未来を諦めることばかりを見ていたわたしとは違い、葵衣は共にいる未来を望んでくれていた。
一年前、半ば暴走気味に想いを伝えようとしたときでさえ、直接的な言葉を返してくれなかったことを心底恨んで悲しんだけれど、きっとあのとき、葵衣だって奥歯を噛み締めていた。
何も諦めないという選択がどれほど難しいことなのか、歯向かうことだけにもどれほどの強さが必要なのか、知らないながらにわかっていた。
まだぶつかったことのない世間体に怯えて、葵衣への想いをそっと殺そうとするたびに、止めてくれたのも葵衣だった。
色々な思いが巡り巡って、葵衣の首に腕を回す。
身体を屈めて受け止めてくれる葵衣に、募る愛おしさが止められなかった。
葵衣、アオイ、あおい。
もし、生まれる前に戻って、葵衣と双子になることや葵衣を好きになることがわかっていたのなら、わたしはこの心ごと握り潰して恋心なんて抱かないように誓ったでしょう。
けれど、この心を殺してしまったら、叶わぬ恋を葵衣ひとりに抱えさせてしまっていた。
わたし達は最初からひとつではなかった。
それでも、広い世界を知って、これよりまだ広い世界の存在を知って、惹かれ合うことは当たり前のことではない。
傷付けて、傷付いて、双子であることの困難にぶつかることは、これまでよりもこの先に多いだろう。
「三年後、ストレートで卒業してすぐに花奏を迎えに行けるわけじゃないから、もっと時間はかかる」
「待ってるよ。わたしも強くなる」
「離れている間、俺は花奏を繋いだりしない。帰ってきたときに花奏のそばに誰かがいても構わない。祝福は出来ないかもしれないけど」
「……葵衣、そんなこと言わないで」
「もう嘘はやめるんだろ。これは俺の本心。花奏の心が揺らぐことがあったら、そのときは絶対に嘘を吐かないって約束、できるか?」
耳元で燻る声が愛おしくて、問いかけというよりも促されている気分になる。
流されて、適当にしていい返事ではないことは分かっているけれど、埋めて動かしづらい顎を引いて、頷いた。
橋田くんの願いが、叶ってしまう。
葵衣はいつか、好きだった人になることを疑わず、葵衣にとってもわたしは好きだった人になるはずだったのに。
今日が過ぎて、明日が来てもこの夢が覚めないのなら、一番に伝えたい。
背中を押してくれた日菜と。
背中を叩いてくれた慶と。
背中を見せてくれた、橋田くんに。