グイっと腰を引き寄せられ、それと同時に、噛みつくような口づけをされた。
上唇を食まれ、下唇を食まれ、その後もずっと唇のあちこちをついばむようなキスが落ちて来る。
でも全然足りなくて、もどかしい気持ちが募る。
「あのっ...ん...あっ...」
思わず、懇願するような、はしたない声が漏れた。
「なみ...どの…」
伊月さんは、余裕のない声で私の名前を呼びながら、性急に舌を押し入れて来た。
「ん...あっ..んんっ。 はぁ。」
熱くてとろとろの舌で口の中を舐めまわされる。
思わずコクリと飲んだ唾液は甘くて頭がくらくらした。
「んっ...だめ...あ...」
体に力が入らなくなって、震え始めても、それでも口づけをやめてくれない。
すがるように伊月さんの首にそっと両腕を回した。
その瞬間、伊月さんの体重がそっとおおいかぶさって、二人して布団の上に横たわった。
伊月さんはそのまま、私の首や耳にキスを落とし始める。
「きゃぁ、あ、まっ・・・て・・・」
「もっと那美どのの声を聞きたい。」
伊月さんが掠れた余裕のない声を私の耳元に流し込む。
また首にキスをして、いつかしたように、私の着物の襟元をあけ、鎖骨の下を吸った。
「はぁ、はぁ。まって・・・あっ」
伊月さんの息遣いも荒くなった。
「はぁ、な、み...どの...んっ」
そして、激しいキスをしながら、私の二の腕や腰を撫でた。
大きくて暖かい手が、薄い寝間着の上を撫でるたびに肩が震えた。
伊月さんは一旦体を起こして私を見下ろし、頬を撫でた。
「可愛い。」
そういうと、また、得物を狙う獣のような目をした。
ツっと舌なめずりをして、そっと、私の襟に指を滑りこませる。
「あのっ…」
そして、ゆっくりと着物の上半身を暴かれて、私の胸元が露になった。
隠そうとする私の腕を伊月さんが捕らえた。
伊月さんは遠慮なしに私の胸を見た。
「綺麗だ。」
「み、見ないで…」
「見られているだけで、どんどん赤くなってきている。」
「や、やめ…きゃぁ」
恥ずかしくて隠そうとする私の腕を押しのけて、伊月さんは私の乳房を触った。
首に、肩に、たくさんキスを落としながら私の胸を触り続ける。
キスがどんどん下に落ちてきて、やがて私の乳房に唇が触れる。
言い知れない初めての感覚に私は圧倒されそうになる。
「や…んん!」
「ここが、いいのか? とても、硬くなっている。」
伊月さんは耳元で囁きながら、私の胸の頂点を触った。
「あ...だめ!あ...」
伊月さんは足を絡めて私の足をぐっと開いた。
太ももの内側に伊月さんの、熱くて硬いものが当たった。
―― これって、もしかして…。
なぜか腰の当たりから、ぞくぞくっと鳥肌がたった。
さっきまで私の胸を触っていた大きな手がお腹の上を滑って、私の太ももを撫でた。
「きゃぁ...あっ、い、いつき、さん...」
「もっと声を聞きたい。」
伊月さんは私の耳を舐めながらそういって、着物の腰ひもを解こうとした。
その時、窓がカタカタと鳴った。
伊月さんはピタリと動きを止めた。
「...く、くそ…!」
「な、な...に...??」
伊月さんの表情がみるみるうちに、酒呑童子もビックリのすごい怖い形相になった。
血管が浮かぶほど強く、こぶしを握りしめて、ゆっくりと半身を起こした。
そのまま恐ろしい形相のままで、肩を怒らせながら、でも、私の乱れた寝間着を優しくそっとなおした。
「清十郎が呼んでいる…。行かなくては…。」
伊月さんは悔しそうに言って私にチュっと短くキスをして、髪を撫でた。
「那美どの…早く全てを終わらせて、ゆっくり会いたい…。こんなことでは二か月分を取り戻せないぞ!」
伊月さんも自分の着物の乱れを直した。
部屋を出て行こうとする伊月さんを追って、一緒に露台に行こうとするけど、止められる。
「そんな顔を清十郎にも見せたくない。」
もう一度、私をぎゅっと抱きしめて、ゆっくりキスをした。
「文を書く」と言って、伊月さんは私の部屋を出て行った。
―― ひどい。
―― ずるい。
―― こんな風にかき乱して出ていくなんて。
そう一瞬思ったけど、でも、会いに来てくれて嬉しかった。
余裕のない伊月さんの顔を思い出して、言い知れないほど幸せな気持ちになった。
―― 寂しいって思ってたの、私だけじゃなかった。
ふと床を見ると、転がっている伊月さんの根付を見つけた。
―― 落としちゃったみたいだな。
いつもは、伊月さん、途中で止めて、くそぉぉって、叫んで、少しウロウロ歩いて、それで落ち着きを取り戻すのに…。
今日は、もう、最後までしそうな勢いだった。
少し、びっくりしたけど、正直、嫌じゃなかった気がする…。
愛されてるって、求められてるって感じた。
そして、何より、気持ち良すぎて、抵抗できなかった。
ふと、太ももに当たった、伊月さんの熱くて硬くなったものの感触を思い出した。
思い出しただけで、また、背筋がぞくぞくとする。
―― 伊月さん、私で興奮してくれたってこと?
―― どうしよう...。すごく恥ずかしいけど、すごく、嬉しいかも。
―― そろそろ、覚悟を決めないと。年も年なんだし。
私は拾い上げた根付にそっとキスをした。
――――
私が自分で清十郎に言いつけたことだ。
四半刻経ったら、呼ぶように、と。
―― しかし、何だこの敗北感と焦燥感と怒りは!!!!
私は、宇の湯殿で危うく那美どのを無理矢理に抱こうとしてしまって、深く反省し、自分を厳しく律していた。
自分の屋敷で一緒に風呂に入った時も、那美どのが私の屋敷に泊まった時も、湖で屋形船に乗った時も、那美どのの背中の怪我の手当てをしていた時も、一緒に添い寝した時でさえ、我慢した。
だが、戦から帰ってきて、気が抜けていたのか、久々に那美どのと触れ合ったら、このザマだ。
二か月ぶりに見る那美どのが可愛くて美しくて愛おしすぎて、触れたくて仕方なかった。
実際に触れたら止められなかった。
―― 那美どのを抱くのは夫婦になってからと自分で誓いを立てたではないか!
―― 那美どのから欲してくれるのを待つと戦略を立てたではないか!
いとも簡単に誓いを破りそうになった自分が悔しい。
いとも簡単に戦略を台無しにしそうになった自分が情けない。
―― 那美どのは手強すぎる。
心のどこかでは、わかっていたことだ。
那美どのに抗えない自分がいることを。
だから、清十郎に言いつけた。
四半刻経ったら、呼ぶように、と。
それ以上那美どのの部屋にいたら自分がどうなるか分かっていたから。
それに那美どのは明日も仕事があるから、自分の勝手で夜更かしさせたくなかった。
私が自分で清十郎に言いつけたことだ。
―― なのに何なんだ、この激しい怒りは!!!!
あんなに、いとも簡単に我慢できなくなるとは...
「あ、主、きょ、今日は十五夜ですね。」
亜城に戻る途中、清十郎が何か適当な話題を探しているかのように、とってつけたかのような口調で言った。
月を見上げると、なるほど、見事な満月だ。
白く輝く二つの丸い月は、まるであの、那美どのの、とろけるように柔らかくしっとりとした乳房のように美しいではないか…
―― わ、私は何を考えている!!!
バチン!
私は自分の両頬を叩いた。
「あ、主… どうかされましたか?」
「今夜は月のことは言及するな。」
「しょ、承知。」
夫婦になるまで辛抱しようと思っていたが、私はこのまま辛抱できるのか。
八咫烏は女の城攻めは忍耐戦だと言ったが、あいつはどれくらい辛抱できるのか。
「清十郎。」
「は。」
「城攻めは難しいな。」
「そ、そうですが、主は今回5つもの城を落としました。たったの二か月で、です。大快挙にございます。」
―― そんな私でも、一つだけ落とせぬ城がある…。難攻不落とはこのことだ。
私はそれは言わずに清十郎と城に帰り、眠れぬ夜を過ごした。
眠れぬついでに仕事を大量に終わらせた。
とにかく、心頭を滅却して、目の前の仕事に集中すべし!