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「おー……雪風ー。久しぶり」

 暗い気分を、少しでも変えてみようと眠い目を擦りながら邸の外を歩いていたら、幼馴染の虎太が声を掛けて来た。

「え? 虎太? なんで、こんなところにいるの?」

 私は、良く知っている猫又の彼がここにいることが素直に不思議だった。

 私たち雪女は、もちろん雪の降る山の頂上付近に住んでいる。彼ら猫又の集落があるのは、雪の降らない山の麓だ。

 だから、元々住んでいた山で私と彼は幼馴染と言っても冬の間に会うだけだった。茶色い猫耳と可愛らしい顔を持つ彼は、とても心外だと言わんばかりに眉を顰めて肩竦めた。

「俺は一週間前の雪風の婚礼の日から、こっちの山に来ていたんだよ。雪風に会いたいって言っても。あいつら、なかなか会わせてくれなくて」