでいくと、棚の奥に並んでいた黄色い玉が微かながら光始めた。
「お?」
オババ様が立ち止まる。
「あ! これが、那美ちゃんのカムナの玉ですね!」
夕凪ちゃんが嬉しそうに言った。
「那美、この玉を持ってみよ。」
手渡された玉を持つと、玉はキラキラと光った。
眩しくて目を細める。
「この玉は何ですか?私のカムナリキの種類って何でしょう?」
少しワクワクしながら尋ねる。
「これは雷石だ。」
「ライセキ?」
「雷ですよ。」
夕凪ちゃんが補足を入れてくれる。
「オヌシ、雷女じゃな!」
アッハッハとオババ様は豪快に笑った。
夕凪ちゃんも、那美ちゃんらしいですね、と笑っている。
―― えっと、異世界に来てライチュウ的なポジション?
「あのう、それで、雷のカムナリキって役に立つんですか?」
雷が落ちることって悪いイメージしかないけど。
「さあな。私もかれこれ1200年生きておるが、雷石が反応するカムナリキを持つものには初めて会った。」
「雷を落として、好まぬ人を焼いてしまうのはどうでしょう?」
夕凪ちゃんは可愛い顔で恐ろしいことを言った。
「カムナリキをどう人間界で使って役に立てるかを研究するのがワシの建てたこの研究室の役目でもある。」
ここには歴代のカムナ巫女たちが通って、色々な研究をしていたらしい。
「例えば、私のこの水神の力は破壊の力にもなりうる。洪水を起こし、水を腐らせ、病気を蔓延したりもできる。」
確かにそうだ。
「だが、理不尽に、自分勝手な理由でこの力を使えば、この世に害をなす悪しき魔獣や妖怪と変わらぬ存在となろう。」
私も夕凪ちゃんも大きくうなずいた。
「じゃあ、好まぬ人に雷を落とすのはダメですね。」
「当たり前じゃ。まぁ、しかし、私とて、この力を暴力的に使ったことがないと言えばないのだがな。」
―― え、そうなんだ。
「オババ様は悋気に当てられ、怒りで激流を起こし、尽世の果てに大穴をあけたとききました。」
「アッハッハッハ!まあそんなこともあった。若気の至りじゃ!」
―― いや笑えなくない?
―― それにしても、悋気って、焼きもちってことだよね?
「あの、オババ様の恋人っていうか、その、悋気の相手は誰だったんです?」
「私も知りたいですー!」
夕凪ちゃんがノッてきてくれた。
「なぁに、こんな婆の恋の話を聞いてどうする?」
と、言いつつも満更でもなさそうなオババ様を私と夕凪ちゃんが焚きつけて、恋バナ女子会に持ち込んだ。
「じゃあ、茶でも入れて団子でも食べながら、話すか。」
「わーぃ!」
オババ様の話によれば、それは500年か600年か前のこと。
オババ様がまだうら若き乙女だった時に、不思議な青年と出会った。
青年の名前は重治。
矢傷を負っていて、川に落ちていた。
それをオババ様が助けたのだそうだ。
その当時はまだこの当たりでは人も獣と変わらない生活をしていたそうだ。
農耕はしていたが、神も人も獣も異形も入り混じって生活していた。
国の規模も今よりは随分小さく、ちゃんとした政治基盤はなかった。
人は文字を知らず、農耕技術も拙かった。
「重治も異界から来たものだった。」
「え? そうなんですか?」
「ああ、そうだ。そして日ノ本から神の導きでこの世界に来たと言っておった。」
「そんな! 異界人は私だけじゃないんですね?」
「その通りだ。どうやらその日ノ本という所と、この世界は繋がりが深いらしい。」
とにかくその不思議な青年、重治は、民に文字を教え、歴を教え、効果的な農作の方法を教えた。
「他にも色々な技術を持っておった。武具を作る技術もあり、製鉄技術を飛躍的に促進した。」
やがてその青年は民からの信頼を得、当時の各地の王を征服して、小さな国々をまとめ、今のタマチ帝国の祖、始皇帝となったそうだ。
―― 同じ異界から来たと言ってもたくましさが違うな。
「日ノ本という所では名の知れた武将だったそうだ。だが、戦場で敵に殺されそうになった所で神隠しにあったそうだ。」
「殺されかけてこっちに来た状況は私と似ているかもしれないですね。」
「そのようだな。」
「それで、オババ様、どうやって恋仲になったんですか?そのお方とー?」
私はハッとする。
異界人ということで勝手な親近感を持ってしまっていたけど、この女子会の真の目的は恋バナだった。
「まあまあ、そう急かすな。 夕凪、私の水晶を持って来ておくれ。」
夕凪ちゃんが持ってきた大きな水晶玉に、オババ様は手をかざしてみせた。
その水晶に男女の姿が浮かび上がる。
「え? これって?」
「私と重治じゃ。記憶の一部をこうやって水晶に映しておる。」
「うわーオババ様、若い! 可愛い!」
夕凪ちゃんと私も大盛り上がり。
「そして、重治さん、イケメン!」
「イケメンとは何じゃ? 何かの麺か?」
「あ、私の世界の言葉でイケてるカッコいい、見目麗しい男性のことです。」
「そうか、そうであろう、イケメンじゃろう。」
オババ様は満更でもない様子でまた語り始めた。
「ワシのように見目麗しい乙女と、不思議な世界から来たイケメンが出会えば恋に落ちるも必須というもの。」
「そこ、自分で言いますか?」
夕凪ちゃんがしっかりと突っ込みを入れる。
てか、オババ様、イケメンって言葉しっかり使ってるし。
順応早い。
「とにかく、川から助け出し、矢傷を癒した私に会いに、重治はこのタカオ大社までよく来ていたのだ。それで・・・」
ようやく恋バナが始まるかと思いきや、「オババ様ー!」と、誰かの声が聞こえて中断となった。