虎太は道を歩いている私の隣に、当たり前のように寄り添った。その近さには、少し違和感があった。いつもより、なんだか近いように思えたからだ。

「あ。お祝いに来てくれたの? 私は、誰からも何も聞いていなかったけど……」

 何か手違いがあったのかもしれないと首を傾げた私に、虎太ははーっとわざとらしく大きな溜め息をついた。不思議そうな表情をする私を見て、いつものように頬を人差し指で押した。

「だろうねー……あの海神。俺のこと、何も言ってないのかよ。花嫁にすりゃ、後はなんとかなるって? はーっ! まじでムカつく……まあ……良いか。こうして、雪風に会えたし」

「……虎太?」

 にやっと不敵に笑った虎太は、戸惑っている私の肩を抱いて無理に方向を変えて進んだ。

「ねえ。雪風。そういう権力なんかに興味のない君は、何も知らないと思うんだけど。俺も猫又族の族長の息子でね。出来たら……雪風をどうにかして嫁にしたいなって思ってたんだ。雪女の君には、住むところの問題とかもあるから。親父がまだダメって言ってて……そんな事をしている内に、海神に横からかっさらわれた」

「えっ……虎太……待って。待って! 私。もう紫電さまの妻だから。もう……」