指先から辿るようにわたしを見上げた橋田くんの目には鋭さがあって身体が竦む。

決して睨まれているわけではないのに、射竦めて逃さないような、そんな意思が見え隠れしていた。


わたしが葵衣に向けた目は、きっとこんなではなかった。

情けなく震えて、情の色だけを滲ませた、何とも滑稽な姿だったのだろう。


「もう、知ってるかもしれないけど。俺、真野さんのことが好きです」


恥ずかしいだとか嬉しいだとか。

そんな感情は一切湧かない。


ただ、その気持ちを何に隔たれることもなく伝えられる橋田くんが羨ましい。

同時に、橋田くんに葵衣を重ねようとする自分が心底嫌になった。


目の前にいるのは橋田くんだ。

どうしてわたしのことを、と思わないわけではないけれど、理由を考えたってそこへは行き着かない。

わたしが葵衣を好きな理由の説明ができないように。


「わたしは」


好きな人がいる。

誰よりも大切で、誰にも代えられない人。


伸ばした手が繋がることはなく、繋がってはいけないと知っているけれど、わたしは葵衣を好きでいたい。

それだけは、数多のものと引き換えに許されることだと思うから。


「……ごめん」


踏み込まれると危ういから、好きな人の存在すら明かせずに、一番言いたくなかった一言を吐く。