やがて、どの競技も優勝者が割り出された。
「しばし、休憩をはさんだ後、半刻後に、優勝者への受賞の儀を執り行う。その間、料理と追加の酒をお出しする。御観客の方々も、協議参加者も、大いに飲んで食べて、受賞の儀までひとときお楽しみあれ。」
正次さんが競技終了のアナウンスをすると、皆がリラックスして、料理を食べ始めたり、酔っぱらっている人たちが踊り始めたりした。
―― 酔いが回ってきちゃった。
伊月さんの方を見ると、もうキヨさんはどこかに行っている。
―― 私はもう帰らせてもらおうかな。月の峠に行くのも断ろう。全然そんな気分になれない。
私はこの後、伊月さんへの想いをあきらめて、思いっきり部屋で泣くと決めた。
―― でも、一応、あの黒く渦巻く気のことは伝えないと。
私は意を決して、伊月さんの所に行こうと決心する。
席を立って移動しようとすると…
―― あっやばい、この感じ!
足が思いっきりしびれて、立った瞬間、足に痛みがはしった。
酔いがまわっていたのもあったかもしれない。
伊月さんの座っている壇上に上がった瞬間、足がもつれてしまった。
「きゃぁ!」
思いっきりヨロヨロと伊月さんの方向へ身体が倒れ込んでいく。
それを見た伊月さんは慌てて立ち上がった。
「那美どの? 大丈夫か?」
そして最悪なことに、とっさに伊月さんの袖の端を掴んだまま壇上から足を踏み外してしまった。
伊月さんも私を支えようとしてバランスをくずし、二人一緒に檀上から転げ落ちた。
オババ様が伊月さんへ恥をかかせないようにと何度も念を押したときのことが走馬灯のように頭の中を駆け巡り、転げ落ちながら罪悪感と羞恥心でいっぱいになる。
―― うっ…ごめん、なさい…
その時、
ドン!と大きな音がして、伊月さんの席の後ろにあった屏風がはじけ飛んだ。
屏風を見ると、矢が刺さっている。
「え?」
床に転がったまま目を瞬かせていると、伊月さんは私を立たせた。
「危機一髪だったな。そなたに命を救われた。」
「危機?」
とたんに、正次さんが叫ぶ。
「敵襲だ! 皆のもの、出あえ、出あえ!!」
源次郎さんと平八郎さんが、さっと伊月さんと私の前に出て、かばう体制を取る。
「あちらだ!追え!」
伊月さんが指さした方に、立っている男の人が、伊月さんをまっすぐ狙って弓に手をかけている。
伊月さんは私を突き放し、「源次郎、那美どのをお守りしろ。」と、言った。
すぐさま源次郎さんは私の手を引いて、建物の奥に連れて行った。
伊月さんは、サッと刀を抜いて、自分に飛んで来た矢を切り落とした。
その直後、大きな盾を持った伊月さんの家臣団が一斉に走り寄ってきた。
置き盾の一隊は観客席の周りをぐるりと取り囲み、矢が当たらないように皆を守る。
伊月さんも私の所に小走りにやって来た。
「怪我はないか?」
「もしかして、今の、伊月さんの暗殺…?」
「どうやら那美どのは私の命を救ったらしいな。」
そういうとニコッと笑う。
―― な、何でこんな時にこんな余裕の笑み?
「御観客の方々を上階に移動させよ。」
伊月さんが声を張り上げると、一斉に兵が人々を誘導する。
置き盾の一隊の向こう側から正次さんの声がする。
「射手はとらえましたが、他にもまだあの林に伏兵がいるようです。私はこのまま追撃します。殿は安全な場所へお引き下さい。」
「わかった、ぬかるな。」
「は。」
―― 私も焦ってる場合じゃない…。 言わないと!
「あの、伊月さん、前に城下町で感じた黒く渦巻く気があっちの方から感じられます。」
「そうか。やはりな。よし、移動するぞ。堀に追撃をやめさせろ。あれは罠だ。それよりも、翼竜にそなえろ。」
私の言葉を受けて、伊月さんが素早く指示を出した。
源次郎さんは、旗をふって、正次さんにシグナルを送る。
すると、正次さんの兵がピタっと止まり、やがて例の黒い気が渦巻く方向へと踵を返した。
―― すごい連携プレーだ!
大変な状況なのに、私は伊月さんたちの対応の速さに感心していた。
そして、伊月さんの落ち着いた様子には、私も含め、皆がパニックに陥るのを防いだ。
「皆様のことは共舘軍がお守りする!ご安心されよ!」
伊月さんは招待されて来ていた観客にも、競技に参加していた若者たちにも言った。
「助太刀いたします!」
でも、観客や競技参加者も武士や、武士になりたい荒くれ者たちだ。
黙って守られているつもりはなさそうだ。
沢山の人たちが正次さんの隊へと加勢しに加わった。
「しばし、休憩をはさんだ後、半刻後に、優勝者への受賞の儀を執り行う。その間、料理と追加の酒をお出しする。御観客の方々も、協議参加者も、大いに飲んで食べて、受賞の儀までひとときお楽しみあれ。」
正次さんが競技終了のアナウンスをすると、皆がリラックスして、料理を食べ始めたり、酔っぱらっている人たちが踊り始めたりした。
―― 酔いが回ってきちゃった。
伊月さんの方を見ると、もうキヨさんはどこかに行っている。
―― 私はもう帰らせてもらおうかな。月の峠に行くのも断ろう。全然そんな気分になれない。
私はこの後、伊月さんへの想いをあきらめて、思いっきり部屋で泣くと決めた。
―― でも、一応、あの黒く渦巻く気のことは伝えないと。
私は意を決して、伊月さんの所に行こうと決心する。
席を立って移動しようとすると…
―― あっやばい、この感じ!
足が思いっきりしびれて、立った瞬間、足に痛みがはしった。
酔いがまわっていたのもあったかもしれない。
伊月さんの座っている壇上に上がった瞬間、足がもつれてしまった。
「きゃぁ!」
思いっきりヨロヨロと伊月さんの方向へ身体が倒れ込んでいく。
それを見た伊月さんは慌てて立ち上がった。
「那美どの? 大丈夫か?」
そして最悪なことに、とっさに伊月さんの袖の端を掴んだまま壇上から足を踏み外してしまった。
伊月さんも私を支えようとしてバランスをくずし、二人一緒に檀上から転げ落ちた。
オババ様が伊月さんへ恥をかかせないようにと何度も念を押したときのことが走馬灯のように頭の中を駆け巡り、転げ落ちながら罪悪感と羞恥心でいっぱいになる。
―― うっ…ごめん、なさい…
その時、
ドン!と大きな音がして、伊月さんの席の後ろにあった屏風がはじけ飛んだ。
屏風を見ると、矢が刺さっている。
「え?」
床に転がったまま目を瞬かせていると、伊月さんは私を立たせた。
「危機一髪だったな。そなたに命を救われた。」
「危機?」
とたんに、正次さんが叫ぶ。
「敵襲だ! 皆のもの、出あえ、出あえ!!」
源次郎さんと平八郎さんが、さっと伊月さんと私の前に出て、かばう体制を取る。
「あちらだ!追え!」
伊月さんが指さした方に、立っている男の人が、伊月さんをまっすぐ狙って弓に手をかけている。
伊月さんは私を突き放し、「源次郎、那美どのをお守りしろ。」と、言った。
すぐさま源次郎さんは私の手を引いて、建物の奥に連れて行った。
伊月さんは、サッと刀を抜いて、自分に飛んで来た矢を切り落とした。
その直後、大きな盾を持った伊月さんの家臣団が一斉に走り寄ってきた。
置き盾の一隊は観客席の周りをぐるりと取り囲み、矢が当たらないように皆を守る。
伊月さんも私の所に小走りにやって来た。
「怪我はないか?」
「もしかして、今の、伊月さんの暗殺…?」
「どうやら那美どのは私の命を救ったらしいな。」
そういうとニコッと笑う。
―― な、何でこんな時にこんな余裕の笑み?
「御観客の方々を上階に移動させよ。」
伊月さんが声を張り上げると、一斉に兵が人々を誘導する。
置き盾の一隊の向こう側から正次さんの声がする。
「射手はとらえましたが、他にもまだあの林に伏兵がいるようです。私はこのまま追撃します。殿は安全な場所へお引き下さい。」
「わかった、ぬかるな。」
「は。」
―― 私も焦ってる場合じゃない…。 言わないと!
「あの、伊月さん、前に城下町で感じた黒く渦巻く気があっちの方から感じられます。」
「そうか。やはりな。よし、移動するぞ。堀に追撃をやめさせろ。あれは罠だ。それよりも、翼竜にそなえろ。」
私の言葉を受けて、伊月さんが素早く指示を出した。
源次郎さんは、旗をふって、正次さんにシグナルを送る。
すると、正次さんの兵がピタっと止まり、やがて例の黒い気が渦巻く方向へと踵を返した。
―― すごい連携プレーだ!
大変な状況なのに、私は伊月さんたちの対応の速さに感心していた。
そして、伊月さんの落ち着いた様子には、私も含め、皆がパニックに陥るのを防いだ。
「皆様のことは共舘軍がお守りする!ご安心されよ!」
伊月さんは招待されて来ていた観客にも、競技に参加していた若者たちにも言った。
「助太刀いたします!」
でも、観客や競技参加者も武士や、武士になりたい荒くれ者たちだ。
黙って守られているつもりはなさそうだ。
沢山の人たちが正次さんの隊へと加勢しに加わった。