「はは。そうなんだよねー……そうそう。海神って言っても、大したことないよな。夢の中で妻をどんなに抱いても、意味などないのに」

 この前に私の夫となった紫電さまをせせら笑うような、虎太が信じられなかった。

 私と虎太と知り合ったのは雪で道が見えなくなって迷っていたのを、彼に麓まで送り届けてあげたことで始まった縁だった。

 それからも折々に頂上付近にまで私を訪ねて来る可愛い彼に、親切にしたつもりだった。まさか、私の結婚を知ってこんなことをするなんて思わずに。

「ひどい! そんなことしても……私は、虎太と一緒になったりしないわ! だって、私が好きなのは、紫電さまだもの!」

 紫電さまは、とても優しく穏やかな性格だ。海神の地位を持ち整った容姿を持つというのに、全く奢ったところがない。女性が、好きになってしまう要素しかない。