朝の光の中で起き立ての気だるげな様子を身に纏い紫電さまは私の頭を撫でて、一緒に寝ていた布団から一人立ち上がり去って行ってしまった。紫電さまの仕事場は、ここから遠い。こんな早朝に起きるのも、すべて私のためだ。

 彼が気にするように私がなんだか疲れた顔をしているのは、ここのところ良く眠れぬせいだ。

 何故かと言うと、是非にと乞われて結婚したはずの夫に初夜から全く手を出されていない。紫電さまは婚礼の日から、一週間近く私をそういう意味で抱いていない。

 あれよこれよと言う間に、婚礼の日が決まった。男女の恋愛をしたと言える期間は、とてもとても短かった。

 雪女である私の性質上、雪山から離れられない。気温が高いと、どうしても体調を崩してしまうからだ。

 だから、紫電さまは私の故郷に近い山の頂上付近に大金を使って、大きな邸を建てた。

 そんな理由で彼は、自分が任されている海まで毎朝わざわざ時間を掛けて長距離出勤をして通っている。

 そういった流れは、とても私のことを愛していそうに思える。けれど、私と共に布団へと入れば、彼はこてんとすぐに寝入ってしまう。