どうして、葵衣があんな顔で笑うの。

傷付いたような、その先を望んでいたような顔で。


見なきゃよかった。

触れなきゃ、よかった。


急激に薄れていく葵衣の体温を閉じ込めていたくて、胸の上に右手を重ねる。

残された葵衣の熱、その残留が移るよりも前に、大袈裟に拍動する心臓の音が、手のひらに伝わってきた。


友紀さんや日菜、そしてもうひとりの幼馴染みである慶と一緒にいるときのように、大人しく動いてくれなきゃ困るんだってことを、わたしの心臓はわかっていない。

おかしくなってしまっているんだ。

生まれる前からいちばん近くにいる体温に触れて、びっくりするのはおかしい。


葵衣だよ。双子の、兄なんだよ。


心臓の真上辺りを撫でて、そう言い聞かせる。

けれど、もう薄れて消えてしまった葵衣の体温に縋るように、鼓動の音は大きくなるばかりだった。